第99話 事後承諾
当初の依頼である、物資の運搬は無事完了。
その後、宇宙海賊やら動画投稿による騒ぎや、銀河警察などが絡む事件はこれから収束するだろう。
ここに物資を届けて、一週間ほど事情聴取のために足止めをしていたが、今日、ようやくその拘束が解かれた。
そこで、エミリーさんや後輩たちに挨拶をして、次の仕事のために出発しようとしたところで、エミリーさんから個人的依頼をお願いされる。
「この子たちを、『青の艦隊』に送ってほしいの」
「その二人の女の子たちを、ですか?」
俺とカレンに紹介されたのは、どちらも金髪の女の子。
俺から見て、右の女の子はロングの髪型で年は十歳ぐらいか。
左の女の子は、ショートの髪形で同じく年は十歳ぐらい。
二人とも顔つきが似ていて、双子かもしれない。
そう思って二人を見つめていると、女の子たちは、エミリーさんの後ろに隠れてしまった。
「エミリーさん、この二人は双子ですか?」
「……実は、この子たちは人間じゃないのよ。
例の宇宙海賊の宇宙戦艦の奥の奥で見つかった、再生治療用カプセルの中に二人とも入っていたの……」
「二人で、ですか?」
「ええ、二人で入っていて見つかったそうなの。
そして、ここからが重要なんだけど、この子たちを銀河警察の要請で精密検査した結果、体の構造がアンドロイドと酷似していたのよ……」
「……それって」
「もっと詳しく調べてみないと分からないけど、八十パーセント、アンドロイドで間違いないわ。
しかも、彼女たちは成長型アンドロイド、いえ、バイオロイドといった方がいいわね」
「……確か、バイオロイドって人と同じように体を成長させることができるアンドロイドのことですよね?
あと、年を取ることができるアンドロイドとか言われている……」
「そう、そして、いまだ研究段階で実現できていない神の研究とまで言われているわね」
神の研究。
まさに、生命の根源を脅かす研究といったところか。
地球だったら、悪魔の研究とか言われていそうだな……。
それに、アンドロイドに年を取らせてどうする、とか、成長するのは頭の中だけで十分だ、とかいろいろ言われている研究なんだよな。
「でも、なぜ届ける先が『青の艦隊』なんですか?」
「『青の艦隊』の研究機関が、アンドロイド研究においてトップクラスだからよ。あそこの研究の成果やデータが、他のアンドロイドの研究に役立っているの。
だから、この子たちを任せるならそこしかないと思ってね……」
『色の艦隊』には、それぞれ色々な研究機関を持っているけど、『青の艦隊』にそんな研究機関があるとは、知らなかったな……。
しかも、トップクラスだなんて。
「それじゃあ、この子たちをそこへ送り届ければいいんですか?」
「ええ、向こうの研究機関には、私から連絡しておくわ」
俺は、エミリーさんのズボンをギュッと掴んで、エミリーさんの後ろからこちらを覗きこむ左右の双子と同じ目線にしゃがみこんだ。
「初めまして、加藤康介です。
二人のお名前は何ですか?」
しばらく俺を見つめたまま黙っていたが、右の女の子から喋ってくれた。
『リリ』
『ミミ、です』
「リリちゃんと、ミミちゃんか。
可愛い名前だね?これからしばらく一緒だけど、よろしくね?」
そう言って笑うと、リリちゃんとミミちゃんも笑い返してくれる。
どうやら、受け入れられたようだ。
俺は立ち上がり、エミリーさんに質問をした。
「ところで、これって直接の依頼ですよね?」
「……そうなるわね。
あとで、会社には依頼しておくわ。指名で出しておくから、問題ないはずよ」
「すみません、会社の規約で書かれてあったと思い出したので……」
「いいのよ、頼みに来た私もうっかりしていたわ。
あとのことはしっかりやっておくから、この子たちをお願いね」
「分かりました」
そう言って、俺はリリちゃんとミミちゃんを連れて、宇宙船『イグレイン』に戻ってきた。
最初は、不安そうに、周りをキョロキョロとして俺の服を離さなかったが、ヘレンがこの二人の面倒を積極的に見てくれる。
そのため、俺もヘレンに、リリちゃんとミミちゃんのことを任せた。
▽ ▽
エミリーさんの所を出発して、二日目。
今は、『青の艦隊』の中継基地を目指して、亜空間長距離ワープに入っている。
そこへ、ナンシー班長から、亜空間通信が入った。
『事情は、エミリーから直接聞いているわ。
この件を依頼として扱うことも本社は了承したから、さっそく指名依頼として加藤さん担当に手続きをしておきました。
でも、こういう事後承諾のような依頼は、なるべくやめてくださいね?
結構、手続きが大変なんだから……』
「すみません、ナンシー班長」
『まあ、事情が事情だけに断るわけにはいかなかったのだろうけど……。
それにしても、バイオロイドとはすごい発見ね』
「出自が、よくわからないんですよね。
宇宙海賊が持っていた再生医療用のカプセルに入っていたってだけですから……」
『それを調べてもらうために、『青の艦隊』の研究機関に行くわけでしょう?』
「そうみたいです。
でも、俺はあんまり連れて行きたくないんですよね、実験させられるモルモットのような感じがして……」
『モルモットって、地球で生物実験の時に使う動物よね?』
「はい」
『それを聞いて、加藤さんがどんなことを想像しているか分かったわ。
安心しなさい!加藤さんの想像するようなことはされないから』
「そうなんですか?でも、珍しいアンドロイドなんですよね?」
その答えを聞いて、モニターの向こうのナンシー班長が呆れていた。
『アンドロイドの研究機関って、もっともアンドロイドを大切に扱うのよ?
そんな研究機関が調べるのだから、普通に人に行う検査と大して変わらないわよ。リリちゃんとミミちゃんだっけ?
その二人が怖がる検査や実験なんて、連邦法のアンドロイド法に抵触するじゃない』
……あれ?もしかして、俺のアンドロイドに対する認識とナンシー班長達の認識って、違うようだな。
俺は、どこかでロボットと同じように扱っていたのかもしれないな……。
でも、ナンシー班長達は、人と同じように扱っている。
連邦法でも、アンドロイドの権利?は守られているみたいだ……。
……これは、認識を改めないと、カレンたちに怒られてしまう。
いや、それどころか離れて行ってしまうかも……。




