第87話 新型宇宙船 1
地球よ、私は帰ってきた!
そう叫びたい気持ちをグッと我慢し、俺は目の前に広がる青い地球の姿に感動していた。
デビット・リンドの事件をはじめ、いろんなことに巻き込まれた俺たちだが、次は普通の運搬依頼がしたいものだ。
『マスター、衛星の月付近にドック宇宙戦艦を発見しました』
「宇宙戦艦?
おそらくロニー先輩の宇宙船だと思うけど、とりあえず行ってみよう」
『了解、マスター!月へ向かいます!』
エヴァの操縦で、宇宙船『アーサー』を月へ向けて発進させる。
そして、少しずつ近づいていくと月に泊まっているドック宇宙船が目視で確認できた。
「……なるほど、確かに、宇宙戦艦だね。
そして、ドック艦でもある……」
さらに近づくと、竹輪のような円筒形の腕輪のようなリングの中に俺たちの新しい宇宙船が固定されていた。
新しい宇宙船の雄姿を、ドック艦に近づきながら見入っていると、通信が入ってきた。
『マスター、ドック艦より通信ですわ』
「了解、オリビア。メインモニターに回してくれ」
『分かりましたわ』
通信パネルを操作し、メインモニターに通信してきた相手が映し出される。
そこには、スライムが服を着た姿の、ロニー先輩が映っていた。
「お久しぶりです、ロニー先輩。
後輩の加藤です、お元気でしたか?」
『フフ、久しぶりだね加藤君。
今回も、加藤君の新しい宇宙船を運んできたよ』
「ありがとうございます」
前回も、宇宙船『アーサー』を運んできてくれたんだよね。
三年離れた、すぐ下の後輩になるんだよな。
それにしても、ロニー先輩を見ていると宇宙人っているんだなって思えるよね。
今まで、出会った人たちも宇宙人ではあるんだけど、俺とそう変わらない容姿だったからな……。
「それにしても、ロニー先輩、宇宙船を新調したんですか?」
「ああ、二十日ほど前にロールアウトしてきたばかりのものなんだよ。
この船に変えて初めてのお仕事が、後輩に新しい宇宙船を届けることというのもね」
「それは、ありがとうございます」
『それじゃあ、眺めているだけではなくて、引っ越しを始めてくれるかな?』
「分かりました、ロニー先輩」
ロニー先輩との通信を切ると、俺たちはドック艦の側に近づき、新しい宇宙船との通路を繋げる。
どこに繋げればいいかは、ナンシー班長の資料にあったので何の問題もない。
『連絡橋、ドッキング完了!
マスター、宇宙船『アーサー』の空間固定完了したよ!』
「よし、それじゃあ引っ越しを始めよう」
『『『『おお~!』』』』
前回の引っ越しの時のように、オリビアとエヴァには貨物室にある運搬ロボなどの引っ越しを任せて、俺とカレンとヘレンで、みんなの部屋の私物などを運んでいく。
といっても、ここに来るまでに、すでに引っ越しの準備は終わっている。
後は、運ぶだけとなっていたので簡単だ。
宇宙船『アーサー』と新しい宇宙船を結んだ連絡橋から、今までいた宇宙船『アーサー』を見ると、あちこちがボロボロになっていた。
でも、まだまだ現役で活躍できる宇宙船である。
「……なあ、カレン。
今後、この宇宙船『アーサー』はどうなるんだろうか?」
『宇宙船『アーサー』は、修理、修復され、新人研修に使われるそうですよ。
マスターも、宇宙船『ランスロット』を使われましたよね?』
「え、『ランスロット』ってお下がりの宇宙船だったの?」
『そうですよ、前の持ち主が新しい宇宙船に乗るので、いらなくなった宇宙船を修理、修復し新人用として提供しているのです』
そうだったのか……。
では、あの『ランスロット』も、誰かが使っていた宇宙船だったんだな。
「それって、新人だからなのかな?」
『と、言われますと?』
「新人はさ、突発的な出来事に弱いから、それで宇宙船を傷つけるからお下がりで……」
『そんなことはありませんよ。
会社としての目的は、先輩たちが使った宇宙船は扱いやすいんです。
色々と、操縦しやすいように改造や改装もおこなわれていますからね。
言うなれば、運搬業になれるための練習艦、といったところでしょうか』
慣れるためか……。
そういえば、最初の頃の仕事は体験を目的としたものが主だったな。
ナンシー班長も、宇宙海賊や人の運搬の体験をって言っていたし……。
「となれば、俺の宇宙船『アーサー』も新人たちに?」
『はい、マスターよりも後に入社した新人へ渡されると思います』
「そうか……」
まだまだ、『アーサー』も現役ってことか。
俺は、『アーサー』との思い出を思い返しながら、新しい宇宙船へ入っていった。
新しい宇宙船。
ナンシー班長の資料を読んでわかっていたが、中に入って空気が違う気になる。
新築の家に入るような感覚だろうか。
あの空気やにおいが違う感じ、そして、大事に使おうと心がける感じ。
通路を歩きながら、宇宙船『アーサー』との違いに少し戸惑ってしまう。
でも、そのうち慣れるだろうと、いろいろ見てまわる。
この宇宙船は、宇宙戦艦タイプではあるが、ブリッジは低い位置にある。
それでも、外はよく見えるし、見えないところはモニターがそれを補ってくれている。
最初にブリッジに入ると、二階構造になっていることに驚く。
艦長席は、二階部分にあり、カレンの席も二階となる。
あと、オペレーターの席は一階部分の左側に集中していて、右側は攻撃のための席となるようだ。
そして、二階の艦長席の真下にあるのが、パイロットの席だ。
今までのような操縦形態では無いようで、いろいろとモニターや操作パネルが増えていた。
「あのパイロットルーム?で、エヴァは大丈夫かな?」
『マスター、ご心配には及びません。
エヴァはアンドロイドです。操縦は操作方法をインストールすれば済むことです』
……こういう時は、便利なアンドロイドだよな。
まあ、俺たちも睡眠学習で習得できるから、便利といえば便利か。
でも、学ぶことは簡単だけど、いざ実践となればアンドロイドの方がスムーズみたいだ。
「ん~、やっぱり増やさないといけないのかな?」
『マスター、アンドロイドを増やすのもいいですが、増やし過ぎると目の届かなくなるものも出てきます。
自分の目の届く範囲で、増やしてください』
……アンドロイドといえど、奴隷じゃないからな。
慣れてくれば、自分で考えて行動するからね……。
目の届く範囲の人数って、どれくらいだろうか?
▽ ▽
ブリッジを確認した後は、ヘレンが向かった居住区を見ることに。
居住区は、宇宙船『アーサー』と繋がる連絡橋である通路から入って、下へ向かうと居住区へたどり着く。
階段かエレベーターを使って下へ降りると、まずあるのが広い円形のロビーだ。
ここから、食堂やトイレ、お風呂、自室へと繋がっているようだ。
「しかし、ここは広いロビーだな」
『ソファなどを置いて、リビングのようにくつろげる空間とするのがいいでしょうね』
「確かに、ここにはソファなどを置くか……。
購入リストに入れて、地球に行ったときに購入しておこう。
それじゃあ、自室を見ていくか……」




