第74話 白の艦隊の長
衛星都市『ダンカー』へ降りるエレベーターの中に、襲撃者たちから逃げきることができたクラリスと、それに巻き込まれたミャリーの二人がいた。
「……クラリス、あいつら何者なの?」
「分からないわ、あなたとの待ち合わせ場所に行こうとここに到着したら、話があるとかで……」
「それで、私のことを?」
「ええ、ミャリーの持っている宝石を売ってくれるように口添えしてくれないか、てね。でも、その宝石の価値を私は知っていたからね。
丁重に断ると、力ずくに変えてきて、あの騒ぎってわけよ」
「はぁ……。そういうことなら、あいつらの後ろにいるのは……」
「ええ、九割方、デビット・リンドでしょうね。
あの男のやり方は知っているから、これからは力ずくのみで来るわね……」
エレベーターの中から見える衛星『キグマ』の地表を見ながら、クラリスとミャリーは、ウンザリな表情を浮かべていた。
「……それで、『白の艦隊』の協力はとれたの?」
「ええ、大丈夫よ。
私の知り合いが、『白の艦隊』に所属していてね、上の人を紹介してくれたわ」
「上の人?」
「連邦政府直轄軍『白の軍隊』総括、ウィリアム・ロードカシアス軍団長よ」
「『白の艦隊』のトップじゃない!よく会ってくれたわね……」
「ウィリアム軍団長の第一秘書を紹介してくれたのよ。
だから、今回の計画を話すと、すぐに時間を作ってくれたわ」
前にも書いたが、色の艦隊は、すべて連邦政府の力そのもの。
どんな色があるのかは、あえてここには書かないが……と言うか、書けないのだ。
色の艦隊の中には、秘匿されている色の艦隊が存在するために。
今書かれている色の艦隊は、表に出ている色の艦隊ということになる。
で、色の艦隊の正式名称が『連邦政府直轄軍』となる。
「それで、どんな人だったの?トップの人は」
「ウィリアム軍団長は、普通のおじさんだったわね。
オーラが違うとか、迫力あるとか、そんな感じは一切なかったわ」
「そうなの?」
▽ ▽
『白の艦隊』の持つ中継基地衛星の一つである、衛星基地『オービタリー』。
その基地の上部の奥に、執務室がある。
普段は、基地司令や大隊長クラスが集まり、会議などに使われる部屋だが、今は軍団長が逗留しているので、専用室と化している。
「構わんぞ?その計画に手を貸すことぐらい」
「軍団長、もう少し溜めて答えると威厳があるように見られますよ?」
「威厳なんぞ示してどうなるんだ?
ただ威張るだけの小さい男と見られるだけだろう。
それよりも、即断即決であとのことは任せろと言った方が、カッコいいだろ?」
側に控える秘書は、頭を抱えてため息を吐いた。
まったく、子供っぽいおっさんだ、とでも言いたげだ。
そのやり取りを見て、クラリスはソファーに座ったまま苦笑いを浮かべる。
これが、色の艦隊の中でも数で勝る軍団の長なのか、と。
ウィリアム軍団長の一言で、銀河が震えるとまで言われているような影響力のある長の一人なのだ。
こんなに軽い人とは、思わなかったクラリスであった。
「そ、それで『白の艦隊』が協力していただけるのですよね?」
「ああ、だが君たちの計画を考えれば、一個大隊を動かすだけで済みそうだがな?」
秘書を見るウィリアム軍団長。
そこには、『白の艦隊』すべてを動かすことはないだろう?という同意を求めている目だ。秘書はそれが理解できたのか返事をする。
「そうですね、『白の艦隊』すべてを動かせば、他の色の艦隊が警戒しますし……」
「で、では、一個大隊とはどれほどの?」
「ふむ、数にして七隻の小隊規模が二十だったか?」
「十九です、軍団長……」
「そう変わらんだろう?一つや二つ。
それに、大隊長クラスが持つ規模は、旗艦合わせて十二か?」
「はい、すべて合わせて宇宙戦艦が145隻の戦力になります」
「ひゃ……」
『白の艦隊』の持つ宇宙戦艦は、最新鋭のものが多い。
それは、『白の艦隊』で研究機関や造船ドックを持っているからだ。
研究は、連邦政府の許可のもと最新の物が研究されていた。
それを反映した宇宙戦艦が、毎年のようにロールアウトしてくるのだ。
まあ、最新鋭艦ならではの苦労もあるのだが……。
そんな宇宙戦艦が145隻。
宇宙海賊のような、使い古した戦艦や奇襲をメインに改造した戦艦など敵ではない。
しかし、何故こんなにも協力的なのか……。
「そんなの、名声がほしいからに決まっているだろう?
