ヒューマノイドのレーザーとそっくりなレーザー銃
周りの人々は一般人だったようだが、レーザー特有の光跡と女性のドレスが焼け焦げた事から、映画のような出来事ではあるが、まさしくそれがレーザーによる攻撃であると何人かは察し、突然起きた事件から身を守ろうと、悲鳴を上げながら、逃げ出しはじめた。
クラウディアも自分に攻撃が行われたと認識し、損傷チェックの第一次判定が終わると即行動に移った。
クラウディアが光軸を避けて、レーザー銃を構えている男に向かう。
男はレーザー銃さえあれば勝てると思い込んでいて、クラウディアのドレスが焼け焦げた時点で勝利を予感し、警戒心はかなり緩んでいたが、実際にはあの程度の攻撃ではクラウディアの装甲にダメージを与えられていない。
自分目指して走り寄るクラウディア。その姿に、慌てて男がクラウディアに銃口を再び向けようとする。クラウディアが近くにいた逃げ遅れた男を捕まえ、盾にして向かってくる。
クラウディアめがけて照射されるレーザーが、盾にされた男の体を焼切って行く。
レーザー銃を構えた男が恐怖を感じ始め、今まで片手で構えていたレーザー銃を両手で構えなおして、わめき声を上げた。
その次の瞬間、盾にされていた男の肉塊が自分の目の前に飛んできた。
「わ、わわ」
男がそんな声を上げ、肉塊にぶつかり地面に倒れこんだ。
慌てて、立ち上がりレーザー銃をクラウディアに向けようとしたが、その時にはすでにクラウディアは目の前にいた。
クラウディアの右足が男の側頭部に命中すると、骨が砕ける鈍く嫌な音を立て、首を90度に傾けながら、男が吹き飛んだ。
全ては終わった。
事件の収束を感じた者たちが、遠巻きにして事態を見守りながら、口ぐちにレーザー銃とクラウディアの事を語り始めた。
「あれはレーザーじゃないのか?」
「マフィアを倒す女が持っていた武器と同じじゃないのか?」
人々の好奇の目はクラウディアにも向けられた。
「あの女の服を見てみろ。あそこに命中したんじゃないのか?
なのにあの女は生きているのか?」
「あの女の身体から見える金属はなんだ?
ドレスの下に装甲しているのか?」
外装を破損し、ドレスを鮮血に染めたクラウディア。
そのレーザーによるダメージは完全に外装を損傷させ、内部のきらきらと光り輝く金属性の装甲をむき出しにしていて、そこに気付く者もいたが、人の手によって造られたアンドロイドと言う発想はまだ無かった。
逃げてくる者たちにオッタビアは異変が起きている事を悟り、車を運転していた男に様子を見に行くよう命令を出していた。
その男がオッタビアに見たままを報告すると、オッタビア自身が車を降り、クラウディアの下に向かって歩き始めた。
クラウディアはまだ倒した男の前に立ち止まっていて、それを大勢の群衆が取り巻いている。
オッタビアがクラウディアの所に行くには、その群衆が壁となって妨げていた。
「どけっ!」
邪魔な群衆に向かって、オッタビアの前を行く男が恫喝する。
その声に群衆たちが、何事かと振り向いた。そこにいるのが、いかにも危なげな男たちであると気付いた群衆たちがそそくさと道を空ける。
左右に広がった群衆たちが造った空間の中に、オッタビア達が足を踏み入れる。
その威圧感に、群衆たちはさらに後ずさりして、その空間はさらに広がっていく。
「クラウディア、その男が使っていた武器を持ってくるんだ」
オッタビアのその言葉に、クラウディアがしゃがみ込み、男の手からレーザー銃を取り上げ、オッタビアに向かって歩き始めた。
「男の顔を確認して来い」
オッタビアの言葉に、男が倒れている男のところに走り寄り、その顔を確認する。
「ボス。
こいつはガンビーナのライモンドです」
五大ファミリーの名に、群衆たちはざわめき始めたが、オッタビアが動じる訳もない。
「ガンビーナ。
どうやって、これを手に入れた。
これはあの女の武器ではないのか?あの女はガンビーナと関係があったのか?」
オッタビアが手にしているレーザー銃を見ながら、つぶやく。
「戻るぞ」
そう言って、オッタビアとクラウディア、男が車に戻っていく。
三人が乗り込んだ車はUターンし、別の道を走り始めた。
その車の後部座席に座ってからも、オッタビアはレーザー銃を見つめている。
「ヒューマノイドの腕に仕込まれている物と同じようだが」
オッタビアはそう言って、少し考えた後、クラウディアに右の腕を外して、レーザーを見せるよう指示した。クラウディアの腕から覗くレーザーの先端部分をさっき手に入れたレーザー銃の先端部分とオッタビアは見比べる。
両者は一見しただけでは全く同一で、素人目には違いを確認する事は出来ない。
「やはり、同じものか。
すると、これはモニカの物か?セレン?いや、アーシアと言う事もありえるか」
オッタビアはこの武器がヒューマノイドから取り出されたとすると、このレーザー銃が少なくともまだ二本あり、それがおそらく敵対勢力の下にあることに危機感を抱いた。




