第81話 始まる戦い
惑星『セネリーオル』の衛星軌道上に浮かぶ宇宙戦艦のブリッジでは、デビット・リンドがゆったりと艦長席に座り、目を瞑っている。
「……そうか、残念だな」
「今まで、雇用していただきありがとうございました」
デビットの秘書を務めていた女性が、雇用契約の期限がきたとかでこの宇宙戦艦を降りるために、挨拶にきていたのだ。
「君の仕事は、評価に値する働きぶりだった。
また、頼むこともあるかもしれないから……」
「ありがとうございます。
では、これで失礼させていただきます……」
そう一礼すると、そのままブリッジを出ていく。
女性が出ていくと、艦長の男が近づいてくる。
「よろしいのですか?あの女は、かなり秘密を知っていますが……」
「構わん、それが契約だからな。
それに、あの女はここであったことを話すことはないよ、何せプロだからな」
「そ、そうですか……」
艦長は不満顔だったが、デビット・リンドがいいというのだから手を出すことはできない。それに、あの女を迎えに着た船は、連邦政府の宇宙船だ。
こちらから、手を出すリスクはよく分かっている。
「エーバス!」
デビットはオペレーターの一人の、エーバスを呼ぶ。
エーバスは、すぐにデビットの側まで駆けつけた。
「奴らから、例の宝石の連絡はきたか?」
「いえ、いまだに連絡はございません。
もしかしたら、手こずっているのかもしれません……」
デビットは、考える。
宇宙海賊の『ホーネス』が手古摺るか。
今までの仕事は、手際よく済ませて早々に連絡がきたのにか?
「……手古摺る……、いや、やられたのかもな」
「まさか、『ホーネス』ですよ?」
デビットは、信じられない顔をしているエーバスに笑みを向ける。
すると、エーバスはその笑顔に恐怖を感じた。
デビットが、エーバスに何かを喋ろうとしたとき、ブリッジに警報がけたたましく鳴る!
「何だ!やかましいぞ!」
「デビット様!敵襲です!
この惑星『セネリーオル』へ攻めてきました!」
「ならば、さっさとやることをやれ!
惑星の影にいる奴らも、衛星の影に隠している奴らも全部出せ!」
「ハ、ハイッ!」
ブリッジが、あわただしくなりオペレーター全員が、付近にいる全ての宇宙海賊に緊急連絡をする。
「襲撃してきた敵の姿をメインに映し出せ!」
すると、メインモニターに、敵の艦隊が映し出される。
ざっと見ただけで、二十隻以上はいる宇宙戦艦が姿を現している。
その光景を見て、デビット・リンドは笑っていた……。
▽ ▽
惑星『セネリーオル』から少し離れた宙域にワープアウトした宇宙船『アーサー』。
そこで、待っていたのは、宇宙船『アーサー』の半分ほどしかない宇宙貨物船と、それを護衛する宇宙戦艦の二隻だ。
『マスター、通信が入りましたわ。メインモニターにまわしますわ』
「ああ、ありがとうオリビア」
そして、メインモニターに映し出されたのは、赤い髪をなびかせた女性将校だった。
黒と赤の軍服を着て、こちらに向けて敬礼している。
『初めまして、今回の計画に賛同しましたミッシェルと申します!
ロディ殿の命により、大気圏突入、大気圏突破型の宇宙艇をお持ちしました』
「それは、ご苦労様です。
宇宙運搬会社『ショルフダール』の加藤といいます。
今、ミャリーさんとクラリスさんを呼びますので、お待ちください」
『ご配慮、ありがとうございます』
そう言ってお礼を述べると、敬礼を解きブリッジの乗組員へ指示を飛ばしていた。
聞こえてくる内容から、宇宙艇の積み替え作業の事みたいだ。
俺は、すぐにカレンに言ってミャリーさんとクラリスさんを呼んでもらう。
カレンは自分の席から、パネルを操作しミャリーさんたちを呼びだしたようだ。
『すぐに来るようです』
そう言ってから、わずか二分でブリッジにミャリーさんとクラリスさんが入ってきた。
二人とも、慌てていたのか髪が乱れている。
手で髪を整え、メインモニターに視線を移すと、知り合いがいたようだ。
「ミッシェル!あなたが、運んできてくれたの?!」
『ロディさんに頼まれてね。
すぐに、そっちの宇宙船に移し替えるから用意して?』
そう言って、準備していた宇宙艇の移し替えがおこなわれる。
おそらく、理由は『シールド』にあるのだろう。
安全に、大気圏突入させるには、必要なものになるからな。
それに……。
「ちょっと、ミッシェル!惑星『セネリーオル』の周辺でチカチカ光っているのって、戦闘しているの?」
『陽動ですよ、陽動。
デビットも、こちらの計画をつかんでいたようで、宇宙海賊を惑星の影に隠していたようです』
どうやら、惑星『セネリーオル』の地上へ降りるための援護を買って出てくれたようだ。
そして、すでに戦闘は始まっていて、俺たちもあの戦闘の中、ミャリーさんとクラリスさんの乗った宇宙艇を大気圏突入させるらしい。
それを、俺たちの宇宙船『アーサー』がやることになったようだ。
それから移し替え作業をすること、三十分。
何ごともなく、移し替え作業が終わり、宇宙貨物船と宇宙戦艦は、このまま衛星軌道上の戦いへ行くことになるようだ。
『それじゃあミャリー、クラリス。
大気圏突入、がんばってね』
ミッシェルさんが手を振りながら、通信は切れた。
「……では、出発しましょうか!
エヴァ、シールドレベル六へ、このまま通常航行で惑星『セネリーオル』へ近づく」
『了解、マスター!』
「ミャリーさんとクラリスさんは、宇宙艇に乗り込む準備をしてください。
乗り込んだら、射出するまで待機しててください」
「分かったわ」
「分かりました」
そう言うと、二人はブリッジを出ていく。
もうすっかり、この宇宙船になれてしまっているようだ。
どこに何があるか、わかるのだろう。




