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11.冥府に着けど目的は遠く

「そあら、おはよー」


「おはよーですわクレハさん、ふわぁ……」


 軽い欠伸をしながらわたくしと相部屋のクレハさんに挨拶を返しますわ。

 冥府に送り込まれて早三十日、となりのベッドでは眠そうに目を擦るクレハさんが居ますわ。

 彼女は冥府に鉄砲玉として送り込まれたわたくしを見つけて、わたくしを亡者と勘違いしてホームに引き入れた冥府メイドの先輩ですわ。


「じゃあ、今日も一日頑張ろー」


 そう言って、クレハさんはベッドから全裸で這い出ますと、ノソノソと傍にたたんで置いてある下着とメイド服を着始めますわ。

 その様子を横目にわたくしもベッドから出てメイド服に着替えながら心の中で思いますわ。


 拝啓、お父様、お母様、じいや。

 わたくし、竜宮木(たっきゅうぎ)そあらは毎日が月月火水木金金の状態でメイドとして働いておりますわ。

 冥土でメイドしてるとはこれ如何に……。



      ◇



 異世界の冥府、そこは世界全体が冥府の女主人の宮殿として存在している。

 基本、宮殿の中ではその世界の神も人間も例外なく冥府の女主人が絶対的な存在として逆らう事が出来ない。

 ゆえに冥府の女主人にとって亡者は奴隷であり、仕事は配下の者に丸投げし自身は人間を弄んで暇をつぶす。

 

 冥府の女主人は残虐だ。だから、冥府の亡者達や配下の者達は誰も目を付けられないように目立たないようにしている。


 だから、冥府の誰もが願っている。

 

 あの陰険クソ女、さっさと痛い目にあわねーかな、と。



      ◇



 なんでも、この冥府は世界全体が大陸規模の宮殿であり、冥府の女主人は宮殿の管理を配下の者に任せきりとの事ですわ。

 ただ、配下の者達だけでは宮殿と言う名の世界の管理はままならず、だから死んで冥府に落ちた亡者たちは女主人の配下の手下となり働かされる事になるとの事。死んでからも働かされるとは、そこはかとなくブラックですわね。

 ちなみに冥府の女主人の配下の者が亡者を手下にするのは早い者勝ちとの事ですわ。だから配下達は自身の手下に手付かずの亡者をリクルートする事を推奨していますわね。


 ただ、基本的に亡者は冥府の宮殿の玄関に現れるため、そこを門番の役割ゆえに縄張りとする女主人の配下の三チームに人材を根こそぎ持っていかれるとの事ですわ。

 だから宮殿内を縄張りとしてる数多の女主人の配下達は人材不足に悩んでいるようでして。

 わたくしの様に宮殿にポーンっと現れるのは稀な事のようですわ。


 それでクレハさんが自身の上司である冥府の女主人の配下の一人、オルルルルルさんに新しい人員として私を引き会わせた際、オルルルルルさんは凄く喜んでいましたわ。

 

 さて、そんな宮殿ですが内部は愉快な事になっておりますわ。

 わたくしが最初に居た廊下からは分かりませんでしたが、クレハさんに連れられて入った部屋の中を初めて見た時は驚きましたわ。

 なにせ部屋の中は室内でありながら広大な空間が広がっていまして、そこに大きな西洋風の屋敷が建っていましたのですから。

 どうやら冥府の女主人の配下は全員がこの様な部屋を女主人から与えられていて、そこが配下と亡者の(ホーム)と言う事ですわ。

 

 まあ、わたくし達の(ホーム)はわたくしとクレハさんとオルルルルルさんの三人しかいませんが。

 人数に対しては大きすぎる屋敷。使われてない部屋も多く、そのほとんどは開かずの間と化していますわね。

 クレハさんは屋敷全体を掃除するのは時間の無駄だから、基本は普段使われている場所だけで良いと言っていましたわ。

 その屋敷の廊下をわたくしは朝食の乗ったワゴンを押して進みますわ。

 そうして目的の場所、食堂のドアを開けますと物語などでよく見る凄く大きなテーブルの席に左腕が無く左目を革製の眼帯で覆った女性が座っておりますわ。

 その隣にはクレハさんが当然のように座っておりますが。

 

