第21話:帝都の落日、女王の祝宴
――紙の焼ける、鼻を突く匂い。
ガリウス帝国の首都、その広場では、民衆が「ガリウス金貨」を焚き火に投げ込んでいた。
パン一斤を買うのに、馬車一台分の金貨が必要になった国。
昨日までの「富」は、今日、ただの「ゴミ」へと変わった。
私は、ゼオン陛下と共に、黄金の装飾が剥げ落ちた帝都のメインストリートを歩いていた。
【鑑定対象:帝都ガリウス。資産価値:マイナス成長。……救いようのない、死に体ね】
かつて私を「小娘」と侮辱した帝国兵たちは、今や武器を捨て、虚ろな瞳で私を見送る。
私が一歩歩くたびに、ヴァロワ新金貨の輝きが、彼らの絶望を白日の下に晒していく。
――「静」。
皇帝の謁見の間。
そこには、震える手で王冠を抑え、椅子に縋り付く一人の老人がいた。
ガリウス帝国皇帝、オズワルド。
「……アイリス・フォン・アステリア! 貴様、何をした! 我が帝国の銀行が、なぜ一晩で機能を停止したのだ!」
――「動」。
皇帝が叫ぶ。唾を飛ばし、顔を真っ赤にして。
「……何をした、ですって? 私はただ、『誠実な商売』をしただけですわ。陛下」
私は、リンが差し出した一通の『最終通告書』を、大理石の床に滑らせた。
「あなたが軍備拡張のために乱発した債券。……そのすべてを、私が市場から買い集めました。……そして今、この瞬間をもって、全額の『即時一括返済』を要求いたしますわ」
「……な、……一括……!? 払えるわけがないだろう! そんな金、どこにも……!」
「ええ。分かっております。……ですから、『差し押さえ』に参りましたの」
私は、皇帝の頭上にある王冠を指差した。
「その王冠。その宮殿。この国のすべての土。そして……あなたの、その命」
「……っ! ふざけるな! 帝国は、力で、魔法で……!」
「魔法? ……ああ、あの燃料切れのヴァルガス様のことかしら?」
私の背後で、テトラが冷淡に付け加える。
「……帝国軍の食糧在庫、残り2時間分。……兵士の9割が、すでにヴァロワ銀行から『前借り』をして離反済み。……皇帝の価値、算出。……銀貨1枚(パン一つ分)にも満たず。……ゴミです」
「ゴミ……だと……!?」
皇帝が、膝から崩れ落ちた。
「……おじ様。勘違いしないで。私は、帝国を滅ぼしに来たのではありません」
私は、彼の目の前で優雅に身を屈め、耳元で冷たく囁いた。
「――買い取って、私の『所有物』にして差し上げに来たのですわ」
私は懐から、一枚のヴァロワ新金貨を取り出し、彼の足元に転がした。
「これが、あなたの国の『買収価格』ですわ。……お受け取りになって?」
皇帝が、震える手でその金貨を掴もうとする。
その姿は、かつて私を泥の中に放り出した者たちよりも、遥かに惨めで、滑稽だった。
「……アイリス。……怖い女だな、貴様は」
ゼオン陛下が、私の腰を強く引き寄せ、満足げに笑った。
「怖い? いいえ、陛下。……私はただ、世界を『適正価格』に書き換えているだけですわ」
帝国の落日。
大陸の半分が、今、私の手帳の「資産」の欄に書き加えられた。
――さあ。
大きな整理が終わりましたわ。
次は、あの地下室でまだ夢を見ている「管理人」と「資産」に、最後のトドメを刺しに行きましょうか。
帝国、買収完了。
かつての権威も、アイリスが発行したたった一枚の金貨によって、無残に買い叩かれました。
「静」の女王アイリスと、崩れ落ちる皇帝の対比……これこそが至高の「ざまぁ」です。
「皇帝の没落、最高にスカッとする!」「アイリス様の『おじ様』呼び、冷たくて痺れる!」
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次回、第22話「最後の一円まで(グランド・ゼツボウ)」。
ついに、ジュリアンとマリスの「最終査定」。
自分たちが捨てた女が、もはや「世界の所有者」になったことを知った時、二人の心は――。




