第95話 なつかしい人
惑星『ボストム』は、今はもう存在しない。
考えてほしい、今の地球の科学レベルの人々が、ワープ航法まで使用している先進文明の人から進んだ科学を教えてもらうとどうなるか。
答えは、簡単だった。
その惑星で起きている問題を、宇宙にまで持ち込み、戦争になるということ。
人々がいろいろな考えを持つことは、仕方がないにしても、国家レベルの考えを宇宙にまで持ち込めば、最後は戦争になってしまうという。
統一政府があれば、まだ違ったかもしれなかった。
人々の、国家の宇宙進出に、法整備が追いつかず戦争となってしまった……。
その後は、その惑星を統一した国家は、全宇宙へ武力をもって進出。
そして、惑星ごと滅んでしまった。
「……それが、『ボストムの悲劇』ですか」
「この出来事以来、宇宙に進出している人々は宇宙初期進出惑星への直接の干渉をしなくなりました。
宇宙進出は、その惑星の文明の段階を踏んで進出してもらわないと、問題を一つ一つ解決できないと分かりましたからね」
ここは、惑星『メータム』と衛星『ニッカ』との間にあるラグランジュポイントにある宇宙船の中だ。
大学の教室のようなところで、講義を受けているのは、惑星『メータム』で雇った現地人とその家族たち。
いっしょに講義を受けている、チャゼフという男性が、今回の動画投稿をして騒ぎとなった本人だ。
今は、反省をして真面目に講義を受けている。
今教えた『ボストムの悲劇』を知り、自分のしたことの先にあったことを考えて後悔しているようだ。
そのことを考えるようになれば、もう大丈夫だろう……。
「はい、今日の講義はここまでです。
明日からは、皆さんが乗る予定の宇宙船について教えていきますからね」
「「「ありがとうございました」」」
教室を出ていく惑星『メータム』の人たち。
これから居住区へ移り、今日一日を終える予定だ。
本当は、こういう宇宙に関する勉強などは、十日ほどで終えて実習兼体験で仕事に慣れ、配達業務を行えるようになるはずだ。
それに、本来は無かった全員への『生体強化』も終わっている。
もちろん、十歳以下の『生体強化』は行なっていない。
それが、連邦法における宇宙のルール。
十歳以下の『生体強化』は、宇宙初期進出惑星の人々には行わないこととされている。
医学的見地から、行わないようになっているものではない。
精神面の未熟さから、そういうルールになってるようだ。
「さて、もうすぐ物資が届くはずね。
……それにしても加藤さん、二、三年会わなかっただけなのに宇宙船を三隻も乗り換えているなんて……」
腕に嵌めた携帯端末を見ながら、加藤さんの最初の案内人のエミリーは、嬉しそうに教室を出て行った。
▽ ▽
衛星『ニッカ』の外側の宙域に、宇宙船『イグレイン』が亜空間長距離ワープから通常航行に戻り、姿を現した。
『通常航行に移行しました、マスター!』
「ご苦労様、エヴァ。
引き続き、ラグランジュポイントにある宇宙船まで頼むよ?」
『了解!任せて、マスター』
ようやく、目的の宙域に到着した。
目の前に見える、あれが衛星の『ニッカ』だろう。
ということは、その先にあるのが、惑星『メータム』という地球に似た惑星だ。
『マスター、ラグランジュポイントの宇宙船を見つけましたわ』
「ありがとう、オリビア。
エヴァ、オリビアが見つけた座標に向かってくれ」
『了解、マスター!』
それにしても、あの惑星『メータム』を宇宙海賊が狙っている?
よく分からない情報だな……。
「カレン、『メータム』の人工衛星を使って、『メータム』内の情報を見ることはできるかな?」
『できますが、どの辺りの情報を見ましょうか?』
「比較的、文明の進んだところのを頼む」
『了解しました、マスター。
………手元のタブレットへ移しだします』
カレンが見せてくれた映像は、あるテレビ局のものだったがスゴイ特集をやっていた。
おそらく、これは例の動画の局独自の検証といったところだろう。
さらに、他の局も同じような内容だ。
そして、投稿者やその家族が消えたことで、さらに憶測をよんでいるようだった。
……もしかして、保護は裏目に出たのでは?
また、投稿された動画は、その後、削除されたようだが、すべての動画を削除はできなかったようで、再び動画サイトにあげられていた。
そして、いろいろなコメントとともに、煽りコメントもあり炎上中のようだ。
「……酷いな。
でも、地球でも同じようなことになりそうな予感がするのは、文明レベルが同じぐらいだからかな……」
『マスター、宇宙海賊の気配は無いようですわ』
「どうやら、宇宙海賊より早く到着できたようだな……」
その時、通信が入る。
前方に肉眼でもはっきりとわかる宇宙船からだろう。
『マスター、前方の宇宙船から通信が入っていますわ』
「メインに回してくれ、オリビア」
『分かりましたわ』
そう答えると、すぐにメインモニターに通信回線の映像を映し出した。
相手は、見えている宇宙船の艦長だろう。
『久しぶりね、加藤さん。新人研修依頼かな?』
「……エミリーさん!お久しぶりです」
『ちょっと忘れていたでしょ、間があったわよ?』
「いえいえ、久しぶり過ぎて驚いただけですよ」
本当は、忘れていたのだが……。
しかし、本当に久しぶりの再会だ。
新人研修では、いろいろとお世話になったな……。
「あ、物資の運搬に着ました。
ドッキング許可をお願いします、エミリーさん」
『ええ、十一格納庫にドッキングを許可します。
そこから、搬入をお願いしますね』
エミリーさんが乗っている宇宙船は、かなりの大型宇宙船のようだ。
しかも、俺が研修の時にお世話になった宇宙船とは違うタイプ。
中心に一本通った円筒形の部分を中心に、あちこちに箱形や球体の部屋がついている感じか。
遠距離移動用宇宙船、といった感じになるのかな。
ワープ航法とかがない場合は、こんな宇宙船が活躍するのだろう。
そんな大型宇宙船だ。
「それにしてもエミリーさん、前とは違う宇宙船ですね」
『ああ、これは会社から支給された宇宙船よ。
現地人の長期教育や、宿泊を考えたものなの。
だから、私の宇宙船は、ここの格納庫に収納してあるのよ』
……あの大きな宇宙船が収納できる……くらいの大きさはあるな。
物資搬入のために近づいているのだけど、縮尺がおかしい。
「全長何キロあるんですか?これ……」
『全長二十三キロよ。
加藤さんの宇宙船も、格納庫に収納できるわね』
デカい!
……でも、この大きさは惑星『メータム』から隠しようがないはずなのに、話題にすらあがってない。
『メータム』からは見えない、発見できない位置にいるのか?
『また後で、会いましょう』
そう言って、手を振って通信を切る。
懐かしい人に会えたのは嬉しいが、今後どうなるのかは見えないな……。




