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追放聖女はもふもふ達と恋をする?  作者: 街のぶーらんじぇりー


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毒親のしまつ

「これは……まさに一方的でしたな」 


「あはは、ちょっとやりすぎてしまいましたかね?」


 眼の前には、死屍累々。もちろんそのほとんどは、ロワール兵のものだ。


 私の「雷光」はせいぜい二十人くらいしか倒せなかったみたいだけれど、ロワール兵にとって極めて大きな精神的衝撃を与えたようなのだ。そもそも現在のロワールには、重装兵を打ち倒せるような「雷光」を繰り出せる聖女は、いやしない。もともとレイモンド姉様しかいなかったところに、その姉様が逐電してしまったのだから当然なのだけれど。


 そこにバイエルン側に現れた「聖女」が強烈な「雷光」をぶっぱなしたのだ。教会に「聖女」育成システムがあり、「戦う聖女」は自国の専売特許だと思っている者がほとんどであるロワール兵にとって、それは愕然とするしかない事態であったのだ。


 茫然自失するロワール兵に、女神の加護を得たと信じて意気上がるバイエルン騎士たちが、一気に襲いかかったのだ。踏みとどまる勇気を持った者がほとんどいなかったのは、無理もないことなんだろう。


 敵の損害は、五千近いという。あまりの大損害に、アルフォンス様と対峙していた部隊も驚いて撤退し、緒戦は国王とバイエルン連合軍の大勝利で終わったのだった。


 そして私の眼前には、ひときわ豪華な装飾が施された甲冑をまとった、中年の捕虜が引き出されている。言うまでもなく、相手部隊の長であったリモージュ伯爵……血縁上では、私の父だ。


 ローゼンハイム伯爵様が気を遣ってくれたのかも知れないけれど、正直なところこの人がどうなろうが、私にはなんの関心もない。好きにしてもらっていいんだけどなあ。


 だけど私の姿を視界に入れたこの捕虜は、いきなり眉を吊り上げて怒鳴り始めた。


「シャルロット! お前はどこまで、親不孝な娘なのだ! ロワール王室に弓引くような真似をしおって。おまけに父をこのように遇するとは、いますぐこのいましめを解け!」


 はあ、この人は、自分の立場を分かっているんだろうかなあ。私は怒る気もせず、深い深いため息をつきながら、応えた。


「父ですって? 私にはこんなみじめな父はおりませんね。そして私はシャルロットではありません。私の名は、シャルロッテ・フォン・シュトローブル、身分の低いこんな汚い男から、軽々しく話しかけられても困りますね。そして私の父は、クリストフ・フォン・ハイデルベルグ侯爵……こんなくだらない人と違って、とっても立派で、尊敬できるお方ですわ。では、ごめん遊ばせ!」


「な……おい、こら、シャルロット! 父を見捨てるのか……なあ、助けてくれシャルロット! た、頼むううっ!」


 しまいまで聞かず、背を向け遠ざかる。最後は鼻水を垂らし情けない声で哀願する、かつては父上と呼んだ男の姿を、私は二度と振り返ることはなかった。


◇◇◇◇◇◇◇◇


「聖女殿、何と言うか……あの父と名乗る男、本当に良いのか? 聖女が望むなら、あのような小物だ、生命だけは助けてやってもよいのだが……」


 ローゼンハイム伯はまだ私が実父に思いを残しているのではないかと気にされているみたいだ。うん、ここは、はっきり申し上げておかないといけないかな。


「ええ、処刑していただいてもまったく問題ありません。あそこで父と名乗ってわめいている男は、私がロワールを追放されるときも、教会が示した期限より早く出ていけと、厄介払いするように家から追い出したのです。子供のころから、親らしい愛情を注がれた記憶も、まったくありませんし。私がアルフォンス陛下と婚約したときだけは喜んでいましたが……あれはリモージュ家から王妃を出すのが確定したからであって、私の幸せなど頭の中になかったでしょうね」


 普段なら、こんな感情的なことを口に出せば泣いてしまう私だけど、この時ばかりはなぜか一滴の涙も出なかった。心が、乾き切ってしまったと言うのかな。あんな人のために流す涙はないんだよ。


「そうか。であれば、処刑してやった方が武士の情けと言うものだろうな。実は、他の捕虜から話を聞いたのだが……ロワール側はわざとリモージュ伯を先陣に据え、我々にぶつけたらしい。父親の姿を見せれば聖女が戦意を鈍らせ、バイエルン軍の攻撃を止めるだろうと期待していたらしい。実に、愚かなことだがな」


「本当に、愚かですね。自分たちがその『聖女』にどんな処遇をしたのか、覚えていないのでしょうか」


「やった方はすぐ忘れるものなのだよ。やられた方は一生、忘れないのだがね。そういう気持ちは、やられる側になってみないと、わからないものなのさ」


 なるほど、ローゼンハイム伯の言葉が、何やら深い。そう、やられた方は、忘れない。


 だけど、私の場合は、恨みも過去のものだ。だって、バイエルンでできた新しい家族……クララやカミル、ビアンカ、そしてハイデルベルグ家のみんな……そういった人たちが、辛い思い出を、幸せに上書きしてくれたから。だからもう、ロワールのあれこれは、振り返らない。振り返らずに、明日に向かって生きていくんだ、うん。



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