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第81話 託された夢

 グレイを介した、王とのやり取りは——回を重ねるごとに、深くなっていった。


 最初は——ワタシを試す問いだった。それが——共に考える問いに変わり。やがて——王は少しずつ、本当の心を——見せてくれるようになった。


*


 ある日。——グレイが、いつにも増して——改まった様子で、訪ねてきた。


「ルキウス殿。——陛下が、どうしても、あなたに——お伝えしたいことが、あると」


 ワタシは——居住まいを、正した。


「陛下は——長い間、悩んでおられました」


 グレイは——静かに、語り始めた。


「あなたの言葉を受け取るたびに、陛下の御心は——揺れておられた。『信じてもいいのか』『また裏切られるのではないか』——と」


 無理もない。——千年、裏切られ、諦め続けてきた王。その凍った心が——簡単に溶けるはずが、ない。


*


「ですが」


 グレイの声が——熱を、帯びた。


「先日。——陛下は、こう仰いました」


 老侍従は——王の言葉を、一語、一語——噛みしめるように伝えた。


「『グレイ。——余は、決めた』」


 ワタシは——息を、呑んだ。


「『あの者を、ルキウスを——信じてみようと、思う。確かに、余は——一度、夢を諦めた。だが、あの者は——諦めなかった。たった一人で——千年、変わらぬものに、立ち向かおうとしている』」


*


「『余はずっと、怖かったのだ。また期待して、また裏切られ——絶望するのが。だから心を殺して——何も望まぬように、してきた』」


 グレイの目に——涙が、にじんでいた。


「『だが、もう——逃げぬ。あの者が、これほど必死に戦っているのだ。王たる余が——いつまでも玉座で、縮こまっていて、どうする』」


(——陛下)


 ワタシの胸が——熱くなった。


 千年、凍りついていた玉座。その上で——ただ諦めていた王。その人が今——自らの意思で、立ち上がろうとしている。


*


「『ルキウスに、伝えてくれ』」


 グレイは——王の言葉を、続けた。


「『余は、そなたを——信じる。そして、いつか——共に、この国を変えよう。千年続いた、この闇を——終わらせるのだ』」


 その言葉は——まっすぐ、ワタシの胸に——突き刺さった。


 囚われの王。——ずっと、一人だった人。その人が今、ワタシに——夢を、託してくれた。


「……ありがとうございます」


 ワタシは——深く、頭を下げた。声が——震えた。


「陛下に、お伝えください。——ワタシは、必ず、お応えします。陛下と共に——この国を、変えてみせる、と」


*


 グレイは——涙を拭いながら、頷いた。


「……必ず、お伝えいたします」


 けれど——彼の表情は、すぐに——引き締まった。


「ですが、ルキウス殿。まだ——表立っては、動けませぬ。大神官の監視は厳しく——その手足として、あの剣聖も、控えておりますゆえ」


「ええ。——わかっています」


 ワタシも、頷いた。


 今はまだ、その時ではない。王は囚われ、大神官の力は——絶大だ。焦って動けば——すべてを、失う。


「時が来るまで、待ちましょう。陛下とワタシたちが、共に立てる——その時まで」


*


 グレイが帰った後。ワタシは——一人、窓辺に立っていた。


 夜空には——無数の星。その一つひとつが、まるで——希望の灯のように、瞬いていた。


(——陛下が、信じてくださった)


 ワタシの胸は——熱いものに、満たされていた。


 千年、誰も変えられなかったこの国。その頂に座る王が、今——ワタシと同じ夢を、見てくれている。


 奴隷を解放し、知識を広め——身分に縛られない世を作る。その夢に、王が——手を差し伸べてくれた。


(——もう、ワタシたちは、一人じゃない)


*


 仲間がいる。家族がいる。クラリスティアが、フィーがいる。改革派のヨハンが、グレイが——そして今、王までもが——同じ夢を、見てくれている。


 千年の闇。——それは、あまりにも深い。けれど——その闇に今、いくつもの灯が——ともり始めていた。


 一つ一つは、小さな灯。でも——集まれば、闇を照らす——大きな光に、なる。


(——いつか、必ず)


 ワタシは——星空に、誓った。


(——この国を、変えてみせる。陛下と、みんなと——共に)


 その誓いは——静かに、けれど、確かに。ワタシの胸の奥で——燃えていた。


 まだ見ぬその日を思い描きながら、ワタシは——夜空の星を、いつまでも——見上げていた。


 近づいている。——何か大きなものが、動き出す——その予感が、した。

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