第91話 救難信号
亜空間航行から通常航行に変わると、目の前に大きな白い星が見える。
『亜空間長距離ワープから、通常航行へ移りました!マスター』
エヴァの報告を聞きながら、俺はカレンに目の前の白い惑星について質問する。
「カレン、この白い惑星が『ケゲル』なの?」
『え~と、違います。
目の前の白い惑星は、『ケゲル』から一番近い惑星『ボルク』です。
それと、惑星『ケゲル』は『ボルク』の先に見える緑の惑星です、マスター』
白い惑星の先に見えていた緑の惑星が、目的地の『ケゲル』だったか。
しかし、なぜ、こんな場所にワープアウトを?
とりあえず、俺たちは目的地の惑星『ケゲル』へ向けて出発しようとしたところで、オリビアが何かをキャッチしたようで、俺たちを止める。
『待って、マスター。
これは………救難信号を確認しましたわ!』
「救難信号?発信源は?」
『私たちの目の前にある、白い惑星からですわ。
しかも、かなり微弱な救難信号のようですわね……』
微弱な救難信号が、目の前の白い惑星『ボルク』から出ているか。
俺は、オリビアにするに場所の特定を指示する。
「オリビア、救難信号の出ている場所を特定してくれ!
エヴァ、白い惑星『ボルク』の衛星軌道上へ移動してくれ」
『了解ですわ!』
『了解!マスター』
俺は、指示を出した後、カレンに救難信号を受信した後の対応を相談する。
宇宙航行のルールでは、救難信号を受けた場合は、自分たちで救助をしないで、銀河警察に報告するように推奨されている。
それは、宇宙海賊などによる、偽救難信号の疑いがあるからだ。
確かに、発見もしくは受信した者たちが早急に救助すれば助かる場合の確率は上がるだろう。だが、その救難信号が、宇宙海賊などの犯罪者たちだった場合はどうするのか。自己責任で、戦うのか逃げるのか、という議論は続けられてきた。
そこで、銀河警察に任せればいいのではないか、という答えで落ち着く。
銀河警察には、救助部隊が存在する。
救助を専門に行っている部隊だ。
そこなら、もし万が一、宇宙海賊などの犯罪組織の偽救難信号だった場合、きちんとした対応ができることだろう。
というわけで、宇宙で受け取った救難信号は銀河警察に一報することになっている。
「カレン、銀河警察に通報を頼む。
詳しい場所の特定はこれからだけど、どこの惑星かは分かるだろうからね」
『分かりました、銀河警察に通報しておきます』
さて、後は詳しい場所の特定か……。
▽ ▽
白い惑星『ボルク』の衛星軌道上に到着し、惑星の周りをまわっている。
すると、この惑星について、少しわかる。
「……この惑星って、雲で覆われているのか?」
『そのようですね、白く見えたのは、厚い雲で覆われていて地表などが見えなかったからでしょう。
となれば、救難信号が微弱だった理由も……』
「理由も、分かるのか?」
『ええ、分かりますわ、マスター。
おそらく、この分厚い雲が救難信号を吸収しているものと思われますわ。
それで、惑星の外に知らせることができなかった、そんなところでしょうか』
カレンの説明から、オリビアが加わっての更なる説明で、救難信号が微弱だった理由が分かった。
しかし、今はその救難信号を誰が出したか、なんだよな。
『マスター、衛星軌道上に到着!
救難信号が出ていると思われる場所の、真上に到着したよ!』
「ありがとう、エヴァ」
エヴァがいい仕事をしてくれた。
俺たちは今、その救難信号が出ている真上に移動できたのだ。
「カレン、ここからでは確認はできないか?」
『……ダメですね。
この惑星『ボルク』の雲が厚すぎて、通常では確認できません。
降下型偵察カメラを落としましょう』
降下型偵察カメラ。
別名、大気圏突入用偵察カメラ。
主に、人は勿論、宇宙船ですら降りることのできない惑星の大気内を確認するための使い捨てカメラ。
今回は、救難信号が出ていることから、生存者がいるかもしれないが、罠の可能性もある事から、降下型偵察カメラを使うことになった。
十分後、準備が整った。
「それじゃあ、降下型偵察カメラ、降下開始!」
『了解、マスター!降下開始します!』
エヴァが操作パネルに触れると、降下型偵察カメラが、惑星『ボルク』に向けて発射される。
降下速度は、そんなに早くない。
それは、大気圏の摩擦熱で溶けてしまわないようにするためだ。
ブリッジで、その様子を見守る俺たち。
「カレン、銀河警察はどれくらいで到着するかな?」
『先ほど連絡を入れましたから、準備を整えても、あと十分といったところでしょう』
「ありがとう。なら、偵察機からの映像も提出できそうだ……」
『マスター、大気圏を突破しました。
惑星『ボルク』の分厚い雲の中に突入します!』
偵察カメラからの映像も、雲の中に突入したせいか、真っ白い映像しか映してない。
これは、すごい雲の厚さだ……。
今は日の光が当たっているはずなのに、地表にまで届いているのだろうか……。
そんな心配が頭をよぎった時、偵察カメラが分厚い雲を抜けた。
そして、地表の映像に俺たちは驚いた。
「……これって、水の惑星か?」
『陸地が見当たらないところを見ると、惑星全体が水で覆われているようですね……』
『これって、海なの?』
『偵察カメラには、成分分析装置はついてないわ』
偵察カメラに映る、青一色の世界。
海か水かは分からないが、そこに筒状のカプセルが浮き輪を六つ付けて浮かんでいるのを発見する。
どうやら、脱出カプセルみたいだ。
それが、この惑星『ボルク』に落ちて、この場所に浮かんでいたということだろう。
生存者がいるのか気になっていると、上から落ちてくる偵察カメラに気が付いたのか手を振る映像がとれた。
「一人、二人……三人……。
人の大きさから、脱出カプセルにはあと五人は乗れそうだな……」
『マスター、銀河警察が到着しました。
こちらに誘導します』
カレンが、銀河警察の到着を教えてくれる。
これで、この人たちは助かるだろう。
しかし、なぜ、こんなところに脱出カプセルで降りてしまったんだろうか?
この宙域で、戦闘が行われた形跡はないみたいだし……。
▽ ▽
ブリッジのメインモニターに、一人の男性が映し出される。
やせ型の体だが、かなり鍛えている感じだ。
だが、一番驚いたのは、日本人のような顔だろうか。
『まずは通報ありがとうございます。
銀河警察第二百十二救助部隊を率いている、新城達也と申します。
これからこちらで救助いたしますので、そちらが把握している情報を提供してください』
「分かりました。
宇宙運搬会社『ショルフダール』の加藤康介です。
こちらで分かっている情報を提供させてもらいます」
俺は、カレンの方を向くと、カレンは頷き手元の操作パネルを操作する。
すると、映像の中の新城さんに、一人の女性が近づきタブレットを渡した。
新城さんは、そのタブレットを見て、一回頷くとこちらを向く。
『情報ありがとうございます。
それではこれより、救出を開始いたします。
後は、私ども銀河警察にお任せください』
そう言って敬礼すると、通信は切れた。
その後、すぐに銀河警察の宇宙船三隻が動き始める。
俺はそれをブリッジから見て、もう大丈夫と安堵した……。




