表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
これはチートなんですか!?〜俺のスキル『ネットスーパー』は少し違うようです〜  作者: 御蔭


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

3/4

第3話 テンプレでござる

 

 絨毯を敷き詰めた回廊を抜けて通されたのは、召喚の間より一回り小さな部屋だった。重厚だが、威圧感はない。壁には一枚の風景画が掛けられ、長卓の上には磨かれた燭台が並んでいる。


「どうぞ、おかけください」


 イリア王女が柔らかく促した。俺と高校生は並んで腰を下ろし、対面にイリア、ガレス、エドモンの三人が座る。

 給仕が湯気の立つ茶を各人の前に置いた。


 茶の色は紅茶に近い。ただ香りが少し違う。ハーブの風味だろうか。陶器のカップに、銀のスプーン。細工はきちんとしていて、磨きも行き届いている。焼成も加工も、それなりの水準の技術だ。

 ——お、文明レベルはそこそこ高い系か。

 異世界だからって、何もかもが原始的、というわけではないらしい。


「改めまして、ようこそお越しくださいました」


 イリアが姿勢を整える。


「先ほどもご挨拶いたしましたが、私はこの国——アルヴェンディア王国の第二王女、イリアと申します」


 隣のガレスが軽く会釈。


「宮廷魔術師を務めております、ガレスと申します。先ほどの召喚の儀を執り行った者でございます」


 その隣の文官も続く。


「王家に仕える文官、エドモンでございます。以後、皆様の

 ご滞在に関する実務は、私がお世話させていただきます」


 三人の名乗りに、綺麗な間合いがあった。流れるような役割分担。台本あるんじゃないかこれ。まあ、あって当然なんだろうけど。


「よろしければ、お二方のお名前を頂戴できますでしょうか」


 イリアが穏やかに尋ねてくる。俺は軽く頭を下げた。


高瀬川翔馬(タカセガワショウマ)と申します。日本という国で、家業として商売人をしておりました」


 隣の高校生も、少し背筋を伸ばして続いた。


佐藤奏多(サトウカナタ)です。高校生です」

「タカセガワ様、サトウ様——」


 王女が復唱しかけたところで、俺はさっと手を上げた。


「あ、ショウマでいいですよ。そんな大層な名前じゃないので」


 三人の視線が一瞬交わされた。ほんの短い間があって、イリアが首を小さく傾ける。


「……いえ、お客様にそのような。タカセガワ様とお呼びさせていただきます」


 やっぱり崩さないか。まあ、向こうにも立場というものがある。


「そうですか」


 俺は笑ってみせた。


「では、お好きなようにお呼びください」


 そのまま、隣の高校生に視線を向ける。


「君は、ショウマでいいよ。佐藤くん——でいいかな?」

 少年の顔がぱっと明るくなった。


「じゃあ、僕もカナタで! ショウマさん、よろしくお願いします!」


 ショウマさん、か。まあ、呼びやすい方で呼んでくれればいい。カナタのまっすぐな声は、妙に耳に残った。

 対面のイリアが、二人のやり取りを穏やかな目で見守っていた。


「お二方、早くも打ち解けられたご様子で、嬉しく存じます」


 王女の所作には、どこにも無駄がなかった。指先の角度から目線の置き場まで、全部が設計されてる感じだ。ちゃんと教育を受けた人の立ち居振る舞いだな、と俺は内心で感心する。


