レーザー銃を持つ少女
あすかはレーザー銃を構えてはおらず、左手だけでなく、レーザー銃を持つ右手もぶらりと下げおろし、ほぼ無防備な体勢で壁を背にして立っていた。
あすかの姿をとらえ、攻撃に移るモニカ。
武器を持つ手を差し出してもいない。
壁を背に完全に寄り添っている敵。
モニカの判断は、蹴撃ではなく、拳撃以外ありえない。
その狙いはあすかの顔面。
モニカの判断とあすかの読みが一致している。
モニカがあすかの顔面目がけ、右拳を振り上げる。
第二次判定中のモニカの速度は人の動作と同じ程度に落ちているが、モニカの動作を縛る制約はそれだけではない。
十分な照度のない空間では、モニカの画像処理能力は1秒間に60枚の画像と言う低速度に落ちており、攻撃対象の急激な動きの変化に対するフィードバックも遅れがちで、追従性も完ぺきではなくなっている。
あすかがモニカの接近に呼応して、自らの身体をモニカの右拳の軸線上から、モニカの身体の外側の方向に避ける動きを取る。
モニカの右こぶしがあすかの顔面の動きに追従し外側に軌道修正されようとするが、モニカの正面に見据えていたあすかの顔面めがけ、体の内側に向かうように振り出されていた右腕を外側に向けるのは、ヒューマノイドの関節構造上、容易ではない。
しかも、その時あすかが、モニカの攻撃対象となるのを避けるため、だらりと下げていたレーザー銃を持つ右手をモニカに向け始める。
あすかのレーザー銃が床を焼き焦がしながら、次第に上向きになり、真っ赤な派手なドレスを着たモニカの外装を足元から焼き切っていく。
新たな外装の破損を被り、一瞬動作を停止したモニカがバランスを崩したマネキンのように、前のめりに倒れ掛かる。
モニカの拳があすかの顔のすぐ横の空気を切り裂き、背後の壁に突き刺さった。
壁を殴りつけた鈍い音が、暗闇に響く。
壁を背後にしたあすか、向き合うモニカ。
二人は右半身を重ね合う形で、動きを止めた。




