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第七章 和泉の危機

 ―――わたしのせいだ、わたしのせいだ、わたしのせいだ。


 わたしの胸は、後悔で押し潰されていました。

 あのデートの日、姉さまに考えろと言われてから、わたしはずっと悩んでいました。そして、今日になってわたしはようやく答えに行き着きました。

 ………わたしは命さんの事が、好き。

 でも、同時に気付いてしまったんです。わたしが、命さんに好きになってもらえるはずがないって。

 わたしは妖かしで、命さんは人間。今の私を見たら、命さんはきっと気味悪く思います。

 だから儀式の時に命さんの姿を見て、わたしは動揺してしまったんです。そのせいでこんな事になって、全部全部わたしのせい。悔やんでも悔やみきれません。

 ……それに、やっぱり命さんには嫌われてしまいました。

 儀式の後、命さんは一言も口を聞いてくれはませんでした。その事が、痛くって………。


「あっ……」


 胸の痛みに足を止めてしまったわたしの目の前を、黒い塊が横切りました。悪霊です。「ひぐっ! ……あ、悪魂封結っ!」

 反射的に縮んでしまう身体を無理やり動かし、わたしは封魂玉をかざして叫びました。すると、悪霊は煙のように封魂玉に吸い込まれてしまいました。


「良し。大丈夫、出来る」


 早鐘のように鳴る心臓の辺りを手で押さえて、わたしは自分に言い聞かせました。

 悪霊を吸い込んだ封魂玉は、僅かにくすんでその透明度を落としています。美琴さんの話では、封魂玉が黒く染まるまであと数回は使えるはずです。


「わたしの責任なんです。わたしが頑張らなくちゃ!」


 命さんとの事を振り切れるように、わたしは声を大にして叫びました。もらった封魂玉は全部で四つ。それが全部黒く染まるまで、頑張らなくちゃ!


「……あっ、居た!」


 気合を入れて周りを見渡してみると、さっそく一体の悪霊を発見しました。悪霊はかなりの速さでわたしから遠ざかっています。


「に、逃がしませんっ」


 すくみそうになる足で地面を蹴り、わたしはその悪霊を追いかけました。

 悪霊は思いの外速く、一生懸命に追ってもなかなか追いつけません。

 そのうちに、悪霊は小さな洞窟へと飛び込んで行ってしまいました。


「う、うぅう」


 洞窟を覗き込んだわたしは、思わず身震いしてしまいました。洞窟は真っ暗で妖かしのわたしの目でも、全然先が見えません。


「うううぅ。こ、怖いけど、行かなくちゃ」


 わたしには、悪霊を捕まえる責任があります。怖がっているわけにはいきません。


「………ごっく」


 硬い唾を飲み込んで、わたしは洞窟に入りました。

 狭い洞窟の中は立って歩く事が出来ず、わたしはギザギザした岩肌の上を這いずるようにして進んで行きました。


「痛っ!」


 岩肌は鋭く、気おつけて進んでいても手足のいたる所が切れてしまいます。服も尖った岩に引っ掛けて、ボロボロになってしまいました。

 それでもめげずに進んで行くと、ある時を境に洞窟は何とか立って歩ける広さになりました。そこから段々と広がっていき、ついには広場ほどの大きさの空間になりました。

 天井に開いた穴やひび割れから外の明かりが僅かに射し込み、その空間を他の場所よりも明るくしています。


「ひぃっ⁉」


 だからこそ、見つけてしまいました。広間のような空間の中央、そこに黒く巨大な霊力の、悪霊の塊が脈動しているのを。


「あ、あぁっ」


 いったい、何体の悪霊が集まっているのでしょうか。ただそこにあるだけで、不幸を招き寄せてしまいそうです。怖い。怖過ぎます。でも、頑張らなきゃ。


「あ、悪。悪魂封結ぅ‼」


 わたしはなけなしの勇気を振り絞って、封魂玉を悪霊の塊に向けてかざしました。

 封魂玉はその効力を正しく発揮し、悪霊の塊を吸い込みだします。


「よし、大丈夫」


 封魂玉が悪霊の塊を吸い込みだした事で、わたしは少し安心しました。これなら、問題なく捕まえられそうです。

 でも、そう上手くはいきませんでした。


「えっ? 嘘っ、ダメです!」


 悪霊を半分も吸わないうちに封魂玉は真っ黒に染まり、なおも吸い込まれてくる悪霊によってひび割れが出来てきました。


「止まって、止まってくださいっ」


 何とか術を止めようとしましたが、ダメでした。限界を超えて悪霊を吸い込んだ封魂玉はついに内部から弾け飛んでしまいました。


「きょぁああっ」


 飛び散った封魂玉の欠片が、頬を薄く裂きながら洞窟の暗がりの中に消えて行きます。

 悪霊の塊は封魂玉に吸い込まれた事で、わたしを完全に敵として認識したようでした。


『ウアアァァァァア』

「き、狐火ぃ!」


 とっさに反撃しましたが、霊力が大きすぎてわたしの攻撃は掻き消されてしまいます。

 幼かった日、悪霊に襲われた時の事が脳裏にフラッシュバックしました。

 服を引き裂かれ、手足を押さえられて身動きが取れなくなる恐怖。首を絞められ、息が出来なくなる苦痛。

 また、わたしはあんな風に……。


「いや……いやっ!」

『ウアアァァァァア』


 そんなのいやだ、もうあんな怖いのはいやっ!


「たすけ、助けて。………助けてください、命さぁあああああぁああああんっ‼」

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