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追放聖女はもふもふ達と恋をする?  作者: 街のぶーらんじぇりー


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見せしめ

 眼の前には、王都の高い城壁。そして、その上では、残酷な光景が展開していた。


 第三王子派に従わず捕らえられたらしい文官や武官がひざまずかされ、次々に首をはねられていくのだ。その中には、私の見知っている顔も混じっていて……彼が断首されるときには、思わず眼をそらしてしまう。そして首を失った死体を、兵士が嘲りながら城壁の外に蹴り落とす。決して許せない死者への冒涜だけど……壁の外に陣を張る私たちに、出来ることは何もない。


 小競り合いはあったけれど大きな戦闘もなく数日の行軍で王都郊外に着いた私たちは、この狂ったような殺戮劇を無理やり鑑賞させられている。不本意ながら流血に慣れてしまっている私でも、さっき食べたものがのどをせり上がってきそうだ。


 だけど、こんな残虐を見せつけることで、第三王子派に何かメリットがあるのかしら。市内で反対勢力を処刑し、反抗的な市民を恐怖で黙らせるというならわかるけれど、城外に陣取る敵軍に見せびらかす意味が分からない……かえって敵愾心を煽りたてるだけのような気もするのだけれど。


「おのれ……絶対に許さぬ」


 隣に立つローゼンハイム伯も、その貌を怒りで蒼白にさせている。ほら、どう見たってこれは悪手だよ、第三王子派にはまともな頭を持った人がいないのかしら。


 だけど城壁の上をよくよく見まわしたら、敵がそんなおバカな行動に出る理由がわかってしまった。こんな血なまぐさい場所には不似合いな西教会の司祭服を身にまとった聖職者が、囚人を次々指さしては、軍人さんに処刑を命じているようなのだ。


 なるほど。宗教絡みであれば、損得考えないこの殺戮にも納得がいく。狂信者ってのは、自らの信ずる教えがすべてだからね。まあ、神が本当に「殺せ」と言ってるのなら従うしかないかもしれないけれど、実際のところ神の声なんか誰も聞いているわけじゃない。彼らが神の声だと言っている命令は、権力志向の強い高位聖職者が好き勝手に発しているものなんだけれどね。


「異端の東教会を崇める背教者ども! 今すぐ悔い改めて真の神に膝を屈せよ。さすれば今までの罪を一等減じ、神の国に尽くす栄光の端を与えてやろうぞ!」


 拡声の魔法に乗って、聖職者の声がこちらの軍勢に届くと、ざわめきと共に怒りの声が上がる。生まれた時から信奉し、生活の隅々まで浸透している教会を否定されたら、そりゃあ怒りたくもなるよね。それに、あの司教は真の神がどうこう言っているけど、実のところ東も西も信じる唯一神は同じなんだよね。ただ、教典の解釈や信徒のルールが違うだけで、対立している関係なのだ。なのにあんなに金切り声を張り上げて異端だの背教だのと叫ぶ行為を、私はさっぱり理解できない。


 当然、上から目線の敵司祭の勧告に、従う将兵はいない。


「うるせえぞ、とっとと失せろ!」

「背教者は、てめえの方だろうが!」

「ロワールに帰って、ママのおっぱいでも吸ってろや!」


 兵士たちが投げ返す言葉も、なかなか刺激的だ。こんな野次まがいの汚い台詞もすべて拡声の魔法に乗って、城壁の上まで鳴り響いている。テオドール様の指示らしいけど、あの方もケンカ売るのが好きよね。


 案の定というべきか、司祭はなにやら金切り声を上げている。


「ええい、真の教えを理解しない背教者ども、神の怒りのてっ……」


 彼は、みなまでそれを言い終えることはできなかった。見ればその喉元に、一本の黒く塗った矢が深々と刺さっている。


「ふむ、遠矢は久しぶりなのでどうかと思ったが、腕は衰えていないようだな」


 私の隣でそんなことを言うのは、テオドール様だ。何でもないことのようにさらっと口にしているけど、この城壁はやたらと高いし遠いし……どう見たって並みの弓兵では、矢を届かせることだけでも無理だから。ぽかんと口を開ける私に、彼がのんきに声をかけてくる。


「なあ、俺の弓もなかなかのものだろう? 聖女に見せる機会が出来て良かった。どうだ、惚れたんじゃないか?」


「……惚れてはいませんけど、すごくかっこいいとは思いました」


「そうか! あと一歩ってところだな!」


 何があと一歩なんだかわからないけど、テオドール様は顔をぱあっと輝かせて、上機嫌だ。まあ、若い男性ってのは女の子に褒められるのが何より嬉しいものだそうだから、好きに喜ばせておこうか、うん。


 一方城壁の上は、一種のパニックになっている。連中は絶対安全なところに陣取って残酷ショーを楽しんでいるつもりだったのに、そこは安全じゃないってことを、テオドール様が実力で示したのだものね。役にも立たないのに、流血劇を見物するためだけに出てきていた自称聖職者たちが、一番右往左往している。急いで周りに矢避けの盾を並べさせたり、さっさと城壁の内側に逃げ込んでしまったり……みっともないったら、ありゃしない。


 だけど、あたふたしていた敵が、不意にその動きを停めた。何事かと見れば、城壁の上に司教位を示す緑色の衣が、ゆっくりと現われていたのだ。


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