「朝食をお持ちいたしましたわ、オルルルルル様、クレハさん」


「待ってたよーそあら、今日はなにー?」


 いつも通りの間延びした声をわたくしに掛けるクレハさん。

 わたくし達の主であるオルルルルル様はわたくし達を家族として扱ってくれる方なので、クレハさんは主が居ても居なくてもいつもこんな感じですわ。

 そんな彼女に今日のメニューを伝えながらわたくしはもう一人の温和な女性、オルルルルル様へ朝食を配膳しますわ。


「どうぞ、オルルルルル様」


「今日もありがとう、そあら。

 やっぱり料理はこう美味しそうでなければいけないですね」


 そう言って微笑むオルルルルル様に、わたくしは曖昧な笑みを返しましたわ。

 冥府の食事は朝晩の二回。昨日はその二回とも食材をダメにして、結果として水と保存食の固い黒パンを出したクレハさんは目をそらしていましたわ。



      ◇



 冥府の女主人の配下の一人、オルルルルル様。

 蛇の鱗の様なしっとりとした長い黒髪に、垂れ目気味なアンバーな瞳の西洋美人さんですわ。

 普段から男装をしている彼女は、その黒一色の召し物と相まってまるで冥府の男装の麗人ですわ……そのままですわね。

 そんなオルルルルル様には左腕が無く、そして左目も潰れているらしく革製の眼帯で隠していますわ。

 何があったのかそれとなく聞いてみましたが、オルルルルル様もクレハさんも曖昧に笑って濁すだけで真相は分からず仕舞いですわね。

 まあズカズカと踏み入るのもアレなので一回聞いたきりで止めておりますが。


「さて、これで終わりですわ」


 お朝食の後、後片付けを終わらせたわたくしはキッチンに備え付けられた木の丸椅子に腰を落として思案しますわ。

 この冥府に来た目的、カリエさんの魂を冥府の女主人から盗み出す事について。

 禁術、亡者転生によりカリエさんの魂は冥府の女主人に囚われている、つまり異世界の冥府にあるという事。

 そのため、わたくしの魂は直接異世界の冥府に鉄砲玉の如く送り付けらえたのですが、一ヶ月ぐらい経ちましたがカリエさんの魂の在処(ありか)どころか冥府の女主人の居場所にすらたどり着けず御ハーブも生えない状況ですわ。

 オルルルルル様に冥府の女主人は普段何処に住まわれているのか尋ねた所、ここから五千キロぐらい向こうの所に冥府の女主人の住まいがあるとの事で……普通に徒歩で行ける距離じゃないですわね。

 それに五千キロって日本がすっぽり入ってしまう距離ですのに、一体全体この宮殿の大きさはどれほどのスケールのなのか。

 

(まあ、冥府の女主人に会える機会があるようですので、それまでは雌伏の時ですわね)


 オルルルルル様曰く、不定期に冥府の女主人が宮殿全体の配下に招集を掛ける時がありますので、その時にオルルルルル様のメイドとして着いて行けば良いですわね。

 ただ、懸念事項が一つありまして。

 冥府に来て一ヶ月ぐらい経っていますけども……わたくしが元居た世界では既に夏休みが終わっているのですの。

 わたくしの魂がここにあるという事は、元居た世界にあるわたくしの体は眠り続けてるままですので。

 つまり、出席日数やら家族に心配を掛けてるやらで、それを思うと気が滅入りますわ……。


「そあらー、ちょっと良いー?」


 そんな憂鬱な気持ちでいるわたくしに、声が掛かりますわ。

 振り向けば、いつの間にやら傍にはクレハさんが居まして。


「はい、なんでしょうクレハさん」


「ほら、そあらが来て一月(ひとつき)ぐらい経ったでしょ。

 だから新しい仕事を覚えて貰おうと思っててねー。ちょっと私と一緒に現世に行こー」


 そう言って、クレハさんはわたくしに黒いフードと大きな鎌を渡してきたのでした。

 これ、衣装的に死神ですわね。




オルルルルルという名前は冥府の女主人が某世界の番犬オルトロスを元ネタにして名付けた。

なお、途中から名前を考えるのが面倒になったので適当にオルルルルルと命名した模様。

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