第86話 ショルフダールという会社
俺たちが亜空間長距離航行に入って、十二日目の頃、天の川銀河の端にある基地惑星『ニューバ』には、別の銀河へ行くための長距離輸送シャトルが運用されていた。
銀河から銀河への移動は、普通なら個人所有の宇宙船で移動するのだが、個人所有の宇宙船が無い場合は、この基地惑星から出るシャトルを利用する人々が多い。
銀河から銀河の距離は、銀河を二つから三つ分ぐらいの距離があるため、通常の亜空間航行、所謂長距離ワープでは時間が年単位でかかる。
そこで、使用されるのが『亜空間ゲート』だ。
これは、今いる場所と目的地の場所を『ゲート』という名の大型リングで空間を捻じ曲げて一つに繋げたものだ。
超長距離に離れた場所への移動には便利ではあるが、弱点もある。
それは、『ゲート』という大型リングは設置タイプしかなく、しかも決まった周期での点検や修理などのために人員がかかるということ。
そのため、設置場所が限られることなどだ。
実は、一応ゲート設置の特殊宇宙船は存在する。
ゲートは出発点と到着点にゲートを設置して、入口と出口を造らなければならい。
そのため、入り口設置の後は、出口設置場所まで通常航行なり通常の長距離ワープなりで移動しないといけないのだ。
そこでこの特殊宇宙船の出番だ。
この特殊宇宙船、実は『シールド』や『超新星の涙』と同じオーパーツが使われた長距離ワープを可能にした宇宙船で、この一隻しかない。
どういう原理か知らないが、銀河の端から端までを長距離ワープで一日かからない。
加藤の宇宙船である『アーサー』が亜空間長距離ワープで二千日かかる距離をだ。
つくづく、宇宙って広すぎると感じるな……。
基地惑星『ニューバ』の宇宙港、外銀河発着場にある長距離輸送シャトルの中に、ナンシー班長の上司シャロンが席に座って出発を待っていた。
静かに一人、電子書籍を読んでいたシャロンに通路側から声が掛けられる。
「あら、シャロンじゃない。
このシャトルに乗るってことは、本社に何か用事?」
声をかけてきたのは、シャロンの同僚で同じようにナンシーなどの班長を束ねているアビリアという女性だった。
長い赤色の髪を左肩辺りで一つにまとめた、シャロンに劣らない美人だ。
「ええ、例のデビットの事件で呼びだしを受けてね」
「ああ、聞いてるわ。
あなたの下の新人君が、巻き込まれる形で解決した事件でしょ?
何、上はその詳細が知りたいってことなの?」
「まあ、そんなところでしょ。
後は、惑星『メータム』の今の状況説明かな……」
「例の新人を増やすってあれか~」
そうやって話をしながら、隣の席に座ってきた。
「ちょっと、自分の席に行きなさいよ……」
「ここが私の席なのよ。
……ほら、番号もあっているし」
「……本当だ」
購入したシャトルの明細を携帯端末で見せてくるアビリア。
そこには、確かにシャロンの隣の席の番号が出ていた。
「そうそう、新人といえば、私の所にも新人がいるけど、例の質問がきたわね」
「例の質問って、例の?」
「ええ、『宇宙船なら船長ではないのですか?なぜ、艦長と呼ばれるのですか?』ってね。毎回毎回、新人君が入ってくるとよく聞かれる質問よ~」
「……私の所はないわね。気にしない新人君たちなのかも」
「羨ましいわね……」
ジト目で、シャロンを見て羨ましがるアビリア。
それだけ、多くの新入社員が疑問に思っていることらしい。
――――ポンッ。
『この度は、長距離輸送シャトル『クラウロード』をご利用いただき、ありがとうございます。
このシャトルは、宇宙運搬会社『ショルフダール』の本社がある惑星『ショルフダール』への直行便です。
まもなく出発いたしますので、自分の番号の席でお待ちください』
シャトル内にアナウンスが流れると、シャロンは窓から外の宇宙の景色に目を向ける。
ここは天の川銀河の端にある基地惑星なのだ。
