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10.冥府への潜入

 ねえ、竜宮木そあら。


 今ここで訊くのも可笑しい話だけどね、何で君は協力的なのかなって。


 協力的なのは助かるよ。ただ、君にとっては赤の他人のために危険な橋を渡れって言ってるんだよ。


 なのに何で、君は躊躇いもなく冥府に赴くなんて危険な橋を渡る事が出来るのかな?


 そう問いかける事をしなかった。

 竜宮木そあらを招いた世界が薄れていく。彼女の魂は無事に異世界の冥府へと送り出すことに成功した。だから、役目を終えた空間は消滅する。

 船室の中で神を自称した男の子は椅子に座り缶ビールを喉に通す。

 竜宮木そあらの前では美味しそうに飲んで見せたそれは、実際は味気も感触もないただの見せかけ。

 見せかけを飲みほして、空き缶をテーブルの上に置いた。お酒は二十歳になってから、そんな日は二度と訪れない。

 訪れない代わりに、男の子は小さな世界と大きな力を手に入れた。

 

 でも、そんな力より僕は好きな女の子と一緒に過ごせる日々が良かったな。


 そんな事を思い抱きながら、男の子は問いかける事をしなかった言葉を竜宮木そあらに言ったらどう返ってくるかを予想して。


『ばーか、くだんねえ質問するんじゃねぇ。

 助けたいって思ったから助ける、それで良いんじゃねーの。な、弱虫    』


 そんな、昔に言われた言葉を思い出して。

 神を自称した男の子は苦笑しながら立ち上がる。


「弱虫、か。でも、今の僕は弱虫以下だなぁ」


 そう、呟いて。

 男の子は自嘲する。


「僕は、神様に目を付けられた単なる悪霊だから。人殺しの、ね」



      ◇



(これは何とも、予想外の景色ですわね)


 無事に冥府に鉄砲玉として送り込まれましたけれど、予想外の光景ですわね。

 まるで何処かの王宮の様な広く大きな建物の中、壁に等間隔で掛けられた燭台の蝋燭の火が辺りを明るく照らしていますわ。

 よく創作で見る様なおどろおどろしい雰囲気は無く、清潔でまるで観光地の中の様に感じますわ。

 ただ、窓から見える景色は先が見通す事ができないくらい暗闇ですので、そこは冥府っぽいですわね。

 わたくしは右手に握った抜身の刀と左手の回転式の拳銃の感触に胸の動悸が緊張で早くなるのを感じながら、神様に言われた言葉を思い出しますわ。


『僕はカリエの魂の囚われた場所はどこなのかは分からないんだ。

 だから冥府の女主人の宮殿に着いたら、とにかく虱潰しにカリエの魂を探して欲しい。

 けど、冥府の女主人には見つからないように慎重にね。見つかったら終わりだからね』


 つまり、スニーキングミッションという事ですわね。

 女の子が囚われている場所の定番としては地下牢とか最上階の小部屋とかでしょうか。

 とりあえず廊下の真ん中に立ったままでは誰かに見つかりますわね。さっさと移動しませんと。


「たしか、こうですわね」


 念じますと両手に握っていた武器は消えてしまいますわ。

 神様曰く、武器はこうして不思議空間に仕舞う事が出来ると言っていましたが、不思議空間なんて随分曖昧な言い方ですわね。

 まあ潜入任務で武器を持ちっぱなしなんて不便ですので、仕舞えるのは有り難いですわね。

 さてと、では早速カリエさんの魂を探しに出発ですわ!!


「もしもーし、そこの人ー」


 と、後ろから声を掛けられましたわ。

 悲報、スニーキングミッション失敗。ギギギと体ごと後ろに振り替えましたら、そこには染めたのではない自然な色合いの茶髪をボブカットにした古典的なロングドレスタイプのメイド服を着ました少女が居まして。

 わたくしより頭一つ低い少女は不思議そうにわたくしを見上げて口を開きましたわ。


「美人な亡者さんだねー。外傷は無いっぽいし、貴方はどんな死に方したのー?」


「はい? 死に方とは一体?」


「あー、この感じは自覚なしかー。

 たまに居るんだよねー、自分が死んだ事を理解しないままこの宮殿に現れる亡者さん。

 という事は新人ゲットー」


 そう言って気怠げにわたくしを見つめる彼女の首には、くっきりと両手で絞めつけられた跡が付いていましたわ。



これにて、第一部終了



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