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第58話 灯を守る人々

 王の名を盾にした締めつけは、日に日に、商会の首を絞めていった。


 売上は落ち、仕入れは滞り、蓄えも。——少しずつ、削られていく。


(——このままじゃ)


 ワタシは、帳簿を前に、頭を抱えた。


 いちばんつらいのは——お金のことじゃない。商会で働くみんなの暮らしを。——脅かしてしまっていることだった。



 ある日。ワタシは意を決して、商会のみんなを集めた。


「——みんなに。正直に話さなきゃ、いけないことがある」


 ワタシは、頭を下げた。


「商会は今、とても苦しい。王宮からの締めつけで——稼ぎが減っている。だから……しばらく、給金を減らさざるを得ない。本当に……すまない」


 ワタシは、唇を噛んだ。


 救う、と言って、職を与えて。——なのに。その暮らしを今、ワタシは脅かしている。——情けなかった。


 ところが。



「——何を言ってるんですか、ルキさま」


 最初に声を上げたのは、年老いたあの、元奴隷の女性だった。


「給金が減るくらい。——なんですか。あたしらは、あんたに命を救ってもらった。それに比べりゃ——屁でも、ありませんよ」


「そうだ、そうだ!」


 別の男も、声を上げた。


「おれたちは、鎖につながれてた頃に比べりゃ——今は、天国だ。少しくらい稼ぎが減ったって——文句なんか、あるもんか」


 ワタシは——驚いて、顔を上げた。


 みんなの顔には——不安も、あった。でも、それ以上に——強い何かが、宿っていた。



「——なあ、ルキさま」


 ラントが、進み出て言った。


「おれたちに、できること。——ないですか? ただ守られてるだけなんて。——おれは、嫌だ」


 その言葉に、みんなが頷いた。


「あたしも! 繕い物なら、いくらでもやるよ」


「おれは、力仕事なら任せてくれ」


「あたしは……夜なべしてでも、石けんをもっと作る」


 次々と——声が、上がった。


 かつて、何もできないと——役立たずと虐げられていた人々。明日をも知れぬ、奴隷だった人々。


 そのみんなが——今、自分から。「役に立ちたい」「灯を守りたい」と——立ち上がっている。


(——ああ)


 ワタシの胸が——熱くなった。



 それから。商会のみんなは——本当によく、踏ん張ってくれた。


 給金が減っても、誰一人——辞めなかった。むしろ、今まで以上に——懸命に働いた。


 手の空いた者は、互いの仕事を手伝った。食べ物を分け合い、励まし合い——少ない稼ぎを、みんなで工夫してやりくりした。


 年寄りは子どもの面倒を見て、若い者は力仕事を引き受けた。薬師のメイアは、限られた薬草で——少しでも多くの品を作ろうと、夜遅くまで工房にこもった。


 誰も——音を上げなかった。


 大神官は。「商会を締め上げれば、働く者たちは逃げ出し、商会は内側から崩れる」と——そう踏んでいたのだろう。


 でも。——逆だった。


 苦境は——むしろ、みんなの絆を——固く、固く、結びつけていた。



 その光景を見ながら。ワタシは——一つのことに、気づいた。


 ワタシは——救ったつもりで、いた。鎖を解き、職を与え——彼らを守っているつもりで。


 でも。——違った。


 今、苦しいこの時に——ワタシを、商会を——支えてくれているのは。ほかでもない。ワタシが救ったはずの——あの人たちだった。


(——ワタシは)


 ワタシは——込み上げるものを、こらえた。


(——ワタシは、一人で灯を守っているつもりだった。でも——違った。この灯は——みんなで、守っているんだ)



 その夜。ワタシは、工房で遅くまで働くみんなの姿を——そっと、見ていた。


 疲れているはずなのに——誰の顔にも、笑みがあった。互いを思いやり、助け合う——温かい笑みが。


 かつて——光を奪われ、物のように扱われた人々。その人たちが今——自分の意思で、誰かのために——その手を、動かしている。


(——これだ)


 ワタシは、思った。


(——ワタシが守りたかったのは——この光景、なんだ)


 締めつけは——まだ、続く。苦しい日々も——終わらない。


 でも。——もう、ワタシは一人じゃない。これほど頼もしい仲間たちが、同じ灯を囲んで——共に踏ん張ってくれている。


(——負けない。——絶対に)


 みんなの笑顔が、ワタシに——新たな力を、くれた。


 どんなに締めつけられても、この灯は——消えない。


 なぜなら、それはもう。ワタシ一人の灯ではなく——みんなの灯に、なっていたのだから。

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