第73話 初めての買い物
「あれが、惑星『クルビー』か……」
俺の目の前にある、青い惑星『クルビー』。
地球と同じように見えるものの、よく見れば大陸の形が違う。
そして、人工衛星も飛んでいないみたいだ。
「カレン、人工衛星がとんでいないようだけど、不便じゃないのかな?」
『マスター、百年前後で移動する惑星に、人工衛星は飛ばせませんよ。
軌道の変更をいちいちしなければいけませんからね』
「そういうのは、パターンが決まっていたら自動でできないの?」
『おそらく自動では無理でしょう。
恒星の周回軌道が変わるといっても、毎回同じタイミングで変わるわけではありませんからね、地球の地震と同じです。
起きることは分かっていても、いつ、は分かりませんよね?』
なるほど、予測がつかなければ、人工衛星や宇宙ステーションなどの軌道変更は無理か。
ならば軌道エレベーター……も同じ理由か。
まあ、この宇宙船『アーサー』に大気圏突入能力や大気圏離脱能力は無いからな。
移動惑星の地上に降りる、なんてことになった場合、どうしようかと思ったよ。
『マスター!衛星『キグマ』が近づいてきたよ』
「了解。オリビア、衛星『キグマ』にある衛星都市『ダンカー』の宇宙港に連絡してくれ、着港許可がほしいとね」
『分かりましたわ』
オリビアに指示を出し、しばらく待っていると、返事が返ってきた。
『マスター、着港許可が下りましたわ。
第七宇宙港に入ってほしいそうですわ』
「了解。エヴァ、第七宇宙港へ!」
『……え~と、この光っているヤツだね。
了解!マスター、第七宇宙港へ入ります!』
エヴァは、操縦席にあるモニターに映る宇宙港の全体図を見て、案内の光を見つけそこへ宇宙船を移動させるため操船する。
宇宙船『アーサー』が向かう宇宙港は、衛星から突き出ている円盤状の建築物になっていた。
さらに、それが宇宙港の入り口だと分かるように番号がふられている。
第七宇宙港は、大型宇宙船用の入り口をしていて、全長三キロある宇宙船『アーサー』もすっぽりと入れる広さだ。
宇宙港の中に入れば、他にも大型の宇宙船が停泊しており、そのほとんどが貨物宇宙船とみられる。
『速度減速、逆噴射!』
ゆっくりとスピードを落とし、宇宙船『アーサー』は宇宙港に停止した。
停止を確認すると、停泊アームが出て『アーサー』を完全に固定する。
『アーム確認!メイン動力停止!マスター、停泊完了だよ!』
「ご苦労様、エヴァ。毎回ホント操縦旨いよな」
『えへへ』
エヴァが照れている、可愛いな~。
「それじゃあエヴァ、宇宙港との連絡通路を出して」
『了解!マスター』
▽ ▽
宇宙港と連絡通路で結ばれれば、そこを渡ってミャリーさんが待ち合わせているという宇宙港の発着ロビーへ行く。
ここの発着ロビーは、円盤状になっている宇宙港の中心がそうみたいだ。
宇宙船が出入りする外周部に、人を受け入れる中心部。
そして、衛星都市へと繋がっているエレベーター。そこを通れば衛星都市へと入れるわけだ。まあ、今回は用はないけどね。
それに、今日は人の出入りが少ないようで、人を探すにはもってこいだな。
「ミャリーさん、お探しの人はいましたか?」
「え~と、いないわね……」
キョロキョロと発着ロビーの中を探すミャリーさん。
どうやら、待ち合わせていたクラリスという人は、まだ来てないようだ。
「ミャリーさん、のどが渇いたのでドリンクを買ってきます」
「あ、私の分もお願いできる?ここにいるから」
「分かりました。カレン、ついて来て、俺じゃあどれを飲んでいいか分からないから」
『分かりました、マスター』
少し苦笑いのカレンと一緒に、ロビーの端にあるお店に向かう。
ここは、どうやら自動販売機なるものは無いようだ。
少し歩いたロビーの端にある店で、黄色いドリンクを三つ購入。
味は、炭酸のグレープフルーツ、といったところ。なかなか冷えてて美味しい。
「う~ん、これが宇宙で初めて買った飲料になるんだな……」
と、感慨深く味わって飲んでいると、ロビーのエレベーター付近が騒がしい。
そっちに視線を映せば、一人の女性と三人の男が殴り合いの戦いをしていた。
俺のいる場所とは距離があるのか、声は聞こえないが何か叫んでいるようだ。
「喧嘩かな?カレン」
『……どうも違うようです、口の動きからあの女性が狙われているようですね』
「……物騒な所だね……」
すると、戦いは女性が有利になってくる。
男たちの動きから、どうやら急所を蹴られたようだ。
痛そう……。
「クラリス!」
「ミャリー!」
エレベーターの戦いが気になったのは、俺たちやロビーにいた人たちだけじゃない。
待ち合わせをしていたミャリーさんも気になったようで、戦いの場に近づき、暴れているのが待ち合わせていた人のクラリスさんだったようだ。
ミャリーさんが、クラリスさんに近づいた時、エレベーターの扉が開き、中からガラの悪そうな男が二人降りてきた。
「おいおい、何だ、情けねぇな~。
たった一人の女に……いや、二人か。
おめえ、ミャリーって女か?」
「何故私の名前を?!」
「こいつは助かったぜ。こっちの女を脅してはかせる手間が省けた。
お前、すげえ宝石を持っているんだってな?
そいつを寄こしな、そしたら命は助けてやるよ。そこの女共々な」
「命はって、ただ助けるってわけじゃないんでしょ?」
ミャリーさんとクラリスさんは警戒して会話している。
エレベーターから降りてきた男は、汚い笑みを浮かべている。
「そりゃあ、分かるだろ?お前らが女で俺たちが男ならよ」
「クズどもが!」
「いくよ!ミャリー!!」
クラリスさんがそう叫び、ミャリーさんの手を取る。
そして、床にあるものを上げつけると閃光が走った。
「「「ぐあっ!!」」」
「眩しい!!」
俺は、ちょうどカレンが俺の目を手で塞いでくれたおかげで、眩むことはなかった。
だけど、光が落ち着くと、ミャリーさんとクラリスさんの姿はなく、目を押さえてうずくまっている人たちがロビーのあちこちにいた。
何てはた迷惑なものを……。
と、思ったが、逃げるためには仕方ないのかもしれない。
……それにしても、ミャリーさんを見失ってしまった。
「カレン、どうしようか?ミャリーさんを見失ってしまったよ」
『マスター、大丈夫です。
ミャリー様と、お連れのクラリス様はエレベーターに乗り衛星都市へと逃げたようですので……』
衛星都市へ逃げたのか……。
これは、どうしようか?俺たちも、衛星都市へ行くか?
しかしな……。
困った俺は、とりあえず、自分の宇宙船に戻ることにした。
何か対策を考えなければ……。