もうお分かりだろう、シャトルの窓から見えるもの。
それは、天の川銀河そのもの。
この基地惑星に来なければ、このような絶景は見られないだろう……。
シャロンが外の景色に夢中になっている間に、シャトルは出発する。
そして、宇宙港を離れ、いくつもある『亜空間ゲート』の中から別銀河の惑星『ショルフダール』行きのリングゲートへ入っていく。
リングゲートに入ると、シャトルから見える景色は変わり亜空間航行の時と同じになる。つまり、光のトンネルの状態になるのだ。
――――ポンッ。
『亜空間航行に入り、安定いたしましたので、お寛ぎください。
このシャトルは、別銀河の惑星『ショルフダール』への直行便です。
『ショルフダール』到着までは、四日を予定しております。
この度は、長距離輸送シャトル『クラウロード』をご利用いただき、ありがとうございます』
シャトル内にアナウンスが鳴った後、隣の席のアビリアが話しかけてくる。
「ねえシャロン、あなたは例の質問にはちゃんと答えるの?」
「私は、ちゃんと答えるわよ。それに隠すようなことでもないでしょ?」
「いいの?」
「構わないわよ、階級がばれたところでそんなに下の新人君たちと仲が良いわけでもないし」
「……そういえばそうね」
宇宙運搬会社『ショルフダール』では、何故宇宙船なのに船長ではなく艦長と呼ぶのか。
それには、宇宙運搬会社の前身にあった。
その前身とは、惑星『ショルフダール』の統一軍の中にある兵站部隊だ。
元々、惑星『ショルフダール』にはいくつもの国が存在した。
それを宇宙進出とともに、世界各国と話し合い統一政府が誕生。それと同時に統一軍も組織された。
そこに後方支援を目的とした運搬部隊、兵站部隊があった。
これが、宇宙運搬会社の前身である。
その後、統一政府はもっと大きないくつもの銀河を支配する連邦政府に加盟し、『色の艦隊』や『銀河警察』の恩恵を受けることになり、統一軍の存在が疑問視されることに。
そこで、統一軍を解散させ、惑星守護を目的とした防衛軍を組織することになった。
防衛軍の活動は、主に惑星内で起こるテロなどの反発勢力の鎮圧や惑星外の小惑星などによる衝突回避などを目的とすることに。
そうなると、兵站部隊の意味が無くなってしまった。
当時は、兵站部隊は民間の輸送船などを使って、目的地へ物資を運搬する時の護衛をしていた。
その時使用していたのが、宇宙戦艦だったため船長ではなく艦長なのだ。
兵站部隊が、輸送船を持つことは無く民間の輸送船で事が足りていたため、護衛役に徹していたのだ。
しかし、惑星『ショルフダール』を中心とした防衛軍の活動範囲が、兵站部隊の存在意義を疑問視することに。
そこで、当時の兵站部隊の大将が、自身の実家の運搬会社の支援を受けて宇宙での運搬会社設立ということになったのだ。
それが、宇宙運搬会社『ショルフダール』の誕生となる。
その後、『ショルフダール』は本社を惑星『ショルフダール』に置き、活動場所を隣の天の川銀河とすることに。
当時は、天の川銀河に運搬会社は一社しかなく、まだ介入できるとチャンスがあると思ったのだろう。
そして今では、天の川銀河におけるシェアは第一位となっていた。
「……これを簡潔に、説明するのよね……」
携帯端末から、会社設立や艦長呼びのことなどが書かれた書類を見て、ウンザリするアビリア。
すると、シャロンが呟く。
「艦長だろうが、船長だろうがどうでもいいわよ。
艦長という呼び方が、うちの伝統とでも言っておけば、一応の納得は得られるわよ」
「……それもそうか。
詳しくは、本社に聞いてと、言っておきましょう」
「そうそう、本社に丸投げでいいわよ。
上の連中にも、働かせないとね」
「そうよね~、大将なんか当時のままだものね……」
宇宙運搬会社『ショルフダール』、創業して今年で約2400年近くになる……。




