第96話 後輩ができました
宇宙船にある第十一格納庫に固定される、宇宙船『イグレイン』。
そして、固定されると同時に通路が繋げられ、さらに物資搬入の大型通路が貨物部の搬入口にドッキングされる。
俺とカレンは、宇宙船の内部へ通路を通っていくが、エヴァやオリビアたち四人は、宇宙船『イグレイン』に残ってもらうことにした。
物資搬入の手伝いとかあるからね……。
通路を通って宇宙船の中へ入ると、ホテルのロビーくらいの大きさの場所に着く。
そして、そこにエミリーさんが待っていた。
「ようこそ、宇宙船『ホールド』へ。
少しの間になるだろうけど、歓迎するわよ」
「はい、ありがとうございます」
エミリーさんと軽く挨拶した後、握手をする。
こうして直接会うのは、あの新人研修以来だ。
「それで、その後ろの人達は?」
「ああ、紹介がまだだったわね。
この三人が、新しく雇った新人たち、加藤さんの後輩になるわ」
エミリーさんの後ろで横に並んでいた三人が、一斉に頭を下げる。
男性二人と女性一人だ。
「加藤さんから見て、左からチャゼフ、ローバス、サクラ。
みんなまだ研修生だけど、終わり次第班長の下で働くことになるでしょう」
チャゼフ君は、背の高い天然パーマの男性だ。
年齢は若くまだ十九歳。だからあんな行動をしてしまったのかな?
ローバスさんは、少しお腹の出た中年のおじさんだった。
年齢は四十五歳。俺より年上で後輩か……。
サクラさんは、金髪でこれまた背の高い女性だ。
年齢は二十六歳。仕事ができる女性に見えるが、宇宙ではどうなんだろう。
「初めまして、私は君たちの先輩の加藤康介といいます。
歳は四十二になるのかな、君たちより二年ほど先輩だけどよろしく」
「「「よろしくお願いします」」」
「それじゃあ自己紹介も終わったし、物資の搬入が終わるまでお茶にしましょうか」
「あ、そうだ、エミリーさん」
「何?」
「宇宙海賊が、この宙域に向かっているって知ってました?」
お茶のために移動を始めたところで、俺はエミリーさんに宇宙海賊の件を聞いてみる。もし知らなかったら、対策の立てようがないからな。
と、思って話したんだけど、すでにご存知でした……。
「ええ、ナンシーさんから連絡は受けているわよ。
その辺りの対策はできているわ」
俺たちは、食堂へ移動しながらその話をしている。
「要は、銀河警察が来るまでの間、持たせればいいだけの事よ。
大丈夫、この宇宙船『ホールド』にも『シールドシステム』は組み込まれてあるからね」
……この超大型宇宙船に『シールドシステム』が?
ということは、この宇宙船、運搬業務もしているってことにあるのか?
俺が何か考え込んでいることに、エミリーさんは何を考えているのか察した。
「加藤さんが、今考えていることであっているわよ」
「ということは、この大型宇宙船『ホールド』も運搬業をしているんですか?」
「もちろん、そうよ。
この『ホールド』は、主に衛星要塞を運んでいるのよ。
もちろん、完成した要塞ではなく部品を、だけどね?」
ですよね。衛星要塞といえば、休憩要塞とも言われている衛星基地のこと。
『色の艦隊』をはじめ、軍関係の戦略的前線基地として使われる一方で、宇宙船の長距離航行の途中に設置して、休憩場として使われもしている。
俺は、完成したものを運んでいるとばかり思っていたけど、現地で組み立てているのか……。
でも、『シールドシステム』が組み込まれているなら安心かな……。
俺たちは、食堂へ移動し、そこでのんびり過ごすことができた。
▽ ▽
食堂でのんびり過ごしていると、後輩のサクラさんが俺に質問してきた。
「あの、加藤先輩は宇宙で仕事をして、どう思いましたか?」
「宇宙を?」
「はい」
俺が、この宇宙で仕事をして思うことか……。
「改めて、宇宙の広さを実感したかな」
「宇宙の広さ、ですか?」
サクラさんは、予想していた答えと違って、少し困惑しているようだ。
この宇宙で、運搬業務をすると嫌でも感じてしまうけどね……。
「そうだよ。何せ、俺たちと同じ人類系統の知的生命体が住む惑星は、銀河の中に数限りなくある。
まあそれは、こんな運搬業務が、宇宙で仕事として成り立っていることから分かるだろう?」
「はい」
「だけど、その人類系統の知的生命体のいる惑星に行くには、何日も亜空間長距離ワープを使わないといけないんだ。
亜空間長距離ワープでの、一日の距離は分かるかな?」
サクラさんは、唸るように考えている横で、ローバスさんが答えを出した。
「確か、亜空間長距離ワープの一日は、約五十光年でしたね」
「あ、そうか」
「ローバスさん、正解。
そんな亜空間長距離ワープを使い何日も移動して、目的地に着かないと人類系統の知的生命体には会えないんだよ。
銀河の直径は、約十万光年らしい。
それを考えると、銀河って広大だなって思わない?」
「……確かに、そう考えると広大ですよね……」
「確かにな……」
頭の中で想像しているサクラさんの横で、同じように想像するチャゼフ君。
「で、そんな銀河が星の数ほどこの宇宙には存在するらしい。
そして、そんな銀河がまとまって銀河団というものを形成しているそうだ。
……ここまで来ると、恐ろしくなるほど広大に感じない?」
「う~ん、想像つかいな……」
「俺も、銀河が集まって銀河団って、どれだけ銀河があるんだよ……」
後輩三人とも、困惑しているようだな。
「まあ要するに、俺たちは小さいってことだよ。
存在も、考え方も、ね。
それが、この仕事をして感じたことかな……」
……三人とも黙っちゃったな。
宇宙から見ると、人って本当に小さいな存在なんだよね。
そんな小さな人が、一つの惑星の中で小さな領土とか小さなプライドを守るために戦いあっている。
この恐ろしいほど広大な宇宙を知ってしまうと、そんな故郷の惑星で起きていることなんて、段々と興味が薄れていくんだよね。
これって、結構恐ろしいことなんだけど、許容できる自分がいるのもまた事実。
宇宙で過ごす間に、変わってしまったのかな?
▽ ▽
その後、エミリーさんに声をかけられ、俺たちは解散した。
俺は、エミリーさんと一緒に物資運搬の完了のサインをもらうために、ブリッジまでついて行く。
実は、この宇宙船『ホールド』の艦長は別にいる。
物資運搬の受け渡し者は、その宇宙船の最高責任者になるから艦長にサインをもらうため、ブリッジに向かっているのだ。
動く歩道を歩きながら、ブリッジを目指す。
食堂から五分ほど歩いているが、いまだに着かない……。
大きすぎる宇宙船も、困りものだな……。