「此度、お二方をお呼び立ていたしました理由について、ご説明させていただきます」


 イリアが姿勢を改めると、隣のガレスが重々しく引き取った。


「この大陸の北方に、古より魔王と呼ばれる存在が巣食っております。近年、その力が著しく増大し、我らの同盟国をも脅かす事態となっております」

「このままでは、大陸全土が魔の手に落ちかねません」


 イリアが静かに継ぐ。


「古の予言に従い、異界より勇者様を召喚する儀を執り行いました」


 エドモンが軽く頷いて結んだ。


「勇者様方のお力添えをいただければ、必ずや魔王を討ち、大陸に平和をもたらすことができましょう」


 うわぁ、完っっ璧にテンプレ。

 ——と内心で拍手していたら、隣で奏多が身を乗り出した。


「僕、頑張ります! 魔王を倒して、みんなを助けたいです!」


 まっすぐな声が、部屋の空気を一瞬ふわっと柔らかくする。


「心強いお言葉、痛み入ります」


 イリアが目を細めた。

 カナタくん、完全に信じ込んでるな。

 横目で様子を見ながら、俺は内心で頷いた。悪いことじゃない。本物の勇者適性を持ってるのはこの子の方だ。純粋さは武器になる。


 ただ、俺の目には、別のものが映っていた。

 王女の衣装。よく見ると、生地も装飾も新しい。金細工の縁取りが施された裾は、ついこの間仕立て直したか、あるいは一から誂えたもののように見える。

 応接の間の調度にも、同じ気配があった。絵画の額縁の角に、まだ艶が残っている。壁面の塗りも均一で、長年の経年による曇りがない。


 回廊ですれ違った兵士たちの顔も思い出す。装備の手入れは行き届いていたが、表情に悲壮感はなかった。緊張感もない。日々の巡回を淡々とこなしている、ごく普通の勤務態度だ。

 ——まるで、開店準備中の新装オープン店舗みたいな、な。

 大陸全土が魔の手に落ちかねない、という割に、この国の空気は穏やかすぎる。


 いや、深読みしすぎかもしれない。向こうだって言葉を選ぶのは当然だし、異世界から召喚した人間に、いきなり国政の生々しい話はしないだろう。それが礼儀というものでもある。

 ただ、一つだけ言えることがある。

 ——この城に長居するのは、性に合わないな。

 魔王討伐なんて大それた話より、まずは自分のスキルが何なのかを確かめたい。それに、せっかく異世界に来たんだ。一つの城に留まって任務に就くより、世界を自由に見て回る方が、どう考えても性に合う。


「一つ、伺ってもよろしいですか」


 俺は静かに口を開いた。


「はい、何なりと」


 王女が応じる。


「私たちが元の世界に帰る方法は——」


 イリアの視線が、ほんのわずかに伏せられた。


「……召喚の術は、古の儀式でございます。帰還の方法については、我が国の魔術師たちも現在研究中でございます」


 ガレスが頷いて補足した。


「確約できないのが心苦しい限りでございますが、全力を尽くすことをお約束いたします」


 隣で、カナタが小さく身を縮める気配があった。


「……帰れるんですよね?」


 細くなった声だった。イリアが柔らかく、しかし丁寧に返す。


「必ずや、その道を見つけましょう」


 見つけてみせる、じゃなくて、見つけましょう、か。

 出た、責任主体ぼかしの定型文。

「見つける」動作の主語を誰にも帰属させない、完璧な言質回避である。一国の王族としては当然の話術ではあるが、翻せば、帰還研究への期待値は限りなくゼロに近い、と読むのが自然だ。

 まあ、そういうもんだろう。想定内。


「さて、次にお二方のお力を実際に確認させていただきたく存じます」


 イリアが穏やかに話を繋ぎ直した。


「まずはサトウ様からお願いできればと」

 ガレスが後を継ぐ。


「訓練場にご案内いたします。簡単な模擬戦と、魔法の発動を確認させていただくだけでございます。痛みや危険は一切ございません」


 カナタが、軽く喉を鳴らしてから頷いた。


「わ、わかりました。やります!」


 鑑定どおりの力を見せるだろうな、と俺は確信している。この子は偽物じゃない。本物の勇者だ。

 問題は、俺の方である。


 イリアがこちらに向き直った。


「タカセガワ様のお力の確認は、サトウ様の後に改めて。少しお時間をいただくことになるかと存じます」

「承知しました」


 俺はそう答えて、茶を一口含む。

 ハーブの苦みが、舌に残った。

 ——さて、どう立ち回るかね。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