野望の果て
暗視スコープを付けた神父があすかたちが戦っている空間に足を踏み入れた時、クラウディアがあすかを組み伏したところだった。
神父がピストルを抜き、クラウディアに向ける。
視覚の範囲に捉えた情報全ての処理が並行になされるクラウディアは、男が自分に銃を向けている事も把握した。
ヒューマノイドのプログラムは武器を持つ敵を優先して倒すように組まれている。
あすかから離れて神父に向かおうと、あすかの上を横切ったクラウディアの足をあすかがつかむ。
足を掴まれたことで、バランスを崩し体勢が揺らいでいるクラウディアを神父の銃弾が襲う。
バランスを崩した状態で、動作が停止したクラウディアが床に倒れこむと、あすかが素早くクラウディアの上に馬乗りになり、クラウディアの頭を左手で押さえつける。
あすかは右手の人差し指と中指を突き出すと、クラウディアの両目に突き立てた。
この瞬間周囲を識別できなくなったクラウディアの戦闘機能が停止した。
あすかは戦闘でボロボロになったスカートの下に隠したレーザー銃を取り出し、クラウディアの腹部に狙いを絞った。
地下通路の前で待機しているソルジャーたちには暗闇の先にちらちらと光るレーザーの光跡が見て取れた。
すでにオッタビアも到着していて、その光景に嫌な予感を走らせていた。
「今のはレーザーじゃないのか?クラウディアがやられた?」
オッタビアだけではなく、ソルジャーたちにも明らかに動揺が走っていた。
そんな中、地下通路の中をこちらに向かってくる足音が響き始めた。
ソルジャーたちは恐怖にひきつっている。やがて、暗闇の中から姿を現したのはあすかだった。
ソルジャーたちが慌てて銃口を向けようとしたが、その時にはすでにあすかの銃口が火を噴いていた。
次々に倒れるソルジャーたち。
気付くと、その部屋で立っているのはあすかとオッタビアだけだった。
配下の者たちの血で周りが塗りこめられ、オッタビアは恐怖のあまり動く事もできなかった。
やがて、地下通路には照明が点けられ、こちらに向かってくる二人の神父の姿があった。
「お久しぶりです。オッタビアさん」
一人の神父が訛りながら言った。
「誰だ?」
神父は眼鏡、そしてひげをはずしていった。
そこから現れた肌色の顔は原だった。
「お前は原。なぜ、生きている?」
原が話を始めようとしたのをもう一人の神父が遮った。
「私からしましょう。
オッタビア、私はロベルトさんから、原さんを海の上で殺すよう指示を受けていた。
その決行の日、生憎の天候で原たちを乗せるはずだった船は出航できなかったんですよ。
船の出航がキャンセルされ、原さんを乗せる日を見直しているそんな最中、あんたたちはロベルトさんを襲ったんだよ」
オッタビアがその言葉に怒りの表情を浮かべ、怒鳴った。
「その復讐か?
そして、俺たちを裏切り、原を生かしたと言うのか?
じゃあ、聞くが、その女は何だ?
ヒューマノイドじゃないのか?
ロベルトが亡くなってから作ったにしては早すぎる。
我々に隠して最初からもう一体作らせていたのではないのか?
つまり、お前たちの方が最初に裏切っていた。
違うか!」
「違いますよ。その話は私の方からしましょう」
原が言った。
「私は最初からヒューマノイドにある機能を付けていたのですよ。
それは起動したボスの記憶を消去し、私の指示に従うと言うものです。
最初のアーシアの襲撃の結果を見て、私はこの機能を働かせるべきだと言う強い決意をしたんですよ」
「意味が分からない。
私の質問はこのあすかを隠れて作ったんだろうと言う事だ」
「答えはこれからです。
その機能を働かすための装置を私は私の部屋でこっそりと作っていました。あなたたちに見つからないように葉巻に偽装してね。ただ、通信範囲が限られており、使う機会がないまま私たちは殺されることになった。
しかし、私はロベルトがベルッチの裏切りを不安がっている事を感じとった。そこで、私はロベルトに賭けてみることにしたんです。そして、その葉巻型の装置を彼に渡した。そしたら、彼の不安は的中し、アーシアがロベルトを襲った。彼はその時、その葉巻型の装置を起動したが、運悪く、彼は救われず、その装置も炎の中に消えた。だが、アーシアは私達の所に戻ってきた。」
「つまり、こいつは元はアーシアと言う事か?」
オッタビアはようやく話しが呑み込めた。
「正確には、元はではなく、アーシアそのものです」
「ばかな。肌や、髪、瞳、全て黄色人種ではないか」
「あなたたちは戦闘能力ばかりに興味を示しましたが、このヒューマノイドには諜報用の機能として、瞳の状態を変えれる事ができますし、外装の色を微妙に変えられることは開発段階で説明しておりますよ。
私の隠し機能が起動すると、全て黄色人種になるようになっていたのです。すなわち、我々の側についているのかどうかの判断ができるよう、外見に細工するようにしていたのですよ。それと、以後基本的会話が日本語になり、私を父と思うようにもなっています」
「これがアーシア?アーシアだったのか」
「最後のクラウディアが倒れた事で、私の目的は達成された。これで、私が作ったヒューマノイドが人に危害を及ぼす事は無くなった」
そう言った原の顔には安ど感が漂っていた。
「だが、私の目的は達成されていない」
ロベルトの配下だった男が言った。
「お前とサンドロ、チェーザレをやらなければ、ロベルトさんの無念は晴らされない」
