112P3.その剣の能力
何故ここにある。
無造作に、としか言えない様子で地面に突き刺さっていたそれを見て、まず浮かんだのがその言葉だ。もちろん、想定していた。想定通りだ。その上でまさかという疑念がぬぐい切れなかったから、俺様が直接出向いたのだ。
実際、そこに待ち受けていた個体は俺様達が昨日討伐したばかりの個体よりも大きく、苦戦はしなかったが強力なものではあった。もちろん道中で、昨日討伐したものと同程度の大きさの個体とも戦っている。
「[しかしデカかったな]」
「[周りのにも指示を出してる感じじゃなかったか?]」
「[あぁ、それは思った。防衛組よくしのげたな]」
それなりに長く共に行動してきた、こちらでの部下達の声で我に返る。そうだ、今は呆けている場合ではない。何しろ襲撃は現在進行形で発生しているのだ。それに無駄に時間を使い、先程と同じ個体が出現しても困る。
だから改めて、随分な状態になっている、宝剣にしか見えないそれを観察する。……やはりどう見ても俺様の国の宝剣だ。もちろんその状態は酷いものだが。本当に、よく折れていないものだ。
市井に流れている話では、資格ある者しか手に出来ない、となっている。それは間違っていない。間違っていないが、正しくも無い。何故なら宝剣には防衛機構として、触れようとしたものへ攻撃をする仕組みが組み込まれているからだ。
「(それを正しく解除する方法が、王家に伝わる秘密の1つ。だから本当に宝剣であれば、俺様が追放者であろうとなかろうと、その方法自体が正しければ問題なく手に取れる筈だが……)」
追放者は資格が無い。そう説明はしたものの、本当に宝剣であれば、俺様は手に取る事が出来る自信があった。何しろ正しく解除する方法は、宝剣に対する魔力接続および操作だからだ。俺様は、魔法を扱う技術に関しては自信がある。
実際、まだ王太子だった時に試した時はすんなりと手に取る事が出来た。だから、本当に宝剣であれば、問題なく解除して手に取る事が出来る筈だが……。
いや、時間をかける訳にはいかない。だったら試すだけ試してみるべきだ。そう覚悟を決め、防衛機構の解除をする為の干渉をしながら、折れていないのが不思議な状態の剣に手を伸ばした。
「(ん? 妙だな。以前と比べて難易度が低い)」
干渉は成功したし、防衛機構も存在していたし、その解除方法も俺様が知っているものと同じだった。だから宝剣で間違いない、筈だが、本物に干渉した時に比べて、解除の難易度が低い気がした。
問題なく解除し、柄を掴み、地面から引き抜く。部下達が感嘆の声を上げているが、それより違和感の方が気になって、まず引き抜いた剣の事をよく観察した。
そして気付いたのは、本物の宝剣と比べて、僅かだが寸法自体が違うという事だ。それを理解して、確信する。これは本物ではない。非常によく似てはいるが、違うものだ。
「……。一度戻るぞ。まだ襲撃は続いている」
「[それはそう]」
「[了解っす]」
「[引きずっていくから前頼むわ]」
「[ツミキさんに回収してもらうって訳にはいかねーか]」
「[不思議能力の回収、木を切り開いた所までらしいからなぁ]」
国に居た時の部下が見れば、即座に殴り飛ばされても仕方ない態度だ。だがこちらではこれが普通だし、これで良い。何故なら格式ばった礼儀や見栄など、ここには存在しないからだ。
実力があり、仕事を全うし、輪を乱さなければそれで良い。そしてこういう会話も、意外とお互いの連携を強固にするのに有用だという事も分かった。それはそうだ。何しろ、短い言葉で連携する為には、相手の事を知らなければならないのだから。
……まぁ、今の問題は、この宝剣に酷似した何かだが。最低でも1日に8本出現しているのは確認が取れている。そんな数がどうやって出現したのか、何故モンスターが扱っているのか、修理に必要な設備と材料、運用方法、考える事はいくらでもある。
「(宝剣ではない。だが宝剣と酷似している。恐らく能力もそのまま。であるなら……修復の難易度は高いが、可能な限り回収するべきか)」
何しろ、宝剣と呼び、そう扱い、偽の話を流して真実を隠蔽した程度には価値のある武器だ。その本来の能力は、極僅かな魔力の消費で、そこにある、と認識したものを、何でも斬る事が出来るというもの。
防御機構の難易度に変化があった以上、その能力にも変化がある可能性はあるが……強力な武器がある分には困らないだろう。少なくとも、今共に行動している人間に、これを悪用しようとする者はいない。
それに宝剣には、鏡がある任意の場所に移動するという能力もあった。それが使えれば、拠点の移動が楽になる筈だ。実際の宝剣であればそんな事に使うのは何事かと怒鳴る所だが……これは、宝剣に酷似した別物だ。だったら、便利に使ってしまっても構わんだろう。




