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追放聖女はもふもふ達と恋をする?  作者: 街のぶーらんじぇりー


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ロワールへ

「もうっ! どうして一人でみんな決めてしまわれるのですかっ!」


「事前に相談したら、聖女は全力で『来るな』って言うんじゃないか?」


 うぐぐっ、そこには反論できないけど。


 私たちは、ロワール国境に向け進軍中だ。結局陛下に謁見した翌日には王都を立たねばならなかった私は、へらへら甘い笑顔を向けてくるテオドール様に、道々文句を言うしかない状況なのだ。


 馬車のすぐ脇をぴったり守るように騎行する彼。引き締まった身体をアルテラの黒い軍服に包んでいるその姿は、普段の印象より三割り増しカッコいい。この方は行政府でも優秀な官僚を演じられるけれど、やっぱり生まれながらの騎兵指揮官なのだと実感する。すっと伸びた背すじとか、たくましく筋肉のついた肩とかを眺めていると、何だかドキドキしてきてしまう。


「たまにはこう言う本来の姿を聖女に見せてやらないとな。どうだ、惚れそうにならないか?」


 おっと、危なかった。確かに少し流されてしまっていたけれど……こんな雰囲気台無しな言葉を口にされて、我に返った私だ。ちょろすぎる自分に活を入れて、まずは仕事に集中することにしよう、うん。


◇◇◇◇◇◇◇◇


 そして数日の後、私たちは国境を越え、ベルフォール辺境伯の本拠地に到着した。アルフォンス様を擁する「王党派」を率いる彼は、領の西端に陣地を構えていたのだ。すでにバイエルンの援軍や王党派の貴族軍は到着していたけれど、私やテオドール様という「看板」の到着を待っていたということらしい。


「久しぶりだね、可愛らしい聖女様。バイエルンで君が活躍した物語は、ロワールでももう有名になっているよ」


「は、はぁ……お恥ずかしいです」


 ベルフォール辺境伯に優しく出迎えられた私だけど、微笑みを浮かべながらのからかいには、どもりつつ赤面するしかない。


 そう、例の劇団はロワールまで公演に来るわけではないけれど、その派手で波乱に富むストーリーは、民衆の心を躍らせるものだ。街道を旅する吟遊詩人がくだんの歌劇を観て、それを壮大な叙事詩に翻案してロワールに持ち込み、竪琴を片手にドラマティックに唄い上げているのだという。そしてこういう物語の常で、口づてに伝わっていくごとに、そのストーリーはより壮大に誇張され、主人公はどんどん美化されてしまう。


 そして、その超絶美化された「聖女」が、なんとこの国の王子から婚約を破棄され、身一つで妖魔のうごめく深い森に放逐され、挙げ句の果てには刺客まで送り込まれて殺されかける。この不当な扱いをしたのは他でもない、この国の首脳部……しかも婚約をあっさり破棄した冷血王子が、今の国王だというのである。


 乗せられやすい民衆がアルフォンス様に反感を抱いてしまうのも、無理ないところなのよね。本当はいろいろ複雑な事情があるのだけれど……吟遊詩人はそんなドロドロした裏事情まで、説明してくれないからなあ。


「それで、戦況はいかがでしょうか?」


 照れてばかりもいられない。気を取り直して、仕事仕事。


「うむ、陛下が王都を守り切れず脱出されたことで、トゥールーズ公有利と言う観測が広がってね。日和見を決め込んでいた貴族たちがかなりあちら側についてしまったのだ。兵力比で言ったら、二対一くらいで我々が不利だな」


 ベルフォール辺境伯は、不利な現状を糊塗しようとはせず、フラットに教えてくれる。相変わらず誠実で公正な方だわ。


「叛乱軍はこの辺境伯領まで寄せてきているが、深い森を利用した防御がうまくいっていることで、前線の戦況は膠着している。お互いに出方待ちをしていたわけなのだが……向こうにはろくな軍師がいないようだね。時間の経過は、我々に有利に働くということは、わかっていたはずなのにな」


「そうですね。お陰で無事に、バイエルン軍が合流できましたもの」


 そう、数日前まで叛乱軍と国王軍は……実質は辺境伯軍なのだけどね……四万対二万、圧倒的に不利だったのだ。だが今は、三万のバイエルン軍が駆けつけたことで、その勢力比は四万対五万と、逆転しているのだ。


「まともな戦術眼をもった者ならば、短期決戦で一気に勝負をつけるしかないと、わかりそうなものですが……」


「ふふふ、バイエルンで常勝の聖女とも呼ばれている君なら、そうするだろうね。だが、敵は所詮、勝ち馬に乗って利権に群がろうという奴らだ。なんとか自分が先陣に立たずに、美味しい汁だけをすすろうとしていたようだ」


「敵がそういうレベルだということは、私たちにとっては幸いですね。我がバイエルンが誇る主将ローゼンハイム伯なら、そんな連中は完膚なきまでに叩きつぶしてくれるでしょう」


「ほほう、これは勇ましい」


 しまった、つい猫をかぶるのを忘れてしまったようだ。まともな淑女は「叩きつぶす」なんて言わないよね、反省反省。ここにいる間は、私は歌劇に唄われる「献身の聖女」なんだから。


「いやはや、さすがは常勝の聖女。君が帷幕にある限り、負ける気がしなくなってきたな。ぜひわが軍の者たちにも、勇気を与えてもらいたい……おっ、これは、陛下……」


 えっ? ベルフォール辺境伯が急に畏まり、うやうやしく敬礼をするのはもしや……



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