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追放聖女はもふもふ達と恋をする?  作者: 街のぶーらんじぇりー


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 先程まで醜態をさらしていた聖職者どもと違って、司教は一番目立つところに堂々と立ち、私たちを睥睨している。


「まあ、無駄だと思うが、やってみるか」


 テオドール様が強弓を引くけれど、黒い矢は司教の前で不自然に曲がって、あさっての方向に飛んでいく。


「やはりな。弓は通じそうもないか」


「西教会の神聖魔法に、あんな術は存在しないはずです。恐らく風系統か闇系統の魔法使いを従えているのでしょう」


 たぶん、私の見解は間違っていないと思う。西教会の神聖魔法は基本的に治癒と光、雷系統に特化しているはずで、しかも男性聖職者はほとんどそれらの術を使えない。神聖魔法遣いとしてダントツ最上位にいたレイモンド姉様でさえ、矢をそらす技なんか持ってなかったからね。


「反乱軍に加わったビットブルグ子爵は、多くの魔法使いを抱えていた。おそらくそ奴らだろう。だが今まで出てこなかった高位聖職者が登場したということは……」


 ローゼンハイム伯がそこまで口にした時、拡声の魔法に乗って司教の低い声が、辺りに響きわたった。


「我らはこれより、東教会の誤った教義を排し、真の教えを民にもたらすための、聖戦を行う。必勝を期すため貴き生贄として、この者たちを捧げるであろう」


 貴き生贄? そもそも教会に生贄なんて生臭い習慣なんか、なかったはずだけどな……そんな疑問を頭に浮かべていた私の眼に、引き出されてきた「生贄」の姿が映った。


 え、嘘。あの紅茶色した髪の凛々しい女性の容貌には、とっても見覚えがあって……


「マーレ姉様っ!」


◇◇◇◇◇◇◇◇


 後ろ手に縛られた姿で乱暴に引き出されてきたのは間違いなく、王太子妃となったマーレ姉様だった。トレードマークだった紅茶色の髪はボサボサに乱れ、薄汚れてしまったドレスはあちこち引き裂かれボロをまとっているかのよう。眼のあたりは殴られでもしたのか青く腫れ上がっているけれど、それでも気丈に前を向いて立っている。


 そしてもう一人、亜麻色の髪を持った若い女性が、もはや立つ気力もない風情で、兵士に引きずられるようにして晒される。ああ、予想通りだったけれど……行方不明だという、あの優しい第一王女様だ。


 お二人の容貌を知る将校から、怒りの声が上がる。もちろん王族たる彼女たちを捕らえるのは仕方ないとはいえ、直接戦闘員でもない女性にあんな虐待を加えたあげく晒し物にし、あまつさえこれから「生贄」にしようとしているのだ。騎士としての誇りに生きる将校さんたちには、許せない行為だろう。


 もちろん私の胸にも、怒りが渦巻いているけれど……ふと疑問がわく。


 叛乱軍は軍事戦力的には劣勢だ。まともに争うなら、これから王都の城壁を頼りに勝ち目の薄い防衛戦をやって、結局は壊滅することになるだろう。あの小狡い聖職者たちが、そんな滅びの美学を受け入れるとは思えないから、どこかで取引を持ち掛けてくるのではないかしら。


 そうやって交渉になった時に、彼女たち王族女性は、数少ない取引材料になるはずだ。そんな貴重な「材料」を、いくら士気を高めるためとはいえ「生贄」にして殺してしまうものだろうか。卑怯なことでは誰にも負けない西教会の幹部なら、もっといい使い道を考えるんじゃ、ないのかな?


 私がそんなことを考えていたその時、城門が小さく開いて、白旗を掲げた使者がこちらの陣営に向かってきた。


「なるほど、交渉に持ち込むために最初から『切り札』を使ってきたわけか。敵も追い込まれているのだろうな」


 テオドール様が納得したようにつぶやいた。


 使者はそのまま、国王陛下やクリストフ父様のいる本営に吸い込まれて、しばらく出て来ない。その間マーレ姉様たちは晒されたままだ、城壁の上は風が強い、騎士として鍛え上げられた姉様はともかく王女様の身体は、かなり心配だ。三十分が過ぎるころ、本営から戻ってきたローゼンハイム伯を捕まえて、交渉の様子を聞いてみると、眼を泳がせつつ微妙な反応が返ってきた。


「……恐らく、交渉は決裂するだろう」


「敵の要求は何なのでしょう?」


「それは、聖女の耳に入れるわけにはいかず……」


 決して私と視線を合わせようとしない伯爵の姿は、いままで常に毅然としていた彼とは、似ても似つかないものだ。何か、ピンときた。


「交渉条件に、私にかかわる事項が、あるのですね?」


「……それは申し上げられぬ」


 私は確信した。嘘が苦手で実直誠実な伯の性格からすると、私に関係していなければ「ない」と言うはず。言葉を濁す時点で、何か敵が私に関する要求を出していることは、間違いない。


「伯爵様は以前誓われましたね、私の騎士になると。それでは私は自分の騎士に命じます、交渉条件を伝えなさい!」


 ああ、こういう上から目線の態度、私が一番やりたくなかったことなのに。でも、姉様や王女様の生命が掛かってるたった今は、やらないわけにはいかないの。ローゼンハイム伯は一瞬驚いた顔をしたけれど、すぐに私の前にひざまずいて、低い声を発した。


「敵の要求は、聖女を引き渡すこと。聖女の身柄と交換で、王女と王太子妃を返還すると」


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