第85話 上司の悩み
我社の新人の加藤さんとの通信を切ったナンシーは、ため息を吐く。
また、加藤さんに負担をかけてしまったのだ。
あのミャリーさんの依頼は、人の運搬という体験をしてもらうために加藤さんに回した依頼だったのだが、何故か一つの惑星に住む人たちの生死を分ける事件にまで発展してしまった。
普通は、新人である加藤さんに、そんなことに巻き込まれるような依頼を回すことは無いに等しい。
それに、我社は運搬屋だ。
物や人を目的地へ運んで終わりの仕事。
そんなニュースになるような、大きな事件などに巻き込まれること自体あり得ないというのに……。
「……もしかして、巻き込まれ体質?」
いつしか、そんな答えが導き出されてしまう。
そこへ、私の上司でもあるシャロンが訪ねてきた。
ノックもしないで、扉を開けて執務室に入ってくる上司のシャロン。
「お久しぶり!ナンシー。元気だった?」
「……いいえ、疲れていますよ。
私の上司に、大変なお仕事を任されましたから」
「ひどい上司もいたもんだね~」
あなたのことですよ、シャロンさん。
……本当に、大変な仕事でした。
「おや、それって加藤さんのデータ?」
いつの間にか、私の後ろに回り込んだシャロンが、私の手元に表示しているモニターを見て疑問を持つ。
まあ無理もない、社員のデータ管理は上司の役目だが、いちいちこうして個人情報を見ないものだ。
「ええ、乗船する宇宙船を変える予定なので、記載していたんです」
「……へぇ~、あのロールアウトしたばかりの試作宇宙船を加藤さんに回すの?」
「ええ、加藤さんから攻撃手段を相談されましたのでね。
今回の事件で、今まで乗っていた宇宙船を修理に出したいということでしたから、いっその事新型に変えてはどうかと提案しました」
う~ん、と考えるシャロン。
その顔は、加藤さんに新型を渡して大丈夫か不安な様子ですね。
「加藤さんにあの試作宇宙船は、ちょっと大変じゃない?」
大変、でしょうか?
加藤さんの乗る予定の試作宇宙船は、二つに分かれる宇宙船です。
貨物部分と宇宙戦艦部分の二つに。
貨物宇宙船でありながら、宇宙戦艦としての機能も持つ挑戦的宇宙船。
「加藤さんなら、今後の仕事に役立ててくれますよ」
「だといいんだけどね~」
「それより、私を訪ねてきたということは、何かあるのですか?」
私が、加藤さんの事から話題をそらすと、シャロンはニヤリと笑う。
本当に、美人のニヤリは絵になりますね……。
「これ、見てくれる?」
そう言うと、シャロンは胸の谷間から携帯メモリーを取り出します。
……大きいと、そんなことができるのですね。
「……どこに入れているのですか?」
「まあまあ、とりあえず見てよ」
私は、シャロンから預かった携帯メモリーを机にある差込口に差し込んでデータを読み込みます。
すると、モニターに映し出されたのは、青い惑星でした。
でも、どこかで見たことが……。
「って、これ加藤さんの故郷の地球という惑星ではないですか」
「やっぱりそう思うよね~、でも違うのよ。
これ、惑星『メータム』というの。加藤さんの『地球』と同じような姿かたちの惑星でしょ?」
宇宙には、類似した惑星があると言われますが、見た目がここまで似た惑星はあまり知りません。
それに、似た惑星でも、どこかで違いが出てきますが……。
「それで、この惑星『メータム』がどうかしたのですか?」
「実は、去年ごろからこの星に調査員を派遣しているんだけどね?この度加藤さんたち『地球出身者』のおかげで、この度『メータム』からも宇宙貨物船の艦長を募集することになったの」
へぇ、艦長の募集ですか。
その人たちは、私以外の班長の下に配属されるのでしょうね。
……それにしても、なぜ艦長なのでしょうか?
我社は運搬屋で、使っている宇宙船は貨物型。通常なら宇宙船の船長でしょう?
なのに、我社では艦長と呼ぶ。
………まあ、今さらどうでもいいですね。
「それで、新人教育ができる者が必要というわけですか?」
「ああ、そこら辺の手配は済んでいるわよ。
問題は、物資の運搬」
「物資、ですか?」
「そう、新人教育期間中の物資や、新人に渡される宇宙船の運搬に、アンドロイドの運搬とお願いしたいんだよね~」
「……その手配を、私に丸投げしたいと?」
「実は私、出向が決まったのよね。それも本社に。
もちろん人事異動じゃなくて、短期の出張扱いになるわ。
その間のことを、任せられる人はナンシーしか適任者がいなくて……」
またそんな厄介ごとを……。
でも本社って別銀河にいかないといけないのよね。
どう見積もっても、一年は軽くかかる。
「はぁ、分かりました。
出向している間、惑星『メータム』のことはお任せください……」
「ありがとう~、ナンシーならそう言ってくれると信じてたよ~」
シャロンは、私に抱き着いて感謝しているようだ。
こういう行動ができるから、シャロンは私の上司なのかもね……。
「それじゃあ、お願いね!」
そう言うと、執務室を風のように出て行った。
はぁ、また仕事が増えたわ。
とりあえず、今日は帰って寝ましょう。
もうこれ以上、何も考えたくないわ……。
▽ ▽
亜空間航行一日目。
宇宙船『アーサー』のブリッジで、新しい宇宙船の資料を読んでいると、カレンがコーヒーを入れたカップを持って現れる。
『マスター、コーヒーを入れました』
「ありがとう、カレン」
『それは、新しい宇宙船の資料ですか?』
「ああ、ナンシー班長が送ってくれたものだよ。
次の宇宙船は、攻撃手段も持つ宇宙船だからね。どんなものか確認したくて……」
『それで、確認してみてどうでした?』
「それもう、ワクワクが止まらないよ~」
カレンに、あれこれとしゃべっている俺の顔が笑顔になっているのが分かる。
何故なら、カレンも笑顔で聞いていてくれるからだ。
本当に、新型宇宙船に乗れる日が楽しみでしょうがない。
地球まで、あと二十日もある。
早く着かないかね~。