そう言うと、男は銃口をオッタビアに向け、引鉄を引いた。
ロレンツォ教会の中も、密かに造られていた地下通路も静けさを取り戻した。
真っ赤に染まった床、壁、そしてそこに横たわる多くの遺体を残して。
原としては、目的だったマフィアの手にあるヒューマノイド全てを破壊した。
ここにとどまる理由もなく、原はロレンツォ教会を引き払う準備を始めていた。
そんな頃、教会周辺が騒がしくなってきていた。その様子を監視カメラで見ていたロベルトの配下だった男が原のところにやって来た。
「この事件を知ったコルレオーネファミリーがやって来たようです。上の教会を取り巻いています。じき中にも入ってくるでしょう。」
その言葉どおり、男たちはまず放置されたオッタビアたちが乗りつけた車を確認して回った後、教会の中に入って来た。
「倒れているのはオッタビアの者たちか?凄まじいな。誰がやった?やはり、あのあすかとか言う女の仕業か?」
「奥にまだ部屋があります。どうしますか?」
「人の気配はあるか?」
へたに深く侵入して、ここに倒れている者たちと同じ目に合わされてはかなわないと、少し思案したようだった。
「いえ、ありません」
「よし、様子を見てこい」
一人のソルジャーがその指示に従い、奥に通じる廊下と部屋を調べて行く。やがて、そのソルジャーはこの下で起きている惨状を知り、戻って来た。
「この建物のいたるところに監視システムが用意されており、ここの様子も監視されている可能性があります。そして、この地下でも戦闘が行われたようで、オッタビアが死んでいました」
「オッタビアが死んでいる?それはこちらにとっては好都合だ。間違いないな?」
「はい。そこから、まだ奥があるようですが、通路が真っ暗で進む事ができませんでした。どうしますか?」
「もういい。オッタビアが死んでいたのなら、それで十分だ。深入りして、俺たちまでやられては何にもならん。引き上げるぞ」
そう言った時だった。教会の外から、激しい銃撃音が伝わってきた。
オッタビア側の増援として、サンドロ、チェーザレの部隊が到着したのだった。コルレオーネ到着を知った原たちが、オッタビアがコルレオーネに襲われていると言う口実で呼び寄せていた。
当然やってきたサンドロ、チェーザレ達との間で戦闘が発生し、戦闘は準備万端で乗り込んできたサンドロ/チェーザレ側の勝利で終結した。ただ、サンドロ、チェーザレ側も甚大な被害を出していた。
やがて、彼らも倒れているオッタビアの直属の配下たちの亡き骸に誘われるまま地下まで、やって来た。
「ボス!」
チェーザレが倒れているオッタビアを見つけ、叫んだ。
「仇は討ちましたよ」
目を閉じながら、チェーザレが言った。
原たちに、コルレオーネに襲撃されていると言って呼び出されたチェーザレたちはそう思い、瞳に涙を浮べていた。
敵はもういない。
仇はとった。
そして、ボスへの想い。
そんな想いで、ボスの最期の姿に涙を浮かべているチェーザレ達を狙う銃口が、暗い闇に続く地下通路の中に潜んでいた。
都合よくオッタビアの亡き骸は地下通路正面に横たわっていたため、闇に潜むその銃口は二人の兄弟を狙える位置にあった。
その銃口を向けているロベルトの配下だった男は手に持ったマシンガンの引鉄を引いた。
闇を切り裂き、光を切り裂く無数の銃弾。
その銃弾は二人の兄弟を吹き飛ばしていく。
周りにいたベルッチファミリーのソルジャーたちは突然の攻撃に狼狽しながらも、地下通路に向かって、銃撃を開始した。
暗闇の地下通路の中で、構造物が破壊される音が響き渡った。
銃撃戦でベルッチファミリー側も被害を出したが、ロベルトの配下だった男も喚声を残し銃弾の雨の中に倒れた。
「ロベルトさん。
仇は討ちましたよ」
その言葉を残し、地下通路側からの銃撃は無くなった。
ベルッチファミリーのソルジャーたちは、マシンガンを暗闇に向けながらも、お互い顔を見合わせている。
どうする?
誰もがどうすべきかを見いだせていなかったが、一人のソルジャーが後ずさりを始めると、全てのソルジャーたちがわれ先にと引き揚げて行く。
ベルッチファミリーのソルジャーたちにとって、サンドロ、チェーザレまでもが倒れた今、この先の闇に挑む勇気も必要も無かった。
誰もいなくなった地下通路の先に、照明が灯った。
その先に見えるのは二人の少女と一人の男の姿。
やがて、ロレンツォ教会と道路を挟んで向かいあうベルッチの屋敷跡から、大きな火の手があがると、大勢の人々がそれを取り囲んだ。
「マフィアたちの抗争で、火事が起きたんだ」
「コルレオーネも殺されたらしい」
ひそひそと噂話を飛び交わしている人々に背を向け、アジア系の男女三人が立ち去って行った。
そして、その炎はそこにあった男たちの野望の拠点を灰燼に帰させ、闇に葬るべき全てを焼き尽くして行った。
その後、この国のマフィア界は最大のファミリー コルレオーネファミリーの内紛、五大ファミリーまで上り詰めたベルッチファミリーの消滅により、騒乱の時を迎えたが、二度とマフィアと戦うあすかと言う名の少女が現れる事はなかった。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
完結できましたのも、拙い文章にもかかわらず、読んでくださった皆様のおかげです。
感想やアドバイスなどいただけたら、うれしいです。
最後までお付き合いくださり、ありがとうございました。




