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これはチートなんですか!?〜俺のスキル『ネットスーパー』は少し違うようです〜  作者: 御蔭


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第2話 チートの予感(笑)

 

 石板を見つめていたガレスの視線が、ある一点でぴたりと止まった。顎の筋がまた動く。


「……これは」


 呟きに、周囲の魔術師たちが気配を張り詰めた。ガレスは一度深く息を吸って、石板から顔を上げる。


「失礼いたしました。読み上げさせていただきます」


 声はもう落ち着いている。プロだなあこの人。視線は、まず高校生の側の石板に向けられた。


「称号、勇者。剣術適性S、魔法適性S、聖剣適性S——その他、ほぼすべての適性がSランク」


 広間にざわめきが広がった。囲んでいた魔術師たちから、抑えきれない感嘆の息が漏れる。「本物だ」という囁きが、どこからともなく聞こえた。

 主人公補正、フルスロットル。


「……なんという」


 イリアが片手を口元に当てた。文官らしき中年の男——後にエドモンと名乗る——が、王女の背後で低く呟く。


「完璧、ですな」


 高校生はと言えば、自分の数値を聞いて目を丸くしていた。


「え、僕、そんなに……?」


 声は上ずっている。興奮と戸惑いが半々といったところだ。横目で眺めながら、俺は心の中でうんうん頷いた。まあそうだろう。つい数分前まで、この子はただの下校中の学生で、俺の後ろで舌打ちしてただけの存在だったのだ。人生急カーブすぎる。


 ガレスの視線が、もう一つの石板へ移った。

 その瞬間、また顎の筋が動いた。

 お、出ましたね三度目の筋肉。


「……もう一人の方の鑑定結果は——スキル、『ネットスーパー』、以上」


 沈黙。

 先ほどのざわめきとは完全に質の違う、戸惑い百パーセントの沈黙である。

 魔術師の一人が、隣の同僚に小声で問いかけた。


「……それだけ?」

「他の適性は、全て記載なし、でございます」


 応じた声にも困惑が滲んでいる。いや聞こえてるんだよこっちに、もうちょっと声量考えてくれます?

 ガレスは言葉を探すように一度間を置いてから、俺の方へ丁重に向き直った。


「お伺いしてもよろしいでしょうか。『ネットスーパー』とは、一体いかなるスキルでございましょうか」


 聞かれても、正直こっちもよく分からない。

 ただ「ネットスーパー」という単語から想像するに、元の世界の端末一つで注文を受け、提携倉庫や店舗から商品をピッキングして個人宅へ配送する小売りサービス——なのだが、それが「魔法のスキル」としてどう機能するのかは、想像が追いつかない。仕入先は? 決済通貨は? 配送のタイムラグは? 商売人としての脳みそに、確認すべき項目がわらわら湧いてくる。


 とりあえず「まだよく分かりません」と答えるつもりで、口を開きかけた——その時だった。


「あ、『ネットスーパー』! それマジですか!」


 横から、妙に張りのある声が割り込んできた。高校生だった。


「それって、めちゃくちゃ凄いスキルなんですよ!」


 広間の視線が、一斉に少年へ集まる。当の本人はそんなことを気にするそぶりもなく、オタク特有の早口で熱弁を振るい始めた。


「ラノベ界隈じゃ王道のチート能力なんです! 僕たちが住んでた元の世界の現代技術とか物資を、お金さえあればなんでも取り寄せられるっていう、とんでもない超絶スキルなんですよ!」


 少年の目はキラッキラに輝いている。得意げに、熱を込めて言い切った。


「僕の勇者適性なんかより、使い方によっては遥かにヤバい能力になると思います!」


 広間の空気が、また一段変わった。

 落胆の色を帯びかけていた視線が、今度は驚愕と強烈な期待にじわりと塗り替えられていく。


 ——待てぃ!!


 俺は腹の底で叫んだ。

 待て待て待て、話を盛るな少年。「何でも取り寄せられる」って、そんな保証どこにある? それお前の読んだラノベ作者の設定だろ? 俺のスキルが同じように動く根拠なんか、一ミリもないんだぞ?


 分かる。善意だ。無能力者扱いされかけた俺を庇ってくれたんだろう。優しい子だ、ありがたい。ありがたいんだけども、庇い方が派手すぎる。

 これはアレだ。新人営業が接待の席で、出来もしない納期と機能をポロッと口約束しちゃうやつ。現場の人間が頭を抱える、通称・不良債権の卵である。

 イリア王女が、目を見開いた。


「……そうなのですか!?」


 文官のエドモンに至っては、王女の背後から半歩身を乗り出している。


「何でも取り寄せられる、とは——戦略物資も、でしょうか?」


 ほら来た。もう話が具体化し始めてるじゃん。

 期待値ってのは、一度天まで上げると、下げるのに十倍のコストがかかる。どの業界でも同じだ。ここで全否定して場の空気を凍らせれば、せっかく庇ってくれた高校生の顔も潰してしまう。かといって肯定で押し切れば、後日「話が違う」で詰められる未来が確定する。

 俺は愛想笑いを貼り付けて、軽く手を上げた。


「あー、実際のところ、私自身もこのスキルの詳細はよく分かってないんです。彼が言うような万能なものかどうかも含めて、使って検証してみないと何とも言えない、というのが正直なところでして」


 相手に確約を与えない。期待値をほんの一段だけ下げておく。最低限の防御線——リスクヘッジだ。

 イリアが柔らかく微笑んだ。


「それはそうでございましょう。……いずれにせよ、思いもよらぬ幸運でございました。まずは、皆様にこの世界のことをご説明させていただきたく存じます」


 王女は上品な所作で手を差し伸べる。


「応接の間へご案内いたします。お茶などお出ししますので、ゆっくりお話しさせてください」

「ありがとうございます」


 俺は手短に答えた。高校生も弾んだ声で頭を下げる。


「は、はい! よろしくお願いします!」


 魔術師と騎士たちが道を開け、一行は召喚の間を後にした。

 絨毯の敷かれた回廊を歩きながら、俺は内心で短く息を吐く。


 勇者級が二人来た——広間はそういう空気だった。高校生は本物の勇者だ。それは鑑定結果が裏付けている。だが俺のスキルの中身は、これから使ってみるまで誰にも分からない。もし実際に試して、高校生が語ったほどの万能性がなかった場合、あの過剰な期待は一転して負債に化ける。


 まあ、なるようになるか。

 考えすぎても始まらない。どうせ相手の要求を聞くまでは動けないのだ。俺は肩の力を抜いて、王女の先導する背を追った。

 隣で高校生が、うきうきの小声で呟く。


「異世界だ……」


 うん、君の中で盛り上がってる分にはいいよ、マジで。ただ頼むから、これ以上、俺の株を勝手に吊り上げるのだけはやめてくれ。頼むから。

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