第87話 ただいま、我が家
馬車が屋敷の門をくぐると、もう、家族が勢ぞろいで——出迎えてくれていた。
懐かしい、みんなの顔。ワタシは——馬車を、降りる。
その瞬間。
「ルキ——っ!」
真っ先に駆け寄ってきたのは——姉の、セリアだった。
*
「ルキ! ——会いたかったわ!」
セリア姉さんは、ワタシを、ぎゅうっと——抱きしめた。
「ちょ、姉さん。——苦しい、です」
「もう! ——卒業式にも、来させてくれないんだから! お姉ちゃん——ずっと、寂しかったんだから!」
セリア姉さんは、涙ぐみながら——ワタシの頬を、ぺたぺたと触った。
「ああ……。——少し、痩せたんじゃない? ちゃんと食べてた? 王都で——苦労、してない?」
「だ、大丈夫ですよ、姉さん」
相変わらずの溺愛ぶりに、ワタシは——苦笑した。
五つ年上の姉。昔から、ワタシのことを——誰よりも、可愛がってくれた。その優しさは——少しも、変わっていない。
*
「……ふん」
その後ろから——ぶっきらぼうな声が、した。
兄の、レオだった。
三つ年上の次男。腕を組んで、どこかつっけんどんな表情で——ワタシを、見ている。
「やっと帰ってきたか。——まったく、薄情な弟だ。手紙ばっかりで——ちっとも、顔を見せやがらねえ」
「レオ兄さん。——お久しぶり、です」
「ふん。——別に、お前がいなくて——寂しかったわけじゃ、ねえからな。勘違い、すんなよ」
そっぽを向いて、そう言う。
けれど——ワタシは、知っていた。
この人が、本当は、誰よりも、ワタシのことを——気にかけてくれていることを。
*
「こら、レオ」
母エルマが——呆れたように、言った。
「素直じゃ、ないわねえ。——あなた、ルキが帰ってくるって聞いてから。毎日『まだか、まだか』って——そわそわ、していたくせに」
「——っ! か、母さん! ——余計なこと、言うな!」
レオ兄さんの顔が——みるみる、赤くなった。
「ぷっ……」
ワタシは——思わず、噴き出した。
ああ。変わっていない。この家族の温かさは——少しも、変わっていない。
*
「ルキ。——よくぞ、帰った」
父ガイウスが、大きな声で、言った。その目尻は——下がっている。
「卒業、おめでとう。——立派に、なったな」
「父上。——ただいま、帰りました」
母エルマも——ワタシを、抱きしめた。
「おかえりなさい、ルキ。——元気そうで、よかった」
兄ヴィルも——穏やかに、微笑んでいる。
「おかえり、ルキ。——よく、来たな」
懐かしい、家族の温もり。ワタシは——胸が、いっぱいになった。
(——ただいま)
ワタシは——心の中で、呟いた。
(——帰って、きた)
*
「あの……」
その時。ワタシの後ろで、フィーが——おずおずと、立っていた。
家族との再会に遠慮して——一歩、引いたところに。
すると——セリア姉さんが、フィーに気づいた。
「あら——! あなた、もしかして——フィーちゃん?」
「! ——セリア、お姉様」
「やっぱり、フィーちゃんだわ! ——まあ、まあ! ——こんなに、大きくなって!」
セリア姉さんは、今度はフィーに駆け寄って——その手を、握った。
「元気にしてた? ——王都で、ルキと一緒に——頑張ってるって、聞いてたわよ」
「は、はい。——おかげさまで」
フィーは、驚きつつも——嬉しそうに、微笑んだ。
*
「フィーちゃん。——おかえりなさい」
母エルマも——優しく、フィーを迎えた。
「あなたが、この家で過ごしていた頃。——まだ小さくて、いつもおどおどして、いたわねえ。それが、こんなにしっかりして——立派に、なって」
「皆さん……」
フィーの目に——涙が、にじんだ。
フィーは、救われた後、しばらく、この屋敷で——過ごしていた。
その頃、家族はみんな、フィーを、温かく迎え入れてくれた。まるで——本当の家族のように。
だから、フィーにとっても——ここは、帰る場所の一つなのだ。
「ただいま……帰り、ました」
フィーが、震える声で——そう言うと。
「ええ。——おかえりなさい」
母エルマが——にっこりと、微笑んだ。
*
「ほら、レオ。——あなたも、フィーちゃんに——挨拶、なさい」
「……よう。——でかく、なったな、フィー」
レオ兄さんも、ぶっきらぼうに、でも、どこか優しく——声をかけた。
「お前、昔は——俺の後ろに、隠れてばっかりだったのにな」
「レオ、お兄様。——その節は、お世話になりました」
フィーが、ぺこりと——頭を、下げる。
そのやり取りに、みんなが——笑った。
辺境出身の面々も、それぞれ、迎えに来た家族と、再会を果たしている。あちこちで——喜びの声が、上がっていた。
*
屋敷の玄関。——懐かしい、我が家。
そこに、家族がいて、フィーがいて——仲間が、いる。
ワタシは——その光景を、見回した。
(——いいものだな)
胸の奥が——じんわりと、温かくなる。
久しぶりの帰郷。たくさんの笑顔。——温もり。
卒業の報告も、王都の屋敷のことも、話さなければ、ならない。でも、それは——後でいい。
今は、ただ——この再会の喜びに、浸っていたかった。
「さあ、さあ。——みんな、入って。積もる話も、あるでしょう。——ごちそうを、用意してあるのよ」
母エルマの声に導かれ、ワタシたちは——懐かしい屋敷へと、足を踏み入れた。
久しぶりの我が家。——久しぶりの、家族。
温かな時間が、今——始まろうとしていた。




