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追放聖女はもふもふ達と恋をする?  作者: 街のぶーらんじぇりー


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聖女の血

 森の洞窟の夜は、静かに更けてゆく。


 私とビアンカ、そして族長様は、人型でゆっくりとお酒を飲んでいる。なんでも同盟しているベルフォール辺境伯がブランデーを何本もくれるのだけれど、飲めるのは人化できる族長様だけ、一人で飲んでもつまらないので瓶がたまる一方だったのだとか。


 丸太を切っただけの素朴なテーブルの上には、湯気の立つような猪のステーキ……もちろん虎さんたちにお料理は無理なので、ビアンカが焼いたものなんだけど。一口サイズにカットしたお肉を頬張りながら、ちびちびと舐めるようにブランデーを飲むのだ。醜態を晒さないよう、大人の飲み方でね。


 夜ともなると洞窟内も冷えるけれど、私とビアンカは極上の毛皮に包まれて、ぬくぬくしている。虎のお婆さんがまるでソファのように、そのお腹で私たちの背中を包んでくれているのだ。


 そして、自然に話題は、ヴィクトルを偲ぶものになっていく。私が話すとやっぱり湿っぽくなってしまうので、彼の活躍を語る役目は、ビアンカが務めることになる。ま、私のあいまいな記憶力で話しちゃうと、いろいろ不正確だから、賢者ディートハルト様譲りの頭脳を持つ彼女にお願いすれば、何かと間違いはないと言うわけよね。


「なるほど、さすがは、我が息子だ」


 私たちと旅したヴィクトルのことを聞いて、族長様が嘆き悲しむんじゃないかという心配は、杞憂だったらしい。族長さんは、ある時は虎型で妖魔を屠り、またある時は魔剣グルヴェイグを手に十倍する人間の兵隊と斬り結ぶ、雄々しいヴィクトルの姿を脳裏に浮かべ、むしろわくわくしているような感じだ。


「我らは、百年二百年生きると言っても、この森を一歩も出ることはないのだよ。穏やかだが、退屈な生涯を送る……それがいにしえより定められた生き方だと思うておったが……あやつにとってここを出てから二年やそこらで、我らが一生掛かっても出来ぬ経験を、数々出来たのだなあ」


「それはヴィクトルにとって、幸せなことだったのでしょうか?」


 私は思わず、族長様に聞いてしまった。私たちとのあれこれは楽しかったのかもしれないけれど、結果として非業の死を遂げてしまったのだ。それも、穏やかに生きておれば得られた寿命からは、はるかに短い時期に。


「ふむ、聖女よ。そんな切なげな顔をするのではない。魔獣の雄にとって、つがいと心を通わせること、そしてつがいを守ることは、生涯最大の目的なのだぞ。ヴィクトルはそれを二つながら実現したのだ、あやつが満足しておらぬわけがない。まあ、聖女とヴィクトルの子供が出来ておれば、我らにすれば最高であったが……そう望み通りに行かぬのが、人生と言うものだろう」


 子供うんぬんのくだりで、ちょっと恥ずかしくて頬を染めてしまった私だけど、族長さんがしみじみと語る言葉には、うなずいてしまう。


 私の知っている魔獣たちは、みんな生涯にひとりのつがいを得て、それを守るために生命を賭けていた。ヴィクトルも人化している時間が長くて、人間の振る舞いなんかが板について来てたけど……やっぱり彼の本質は、魔獣だったのだなあ。


「いやさ、ヴィクトルは聖女と人間の村で暮らすのであろうから、その子供の一人に、儂の後を継いでもらおうかと思っていたのだ。今となっては叶わぬ願いとなってしまったが」


 そうだ、今の族長さんには後継ぎがいないのだった。ヴィクトルに弟さんがいたと聞いていたから、ヴィクトルが戻らなくても弟さんが族長を継ぐのかと私はぼんやり思っていたのだけれど……弟さんは二年前、山崩れに巻き込まれて亡くなってしまったと、虎のお婆さんからここへ来る道々、聞いてしまったのだ。


「ご……ごめんなさい……」


「なんの、聖女のせいではないわ。間が悪かっただけのこと……だが、この里の将来を考えると、族長となる者がいないのは、心配だがの」


 族長になるのは、単に戦いが強いとか賢いとかいうだけでは、ダメらしい。やっぱり、これだけ強力な集団を率いるためには、カリスマって言うかなんて言うか、魅力のようなものが必要なのだそうだ。結局そのカリスマみたいなものは、血で受け継がれるのだとか。この森のサーベルタイガー集団で族長となりうるのは、やはり族長さん直系の虎でないと、難しいのだとか……それを虎のお婆さんから聞いた私は、ある決心をしていた。


「あの……族長様。とても失礼なことを申し上げてしまうのですが……」


「む? 何でも言ってみるがいい。聖女の言葉を儂が失礼と感じるとは、思われぬが」


「これを、お飲み頂けないでしょうか?」


 そう言って、ビアンカが差し出したガラス瓶を、テーブルにそっと置く。瓶の中に満たされている暗紅色の液体を見た族長様は、眼を見張った。


「む、瓶のまわりに紫色の魔力があふれ出して居る……この魔力あふれる液はもしや……」


「はい、恐らくご想像通り、私の血です。気持ち悪くて、申し訳ないのですが……」


(あたしが頼んだのさ。お嬢ちゃんの血を飲んだあたしは、明らかに肉体年齢が七~八十歳若返った。族長が飲めば、百は若返るだろう……そうすれば、この後二百年くらい、虎の里は安泰さね)


「そうか……ヤンカの毛皮にやたらと張りが出たと思ったら、そういうことであったか」


 あ、お婆さんの名前は、ヤンカって言うんだ。ここ数日「お婆さん」で通しちゃってたから、名前なんか気にしてなかった。私って、つくづく失礼な娘よね。



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