マフィアを襲う少女
エンジン音さえかき消すほどの銃撃音。
店に向かって、マシンガンを乱射している車があすかたちに近づいてくる。
あすかは乗ってきた車の横に立って、右手にピストルをかまえた。
ベルッチファミリーのソルジャーたちはあすかに気づいていない。
店に銃撃を加えながら、ベルッチファミリーのソルジャーたちが乗った車が、あすかたちの前を通り過ぎて行く。
あすかがその銃口の先を走り去る車のタイヤに向ける。
あすかの持つピストルの銃口が、銃撃音と共に火を噴く。
タイヤが軋む音とブレーキ音を立て、ベルッチファミリーのソルジャーたちを乗せた車が、蛇行を始めた。
タイヤを打ち抜かれた車はコントロールを失い、歩道に乗り上げて停車した。
敵襲。
そう感じたソルジャーたちがそれぞれの銃器を構え、敵を迎撃するため、停車と同時に飛び出してくる。
最初に勢いよく飛び出したのは二人のソルジャー。
圧倒的優位。
そんな気分が二人のソルジャーたちを油断させていた。
ソルジャーたちは居場所も分からぬ敵に、生身をさらした。
そんなソルジャーたちの側頭部をあすかの銃口がとらえる。
マシンガンとは比べようもないささやかな銃撃音が、二回立て続けに起きた。
その音の直後、飛び出してきた二人のソルジャーは敵の姿をとらえる間もなく、側頭部に開けられた小さな穴から、血しぶきを噴き上げ、路上に倒れこんだ。
。
突然の出来事に、車の中にいた二人のソルジャーが驚きの色を浮かべ、座席に身を伏せる。
「どこにいる?」
車の中の一人のソルジャーが言った。
「分からない」
そう言いながら、もう一人のソルジャーが外の様子を探るため、窓から覗こうと少し頭を上げた。
狙った獲物は外さない。
そのソルジャーの頭部をあすかの銃口は逃さずにとらえた。
銃声とガラスが砕け散る音。
ソルジャーの頭は車の窓ガラスごと撃ちぬかれ、車内に血をまき散らした。
「わ、わ、わわっ」
最後の一人となったソルジャーは恐怖に戦意を消失した。
車の中で反撃する事も諦め、頭を抱え、体を小さくし、ただただシートに身を隠して震えていた。
どれくらいの時間が流れたのか、本人にも分からない。それはひどく長い時間に感じられた。そのソルジャーは自分の車を怯えた表情で、取り囲む群衆の声で我に返った。
すでにあすかたちはおらず、そのソルジャーの車の周りにいるのは恐々ではありながらも、マフィアの末路を一目見ようと言う市民たちだけだった。
マフィアを襲う謎のアジア系少女。
巷にはそんな噂が流れ始めた。




