113.有り得るの範囲
そのまま手短に王子様が語ってくれた話によれば、このボロボロの剣には転移能力があって、それは辛うじて生きているらしい。
よって恐らく生き物も含めて無差別に近くにあるものを複製する「何か」があって、その範疇にこのボロボロの剣のオリジナル=本物の宝剣があり、オルトロスをトップとするダギアンの群れと、マンティコアをトップとするマルティヤの群れが、それを利用しているのでは、との事だった。
ゲーム知識がある私とほぼ同じ推測が出来るとは、流石システムガイドも出来る王子様だ。もとい、やっぱり素の頭の回転速度が違うな。今の段階の情報でそこまで推測できるか? 出来ないだろ普通は。
「……、なるほど確かに。その「無差別に近くにあるものを複製する何か」っていうのが若干あれですけど、これだけ色々と訳の分からないものが増えていればそういうのもあるかなって気はしますね」
「まぁ確かにどんな話だろうと、そんな事ある訳ない、とは言えないわなぁ」
「[そこまで荒唐無稽なものを、ある、と想定するようになったのは、キウリの正体を見てからだが]」
「「あー」」
キウリさんの正体=目だと思ってた結晶、だからな。それはそうか。あれは常識ぶっ壊れる。思わず工一さんと声を揃えてしまったが、それはそうだ。
そしてそこで常識ぶっ壊れたから、ただでさえ柔軟にものを考えられて性能の良い頭を持っている王子様の思考の枷が更に一段外れた訳だな。だから「無差別に近くにあるものを複製する何か」なんて発想が出てきた訳か。
なるほどなー。と納得した所で、王子様が続けた事には。
「[とはいえ、恐らくその何かそのものはあの群れの縄張りとは違う場所にある可能性がある。縄張りの中にあるなら、1本ぐらいは模倣されたものがあってもおかしくない筈だからな]」
「確かに、結構な範囲を探索したが、そんなもんがあるっていうのは今回初めて知ったしな」
「でも利用はしてるんですよね?」
「[それは間違いない。だが、模造宝剣の転移能力を完全に制御できている訳でもないのだろう。つまりこちらには群れの一部を、捨て駒扱いで送り込んでいる可能性が高い]」
「あー……そうか、増えた後で群れに戻れば、群れの数自体が増えるから、何ら問題ない、と……」
「問題ないか? だって同じやつが増えてる訳だろ?」
「[モンスターに個体を識別する能力は無い。それこそ己の群れの長ですら、そこにある威圧感に本能的に従っているだけ、という認識しかない筈だ]」
思った以上にモンスターの群れの仕組みが雑だった件。いやまぁそもそも、モンスターっていうのがまともな生き物かって言われたら疑問なんだが。ゲームの中でも色々説があるって事しか分からなかったし。
その説にしたって、既存生物変異説、魔力の凝り実体化説、魔法使いの実験動物説、遺物か遺跡による生物兵器説と、本当に色々だから、考えるのを止めたんだよな。これは分からないやつだって察して。
「……その、随分とこう、雑というか……」
「[そもそも親から生まれる生物なのかすら分かっていないのだ。専門の学者ですら個人ごとに主義主張が大幅に変わるのだから、現場の人間は「そういうもの」という理解をするにとどめておくべきだな]」
「個人ごとに。って事は、それだけたくさんの仮説があるって事ですか?」
「[あぁ。俺様が知っているだけでも、主力7説と無根12説と言われる仮説がある]」
「主力はともかくムコンって……無根拠の無根か? いいのかそれ」
「[学者はそれでよしとしているからいいのだろう。もっとも、それ以外の説も山ほどあるがな]」
そして実際分かっていないようだった。というか、思ったよりずっと多かったんだが。私が知ってるのは、たぶん主力7説って呼ばれる奴だろうという見当もついたが。
しかし本当に分かってないんだな。ゲームの時は分からなかったが、現実になったら分かるかなって思ってたんだが、これは分からなさそうだ。まぁ仕方ないな。分かったら奇跡かたぶん一生分の幸運使ったってなるやつだろうし。




