第100話 研究所
『パパッ!』
亜空間航行四日目、宇宙船『イグレイン』の居住区にあるリビングに顔を出した時、リリが俺に飛び付いてきた。
しかも、とんでもない呼び名とともに。
「パパ?俺が?」
戸惑う俺をさっき、交代でブリッジに向かったエヴァ以外のみんなが見ていた。
そして、抱き着いてきたリリとは対照的に、ミミはヘレンと手を繋いだまま、リリを羨ましそうに見ているようだ。
そこに気付いた俺は、しゃがんでミミを手招きする。
すると、ミミは嬉しそうに俺に抱き着いてくる。
『パパ~』
やっぱり、ミミも俺のことをパパと呼ぶのか……。
昨日までは、パパとは呼んでいなかったのに……。
俺は、抱き着いたリリとミミを抱き上げて、カレンたちを見る。
「俺がパパということは、ママは誰になるんだ?」
そう聞くと、カレンとヘレンとオリビアが、小さく手を上げる。
『私たちが、ママ、らしいです。マスター』
『リリちゃんとミミちゃんから、ママと呼ばれたわね……』
『わたくしも、ママと呼ばれましたわ……』
俺は、三人の答えを聞いてから、リリとミミを交互に見る。
すると、リリが嬉しそうに、カレンたちを指さして呼ぶ。
『カレンママ!ヘレンママ!オリママ!』
それを聞いて、ミミは恥ずかしそうに頷いた。
でも、それなら、エヴァとマリアは何になるんだ?
「リリ、ミミ?エヴァとマリアは何て呼んでいるんだ?」
『マリア姉、エヴァ姉って呼んでる!』
『……私も…』
なるほど、お姉さんという位置づけなのか……。
「それでカレン、何でリリとミミはこんな呼び方になったんだ?
昨日までは、こんな呼び方じゃなかっただろ?」
『それが、今朝起きた時から、ママと呼ばれていました』
「ヘレンたちも?」
『そうですね、私もママと呼ばれていましたね』
『同じですわね、今朝からですわ』
ん~、何故そう呼んでいるのかは分からないが、まあ困ることでもないし、そのまま呼ばせておこう。
リリとミミの面倒は、ヘレンが積極的に見ているしな。
リリとミミの呼びやすい名前で、呼ばせておくか……。
▽ ▽
亜空間航行十日目。
『青の艦隊』の中継基地まで、あと二日ほどだな。
相変わらず、リリとミミは俺たちをパパ、ママと呼んでくる。
それに、一緒に過ごしているうちに、リリとミミの家族になったような感覚になるのだ。
あと、何故か知らないが、リリとミミが俺のベッドに五日ごろから潜り込むようになってカレンたちも一緒に、また寝るようになってしまった。
宇宙船『イグレイン』になってから、それぞれの部屋で寝るようになったのに、リリとミミの登場で、再び一緒に寝るようになった。
今日も、起きると俺のベッドにみんな一緒になって寝ていた。
もちろん、朝早く起きるヘレンやカレンはもういないし、今回の夜勤でブリッジにいるオリビアも今はいない。
リリとミミは、少し寝相が悪いがエヴァに比べたらましだろう。
エヴァは、相変わらず寝た時と頭の位置が逆になっている。
俺は、寝ているみんなを起こさないように、ベッドから抜け出しトイレへと向かう。
トイレから出てくると、カレンに声をかけられる。
『マスター、ちょっといいですか?』
「ああ、いいよ?」
そして、食堂に案内されると、そこにはヘレンがいた。
そして、カレンから、ヘレンが話があると報告される。
「それで、どうしたんだヘレン。
何か、話があるみたいだけど……」
『あの、マスター。
リリちゃんとミミちゃんの事なんですけど、私たちで引き取れませんか?』
「引き取るって、育てていきたいってことか?」
『はい、あんなに懐いてくれているのですから……』
確かに、リリとミミの懐き方はすごい。
出会って四日目には、俺をパパと呼んでいたし、ヘレンたちをママとか姉と呼んで慕っているようだ。
「でも、それはできないんだよな……」
『どうしても、ですか?マスター』
「リリとミミは、『青の艦隊』の研究機関へ届けることになっている。
これは、運搬依頼だからな。
今から、変更することはできないんだよ」
そう、リリとミミは、いわば運搬対象なのだ。
目的の場所、もしくは相手へ運ばなくてはならない。
これは、宇宙運搬会社『ショルフダール』として受けた依頼だ。
この依頼を、今さら変更することはできない。
それに、俺には相手に無事届けるという責任があるのだからな……。
そこの事を聞いて、ヘレンは俯いて落ち込んでいる。
カレンも、少し落ち込んでいるようだ。
「ヘレン、リリとミミを『青の艦隊』の研究機関へ送り届けた後で、お願いしてみるのはどうだ?」
『え?』
ヘレンが顔を上げて、俺を見る。
「俺の仕事は、リリとミミを研究機関へ届けることだ。
その後のことは、関与してない。
だから、俺にお願いするよりも、その研究機関にお願いしてみてはどうかな?」
『そうですね、ヘレン。
『青の艦隊』の研究機関の人にお願いすれば、リリとミミを引き取ることもできるかもしれません』
カレンの言葉に、ヘレンは決意ある目で頷いた。
どうやら、本気で引き取る気でいるようだ。
この十日間という短い日々の中で、リリとミミの存在は、ヘレンやカレンの中では大きな存在となっていたようだ。
▽ ▽
あれから二日後、宇宙船『イグレイン』の姿は、『青の艦隊』の要塞基地にあった。
ここに、『青の艦隊』の研究機関があるのだ。
リリとミミを連れて、俺とカレンとヘレンは宇宙港の待合室の中で座って待っている。
これから、研究機関の研究員の方とお会いするらしい。
五人でソファに座りながら、ヘレンはリリとミミと一緒に手を繋ぎ、俺の横に座るカレンはドキドキしながら待っている。
と、そこへ、ドアを開けて入ってきたのは俺たちをここへ案内してくれた宇宙港の職員の方と二人の女性だ。
どちらも水色の髪の色をして、一人は後ろでまとめ、一人はまとめずに後ろに流している。
「どうも、『青の艦隊』のアンドロイド研究所所属の研究員のミルハです。
こっちは、同じ研究員のカネリといいます。
ではさっそく、その子たちを引き取ってもいいですか?」
「あ~、そのことで少しお願いしたいことがあるのですが、よろしいですか?」
すぐに引き取ろうとしたミルハさんに、俺が話し始めて止める。
ミルハさんは、俺たちをじっと見て、気づいたようだ。
カネリさんは、気づいていないようで、首を傾げている。
「……では、場所を移動しましょうか。
話はそちらでお伺いしますよ」
そう言うと、俺たちはミルハさんの案内で、『青の艦隊』のアンドロイド研究所にお邪魔することになった……。