連邦の持つ色の艦隊は、はっきり言って何しているか分からない艦隊だ。
普段は、どの色も表には出てこないからな。
そういえば、この間は『緑の艦隊』が世間の話題をさらっていたな、確か……」
「惑星に小惑星が衝突し、人々が大変な思いをしている時に現政府が反対勢力との戦争に明け暮れていたようでしたからね。
連邦大使の要請で、『緑の艦隊』が介入し両勢力を黙らせたとか」
「おお、それそれ。
だからな、色の艦隊は人々の味方、的な印象を与えなくてはいけないんだよ。
それを考えれば、今回の君らの計画、協力のしがいがあるってものだよ」
まあ、確かに大きすぎる力は何もしていなくても恐れられるもの。
しかも連邦政府直轄の軍となれば、どんな軍なのか知ってもらわないといけないというわけですか。
……まあ、協力してくれるならどんな形でもありがたい。
「まあ、そういうわけで今回は喜んで計画に協力させてもらうよ。
……ところで、この計画には例の大隊を使おうかと思うんだが、どうかな?」
「例の大隊?それは……」
「シャーリーの大隊だ」
「……軍団長、あそこは鼻つまみ者が行き着く大隊ですよ?
それに部下の小隊の中には、宇宙海賊かと見間違う者たちもいます。
それに、大隊長のシャーリー・ガラハウもまた、裏切り者という噂もあるほどです」
「だが、噂は噂だろう?
信じて命令を出さなければ、ますます鼻つまみ者となるだけだろうに」
そんな軍団長と秘書との会話に、クラリスは不安になる。
「あ、あの、そのお話の大隊は大丈夫なのでしょうか?」
「ああ、大丈夫だ。腐っても『白の艦隊』の一翼を担っているのだ。
今回の君たちの計画にある、デビット・リンドの持つ宇宙海賊など蹴散らしてくれるはずだ………たぶん……」
「!!」
軍団長の、多分という発言でますます不安になるクラリス。
そのため、秘書が保険を提案してくる。
「軍団長、保険としてマーガレットを付けてはどうでしょう」
「俺の孫娘をか?
まあ、あの子ならシャーリーも受け入れてくれるだろうが、勘繰られないか?
シャーリーたちを信用していないと」
「そこは、今回の計画の重要性から現場を学ばせたいとすれば……」
「ふむ、受け入れてくれるか……。
……分かった、マーガレットをシャーリーのもとに就かせろ。
今回は現場を見学させるということにしてな」
「了解しました」
秘書が頭を下げて、了承する。
クラリスは、よく分からなかったが、これは安心していいのだろう。
とりあえず、『白の艦隊』を動かすことはできたわけだ。
後は、ミャリーが惑星『セネリーオル』に例の『超新星の涙』を設置できれば、たくさんの人が助かることになる。
そして、この計画の最終目的が達成されるはずだ……。
▽ ▽
衛星都市『ダンカー』の都市内を、周りを気にしながらクラリスとミャリーは歩いていた。
エレベーターを降りて、都市の中にあるというクラリスの使っている隠れ家へ向かい、武器などを装備して、今度は宇宙船『アーサー』へ向かうためだ。
「……クラリスの報告は分かったわ。
けど、宇宙港からだいぶ離れているのね、クラリスの隠れ家……」
「宇宙港近くは、家とかないからね。
それに、エレベータから降りたから分かるでしょ?周りの様子が」
確かに、あそこに隠れ家は逆に目立つ。
ホテルに、長期滞在もないわね……。
それにしても、今度は私たちが力で押し通らないといけなくなるとは……。
エレベーターの中でも、クラリスに謝られたけど、逃げる方向を間違えたわ。




