第94話 軽率な行動
新しい仲間になったマリアは、働き者だ。
おそらく、少しでも早くカレンたちと仲良くなじみたいのだろう。
アンドロイドの制作会社でいえば、ヘレンとマリアは別々の会社となる。
それもあって、早く俺たちに仲間として必要にされたんだろう。
何故なら、マリアは砲撃手、普段の航行では、まず活躍できないからだ。
だから、他の所で必要とされたい……。
惑星『ネスビーナス』から惑星『メータム』へ向かうために、亜空間航行に入って三日目、マリアの姿は居住区のキッチンにいた。
『マスター、これ、カレン姉様に教わって作ってみました。
味見をお願いします』
そう言って俺の座った席のテーブルに出てきたのは、卵焼きサンドのサンドイッチ。
見た目、ふんわり感が出ていておいしそうだ。
さっそく俺は、マリアにお礼を言って、卵焼きサンドにかぶりつく。
「……美味いっ!美味いよこれ、マリアって料理上手だな~」
『えへへ……。褒めてくれてありがとう、マスター』
いや、お世辞抜きで、美味い卵焼きサンドだった。
パンも卵焼きも柔らかく、本当に美味しいのだ。
パンに塗ったバター?も、何か一味加えているようで、全体をまとめている。
それに、卵焼きが絶品です。
これは、カレンが作る卵焼きサンドより、美味しいかもしれないな……。
俺が、そんな感想を持ったことが分かったのだろうか、カレンが少し悔しそうにしていた。珍しい、カレンが悔しがるなんて……。
さて、それはともかく、亜空間航行は順調だ。
ナンシー班長が、亜空間緊急通信が入ってくるまでは……。
「では、惑星『メータム』での新人募集は中止に?」
『ええ、今は緊急で引き揚げ作業に大忙しの状態よ。
こんなことになるなんて、初めてのケースだわ……』
事の始まりは、惑星『メータム』にある動画投稿サイトだ。
ここに、今回宇宙運搬会社に入り、艦長として仕事につくはずの新人の一人がやらかした。
もう分るだろう、宇宙での研修や自分が乗る宇宙船のことなどを、動画サイトに投稿したのだ。
始めのうちは、誰も信じていなかったが、暇な人たちの多い動画投稿サイトで検証が行われ、本物と判明。
後は、大騒ぎになるまで絵にかいたような流れとなった。
さらに、その男のもとには、いろんな惑星『メータム』の組織からの連絡に始まり、さらにいろいろな国家からの接触もあり、『ショルフダール』側が護りきれないと判断し、撤退することになったのだ。
ただ、騒ぎのもとになった男や、他の就職が内定した人たちをその惑星に残すわけにもいかず、家族ともども宇宙に避難させたという。
さらに、『メータム』の地上にあった『ショルフダール』の会社も引き上げたらしい。
そして、後には惑星『メータム』での騒ぎだけが残った形だ。
「それで、これからどうするんですか?」
『とりあえず、投稿された動画は削除させたけど、無駄でしょうね。
色々なところに拡散され、騒ぎは今も収束してないわ』
「こういう時は、下手に否定したりすると逆効果ですからね……。
騒ぎが治まるまで、そっとしておくしかないのかな……」
『そうね……。
でもこれは、加藤さんの地球でも同じことになりかねないわ。
少し、対応策ができるまで、地球での募集は一時ストップすることにしましょう』
「というか、地球での募集、まだやっていたんですね」
『それはそうよ、宇宙進出初期の惑星での社員募集は、昔からやっていたし、年間一人か二人しか採用してなかったから、安全と思っていたからね……』
それで、対応が後手に回ったのか……。
今は、惑星『メータム』で募集した社員とその家族を宇宙で全員研修させて、地上での騒ぎが治まるまで、宇宙で運搬業をしてもらおうと考えているそうだ。
すでに、宇宙船の手配は終わっているし、アンドロイドも用意済み、物資も俺たちが運んでいるもの以外に、いくつか届けられる予定だし、今さらすべてをなかったことにはできないそうだ。
「その投稿した本人は、どうしてます?」
『反省しているわ。
宇宙に連れてこられて真相を知り、強く責められたようね。
さらに、他の新人の社員やその家族からも怒られて、うちの社員が仲裁に入っていったんその場は治まったけど、かなり落ち込んでいたわね……』
あんまり、責めてもしょうがないんですけどね。
今の状況が変わるわけでもないし……。
「とりあえず、『ショルフダール』の社員さんにその怒られた人のフォローをお願いします。
その人を責めても事態が解決するわけではないですし……」
『分かったわ、後で連絡しておく。
加藤さんも、とりあえず物資はそのまま先方に届けてください。
向こうで、対処しますから……』
「分かりました」
『よろしく』
そう言うと、ナンシー班長は通信を切った。
……しかし、研修を動画でとって投稿とは……。
大騒ぎになるって、注意は受けなかったのかな?
俺の時は、俺が携帯端末を持ってなかったからな。
注意を受けても、どこか他人の事と思っていたと思う。
でも、今は携帯端末を持っているんだよな……。
まあ、動画投稿とかしないけど。
というか、どうやって動画投稿するのか分からない……。
俺が、腕を組んで考え込んでいると、後ろからカレンに声をかけられた。
『どうしましたか?マスター』
「いや、ちょっと自分の機械音痴が恥ずかしくなってね?」
『マスターは、機械音痴じゃありませんよ』
「……ありがとう、カレン」
カレンの励ましに、少し安心する。
それにしても、地球でも同じことになりそうな事案だな……。
……もしかして、俺の仕事って地球人の中で最も危険な仕事に就いている?
▽ ▽
亜空間航行、十日目。
残り三日で、目的地の惑星『メータム』に到着する予定だ。
が、ここで、ナンシー班長から連絡が入った。
「え!?それってどういうことですか?」
『どうもこうもないわ、そのままの事よ。
惑星『メータム』に宇宙海賊が、近づいているそうよ。
これは、銀河警察からの確かな情報だから間違いないわ』
宇宙海賊が、惑星『メータム』に向かって、何をする気なんだ?
惑星『メータム』は宇宙進出の初期惑星。
そういう惑星への干渉は、連邦法違反だ。
見つかり次第、処刑されてもおかしくない。
それに、確か何千年か前にあった『ボストム』という惑星の顛末を教訓に、この初期惑星への干渉禁止の法律ができたはず。
宇宙海賊という組織が、初期惑星へ干渉しようとしても、銀河警察が動くはず。
ならば、今回の宇宙海賊は何をしに向かっているのか……。
「ナンシー班長、戦いになりそうですか?」
『……なるかもしれないし、ならないかもしれないわね。
向こうに新人教育を任せている社員も、向かっている社員も武装はしているし、宇宙海賊との戦闘経験もあるからね……』
……これは、マリアの出番が来るのかも?




