第79話 守りたいその気持ち
フィーが、魔法の修行を始めてから、商会の片隅に。一つの光景が——日課のように、加わった。
中庭で、フィーが、結界魔法の練習に——励む姿だ。
ワタシは、手の空いた時には——その練習に、付き合うようにしていた。
*
「ルキさま。——見て、ください!」
フィーが——両手を、かざす。
すると、彼女の周りに、淡く光る——半球状の結界が。ふわり、と——広がった。
「おお。——すごいじゃないか。——前より、ずっと大きくなってる」
「えへへ。——毎日、練習してるんです」
フィーは、照れたように、笑った。その笑顔は——出会った頃の、怯えた表情とは——まるで別人のようだった。
今では、自分の力で、何かを成し遂げる喜びを、知っている。その瞳は——きらきらと、輝いていた。
*
フィーの成長は——目覚ましかった。
最初は、小さな結界しか張れなかった。それが今では——数人を、すっぽり包めるほどに。
「フィーさんの上達は——本当に、驚異的ですよ」
魔法を教えている人も——舌を、巻いていた。
「結界魔法は、本来——とても繊細で、難しいものです。それを、こんなに短期間で、ここまで。やはり彼女には——並外れた素質が、ある」
(——やはり)
ワタシは——内心、複雑な思いだった。
その素質。それは、おそらく、フィーの——血筋に、由来するもの。彼女が——まだ知らない——出自に。
でも、今は、それを——言うわけには、いかない。ワタシはただ——フィーの頑張りを、見守ることしか。
*
「ルキさま」
ある日。練習の合間に、フィーが——ふと、言った。
「わたし——もっと、強くなりたいんです」
「強く?」
「はい」
フィーは——真剣な目で、頷いた。
「ルキさまは、いつも、みんなのために——大変な思いをして、戦っていて。だから、わたしも——その力に、なりたくて」
その言葉に——ワタシの胸が、温かくなった。
「この結界が、もっと強くなれば——いつか、ルキさまや、商会のみんなを、守れるかもしれない。——危険なことが、あった時に」
フィーは——両手を、ぎゅっと握った。
「だから、わたし——頑張ります。みんなを、ルキさまを、守れるくらい、強くなるって。——決めたんです」
*
(——ああ)
ワタシは——胸を、打たれた。
かつて、守られるだけだった、あの子が。今は——「誰かを守りたい」と、願っている。
救われた者が、今度は、救う側に——なろうとしている。
その健気さ。その優しさ。ワタシは、眩しいものを見るように、フィーを——見つめた。
「……ありがとう、フィー」
ワタシは——そっと、言った。
「その気持ちだけで——すごく、嬉しいよ」
「! ——ほ、本当ですか」
「ああ。——でも、無理はしないでね。フィーが、怪我でもしたら——ワタシが、悲しいから」
その言葉に、フィーの頬が、ぽっと——赤く、染まった。
*
「……ルキさま、は」
フィーは——うつむきながら、小さな声で言った。
「ずるい、です」
「え?」
「そんなふうに、優しく言われたら。——わたし——もっと、頑張りたくなっちゃう、じゃ、ないですか」
その横顔は、夕日に照らされて、ほんのり、と——赤かった。
ワタシは——どきり、とした。
フィーの、その表情。その声。ワタシを想ってくれている気持ちが——まっすぐ、伝わってきた。
(——フィーは)
ワタシは、気づいていた。フィーが、ワタシに——淡い想いを、寄せてくれていることに。
そして、ワタシ自身も。——このまっすぐで、健気な女の子のことを——大切に、思っていることに。
*
その想いが、どういう形のものなのか。——ワタシには、まだ——はっきりとは、わからない。
守るべき仲間としての情、なのか。それとも、もっと——別の、何かなのか。
でも——一つだけ、確かなことが、あった。
フィーの笑顔を。その未来を。——ワタシは、守りたい。心から——そう、思う。
「……さあ。——練習の続きを、しようか」
ワタシが言うと、フィーは——元気よく、頷いた。
「はい!」
彼女の周りに、また、淡い光の結界が——ふわりと、広がる。
夕日に照らされたその光は——とても優しく、温かかった。
まるで——フィーの心、そのもののように。
ワタシは——その光を見つめながら、思った。
(——この子と、これからも、一緒に——歩いていけたら)
その願いが、どんな名前の感情なのか。——今は、まだ、わからない。
でも、その温かさだけは、確かに。ワタシの胸に——灯っていた。




