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追放聖女はもふもふ達と恋をする?  作者: 街のぶーらんじぇりー


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アルフォンス様

 ある予感をもって振り向けば、そこには三年ぶりに会った、元婚約者がいた。


「シャルロット。いや今はもう、献身の聖女シャルロッテ様と呼ばねばならないか……久しぶりだね、会いたかったよ」


 レイモンド姉様の黄金みたいな豪華な色ではないけれど、淡く輝くとても綺麗な金髪は、別れたあの頃から、少し伸ばしているみたい。私を優しく見つめるブラウンの瞳は、まったく変わっていない。頬のあたりがちょっと痩せたみたいに感じるのは、最近の内乱で心身とも疲れが溜まっているということなのだろう。


「はい、アルフォンスさ……陛下。お久しぶりです、バイエルンではシャルロッテ・フォン・シュトローブルと名乗っていますわ」


 スカートはつまめないけど、カーテシーっぽく膝など曲げてご挨拶。聖女として振舞うなら、右手を左肩に当てる東教会風お祈りポーズのほうがそれっぽいけれど、アルフォンス様にとっては、貴族令嬢っぽい私の方が、記憶に残っているだろうから。


「ありがとう、君にあんな無情なことをした私のために……参戦してくれるのだな」


「もちろんアルフォンス様のお役に立ちたい気持ちもありますが……私はいまやバイエルンの貴族に叙せられています、ですから自国バイエルンのためにここに参っていますわ。陛下と我が国の利益が背反する時は、私は迷わず、私の家族が住まうバイエルンを選びます」


 これは正直な気持ちではあるけれど、本来は言う必要もないことだ。それをわざわざ口にしたのは、もう私の中でアルフォンス様と慈しみあった日々が完全に過去のものとなっていることを、はっきりこの場で、宣言するため。


「そうか、かの国でよき家族、よき友に巡り合えたのか。もはや、私だけのシャロットでは、なくなったのだな」


 そう言うアルフォンス様が一瞬寂しそうな表情を浮かべるのを見てしまったら。さすがに平静ではいられない。心臓の鼓動がにわかに速くなり、動揺で呼吸が乱れる。


 そのとき、ぐっと握りしめてしまった私の手が、なにか暖かいものに包まれる。


 視線を向ければそこに、いつの間にか私よりこぶし一個くらい背が高くなったビアンカが、エメラルドの眼でしっかりと見つめてくれていた。早鐘のようになっていた心臓の鼓動が、優しく鎮められていく。ありがとうビアンカ、もう大丈夫だよ……私は大きく一回深呼吸すると、アルフォンス様に向き直った。


「はい。私は今、とっても幸せです」


◇◇◇◇◇◇◇◇


「みな聞くがよい! バイエルンの援軍三万に続き、はるか東方より騎馬帝国アルテラの皇弟殿下が来援下された! これも諸外国がみな、正統な国王はアルフォンス陛下と見做しているゆえだ! 正義は我らに在り、勝利は疑いないぞ!」


「うおおっ!」「三万に加え帝国の皇弟様か!」「これで叛乱軍には負けねえな!」


 ベルフォール辺境伯が、部下の将兵を督励すれば、あちこちから喜びの声が上がる。それはそうよね、こないだまでは敗残の国王を迎え、辺境伯軍だけで孤軍奮闘して辛い戦に耐えていたのだもの。援軍を加えようやく軍事的優位を得て、ようやく待ちに待った反撃ができるのだから。


 そして、兵たちの歓呼に剣を空に向けて応えているテオドール様は、その黒一色の軍装が跨る黒馬にぴったりマッチして、ものすごくカッコいい。私に向けるへらへらした顔とは全く違う、カリスマあふれる軍事指導者の顔をしている。ついつい普段の彼を見ていると忘れてしまうけれど、やっぱりこの方は、騎馬帝国を統べる支配者の一人なのだわ。


 不意に、テオドール様がこちらを向いて、視線が合ってしまった。ついつい見とれていたことに、気付かれてしまったかしら。後でまた「惚れただろう?」とかからかわれそうで、思わず眼をそらす。


「さらに、バイエルンより待望の勝利の女神が降臨されたぞ! かの地で『献身の聖女』あるいは『常勝の聖女』と讃えられし、稀代の聖女にして辺境伯の地位にもあられる、シャルロッテ・フォン・シュトローブル……聖シャルロッテ様だ!」


 兵士たちから、うおおっという低いうなりのようなどよめきが、波のように繰り返し押し寄せてくる。指揮台の上にいざなわれた私は、バイエルン軍も併せ五万余となった大軍を前に、若干ビビり気味だ。小さく一回祈りのポーズをとると、あとは出来るだけみんなに見えるように、大きく手を振るだけ。後ろの方の兵隊さんからは私の姿なんて蚊ほどにも見えないでしょうけれど、なぜだかみんな、とっても喜んでくれている。


 うん、まあ……ちょっと照れるけど、こうやってみんなを鼓舞するのが今回の役目みたいだから、精々務めるとしよう。


「常勝の女神あるところ、我々に敗北の二文字はない! 勇戦せよ、さらば王都の城門は開かれよう。そしてアルフォンス陛下を再び、玉座へ送り届け奉るのだ! 正義を尊ぶ騎士たちよ、さあ進め!」


 ベルフォール辺境伯の檄に応え、ひときわ大きい雄叫びが一斉にあがる。みんなの眼が、闘志に燃えてて、とっても頼もしい。「常勝の聖女」とか「勝利の女神」なんて言われちゃったのはちょっと面映ゆいけど、まずはお役目を果たせたんじゃないかな、うん。


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