幕間 いろんな、わたし フィー視点
メイアさんに言われた言葉が——ずっと、心に残っていた。
「気になることがあったら、何でもやってみたらいい。きっといつか、あなたにしかできない何かが、見つかるわ」——と。
だから——わたしは、決めた。
いろんなことに——挑戦してみよう、と。
*
まずは——メイアさんの薬草作りを、手伝わせてもらった。
「フィー。——この草と、この草を。すり鉢で、混ぜて、ちょうだい」
「はい!」
わたしは、張り切って、すりこぎを握った。
でも——力の加減が、わからない。ごりごりと強くしすぎて——粉が、あたりに飛び散ってしまった。
「あっ……ご、ごめんなさい!」
「ふふ。——大丈夫よ。最初はみんな、そう。——もう少し、優しくね」
メイアさんは。——怒らずに。笑って、教えて、くれた。
わたしは、もう一度。今度はそっと、すりこぎを動かした。少しずつ——こつが、つかめてきた気がする。
*
次の日は——ニコさんに、帳簿のつけ方を——教わった。
「いいか、フィー。——数字ってのは、商売の命だ。一文字でも間違えりゃ——大事になる」
「は、はい。——がんばります」
わたしは、羽根ペンを握って、数字を書き写していった。
でも——慣れない作業に、手が、震える。気づくと——数字が、一つずれていた。
「あちゃー。——ここ、間違ってるぞ」
「うう……難しい、です」
「はは。——まあ、最初はこんなもんさ。——おれだって、昔はもっと、ひどかった」
ニコさんは。——豪快に、笑った。
その笑顔に——わたしは、少しほっとした。失敗しても、いいんだ。少しずつ——覚えていけば。
*
それから——わたしは、いろんなことに挑戦した。
お客さんの応対、荷物の仕分け、料理の手伝い、掃除に洗濯。——商会の、ありとあらゆる仕事を。
うまくいくことも、あった。失敗することも——たくさん、あった。
お皿を割ったり、荷物を間違えて運んだり。——お客さんに、しどろもどろになったり。
そのたびに——わたしは、へこんだ。「やっぱり、わたしには——何もできないのかな」と。
でも——商会のみんなは、いつも笑って。「気にしない、気にしない」「次、がんばろう」と——励ましてくれた。
誰も——失敗を、責めたりしなかった。
(——あたたかいな)
わたしは。——思った。
奴隷だった頃は——失敗すれば、叩かれた。怒鳴られた。でも——ここでは、違う。失敗しても——「次がんばろう」と、言ってもらえる。
だから——わたしは、何度でも——挑戦できる。
*
ある日——ルキさまが、わたしの様子を見て——声をかけてくれた。
「フィー。——最近。いろいろ、頑張ってるね」
「! ——ルキさま」
「うん。——見てたよ。失敗しても、めげずに、何度も挑戦してる。——すごいなって、思って」
(——見てて、くれたんだ)
わたしの胸が——ぽっと、あたたかくなった。
「わたし、まだ——『これ』っていう、得意なことが、見つからなくて。でも……いろいろやってみるのは——楽しいんです。少しずつ、できることが——増えていくのが」
「うん」
ルキさまは——優しく、微笑んだ。
「それで、いいんだよ。——焦らなくて。フィーは——ちゃんと前に進んでる。それが——いちばん、大事なことだ」
*
その夜。——わたしは。一日を、振り返って、いた。
今日も、たくさん失敗した。でも——昨日より、ほんの少し——できることが、増えた気がする。
薬草のすり方。帳簿の数字。——お客さんへの、挨拶の仕方。
一つひとつは——小さなこと。でも——それが、少しずつ——積み重なっていく。
(——いつか)
わたしは。——思った。
(——いつか。この積み重ねの先に、わたしにしかできない何かが——見つかるのかな)
まだ、わからない。でも——焦らない。メイアさんが言ってくれたように、いろんなことを試しながら、少しずつ——探していこう。
ルキさまの力に——なれる日を、夢見て。
わたしは——明日も、きっと、何かに——挑戦する。
失敗を恐れずに。——何度でも。
そう思うと——なんだか、わくわくしてきた。




