第78話 はじめての魔法
「フィー。——ちょっと、いいかな」
ある日。ルキさまが——わたしを、呼んだ。
その表情は——いつもより、少し——真剣だった。
「フィーは——魔法に、興味、ないか?」
「魔法……ですか?」
思いがけない言葉に、わたしは——きょとん、とした。
*
「うん」
ルキさまは——優しく、微笑んだ。
「フィーには——もしかしたら、魔法の才能が、あるかもしれない。そんな気が、するんだ。——よかったら、一度——試してみないか?」
「わたしに……魔法の、才能?」
わたしは——戸惑った。
魔法なんて——一部の選ばれた人だけのもの。奴隷だったわたしに——そんなものがあるなんて、とても思えない。
「むり、ですよ。——わたしなんかに、そんな、すごいこと」
「やってみないと——わからないよ」
ルキさまは——いたずらっぽく、笑った。
「もし才能があったら——フィーの新しい力に、なるかもしれない。——前に言ってたろ? 『みんなの役に立ちたい』って。——その一つの道に、なるかもしれないよ」
(——っ)
その言葉に——わたしの胸が——とくん、と鳴った。
みんなの役に立てる。——もし、本当に——そうなれるなら。
「……やって、みます!」
*
次の日から、わたしは——魔法の練習を、始めた。
基礎を教えてくれたのは——ルキさまと、商会に出入りする——魔法に詳しい人。
「いいかい。——魔法は、体の中の魔力を——感じ取って。それを——外に——引き出すんだ」
「魔力を……感じ取る」
わたしは——目を閉じて、自分の体の奥に——意識を、向けた。
最初は——何も、わからなかった。魔力なんて——どこに、あるのか。
でも——何度も繰り返すうちに。
(——あれ?)
体の奥のほうに——ほんのり、と。あたたかい何かが、あるのを——感じた。
*
「……何か、感じます。あったかいものが——お腹の、あたりに」
「それだ! ——それが魔力だよ。——その感覚を、大事にして」
わたしは——そのあたたかいものを、そっと——手のひらに、集めてみた。
すると。
——ぽう、っ。
わたしの手のひらに——淡い光が、灯った。
「……っ! ——ひ、光った!」
「すごいじゃないか、フィー!」
ルキさまが——目を、輝かせた。
「初めてで、ここまでできるなんて。——やっぱり、フィーには——才能が、ある」
(——わたしに、才能が)
信じられない思いだった。——でも。手のひらの上の——小さな光は。確かに——わたしが、生み出したものだった。
*
それから、わたしは——夢中で、練習に励んだ。
いろんな魔法を、試してみた。火を灯したり、水を出したり、風を起こしたり。
でも——その中で、一つ。わたしが——特別に得意なものが、あった。
結界の魔法だ。
「結界……?」
「ああ。——何かを守る魔法だ。魔力で——見えない壁を作って、危険から身を守る」
わたしが、その魔法を試すと。
——ふわり。
わたしの周りに、淡く光る——透明なドームが、広がった。
「……これは」
教えてくれた人が——驚いたように、言った。
「すごい。——こんなに安定した結界を、こんなに早く。フィーさん——あなた。結界魔法に——並外れた才能が、ある」
*
(——わたしが、みんなを守れる)
その結界を見て——わたしの胸は、熱くなった。
誰かを守る、魔法。それは——なんだか、わたしにぴったりな気がした。
強い攻撃魔法、とかじゃなくて。——みんなを、大切な人を——守る、力。
(——きっと、これだ)
わたしは——そう、確信した。
メイアさんが言ってくれた。「いつか、あなたにしかできない何かが、見つかる」と。
それが——これ、なのかもしれない。
魔法で、結界で——みんなを守る。ルキさまや、商会のみんなを、危険から——守る力に、なる。
*
その夜。わたしは——一人、練習の続きをしていた。
何度も、結界を張る。——消す。また、張る。少しずつ——大きく、安定していく。
手のひらの中に、光が宿るたびに、わたしの胸は——喜びで、いっぱいになった。
(——わたしにも、できることが、あったんだ)
ずっと、探していた。自分にできること。——みんなの役に立てること。
それが——やっと、見つかった。
不思議だった。——どうして、奴隷だったわたしに——こんな才能が、あるんだろう。
わたしの忘れてしまった、昔のこと。——その答えが、どこかに、あるのかもしれない。でも今は、わからない。わからないけれど。
大事なのは——この力で、大好きなみんなを、守れるようになること。
(——もっと、練習しよう)
わたしは——新たな決意を胸に、結界の光を——見つめた。
淡く、優しく輝くその光は。まるで——わたしのこれからを、照らしてくれているかのようだった。
(——待ってて、ルキさま。——わたし、きっと——あなたを守れるくらい、強くなるから)
その夜の結界は——いつもより、少しだけ——あたたかく、光っていた気がした。




