第70話 依頼の裏
『『エーマス』は一つあれば、惑星全体をカバーできる。
何個も作ってものう。
それに、他の魔法が使える惑星は、お主ら人類系統の者たちが積極的接触を規制しておるようじゃしの』
ジェームズさんが、『エーマス』を複数作らない理由を述べていたが、俺の頭の中は、ミャリーさんがもしかしたら、その惑星から『エーマス』を盗み出して追われているのではと、疑っていた。
そんな考えに陥っている俺に気が付いたジェームズさんが、一言注意する。
『ほっほっほ、加藤君、お主が何をそんなに真剣に考えているのかよくわかるぞ?
お主、『エーマス』を持っていた女子を疑っておるな?
魔法が使えなくなった惑星から盗み出したのではないか、と』
「!わ、分かりますか?!」
『おお、分かるぞ?加藤君が、その女子のことを疑いたくないが疑ってしまうジレンマがのう。
じゃが、安心するがいい。
その女子が、『エーマス』を盗み出したわけではない』
「本当に?」
『本当じゃよ。それに今までの加藤君との話の中にあったじゃろ?
研究機関が『エーマス』を研究したが、分からなかったと……』
ああ!そういえば、そうだった!
『エーマス』は一つしかない。なら、研究機関で研究なんてできないはずだ。
現地での研究ならまだしも。
「では、ミャリーさんはその研究機関から盗み出したということに?」
『ほっほっほ、それも違うようじゃのう。
儂が、今少し調べた限りじゃと、魔法の使えなくなった惑星で謎の疫病が蔓延し始めていて死者が出ているようじゃな。
いろいろと手を尽くしておるようじゃが、年々酷くなっておるのう。
そこに加藤君の知っておるその女子が、『エーマス』の存在に気付いたようじゃ。そして、それを惑星に戻すためにいろいろと手を尽くして、今手元に、というわけみたいじゃの。
無茶なことをしよるのう』
ミャリーさん、その惑星に生きる人たちのために……。
これは、ますますしっかりその目的地の惑星に届けなくてはならなくなりました!
「あの、ジェームズさんに聞きたいんですが……」
『ん?何じゃ?答えられることなら何でも答えてやるぞ?』
「その、ミャリーさんが狙われているみたいなのですが、どこに狙われているか分かりますか?」
ジェームズさんは、ふむ、と言うと左手を横に振る。
すると、何か分かったように答えてくれた。
『儂が今調べた限りでは、狙われているわけではないようじゃな』
「そ、そうなのですか?
でも、ミャリーさんは周りを気にしていたようなんですが……」
『ほっほっほ、それはおそらく『エーマス』の価値を知っておるからじゃろう』
「でも、もしかしたら研究機関の人達が取り返しに来るとか……」
『ほっほっほ、それは無いじゃろう。
その女子は、『エーマス』を研究していた研究機関を説得して持ち出したのじゃからな。それに、その研究機関も何の成果もない『エーマス』の研究に、いい加減見切りをつけたがっていたようじゃのう』
……それなら、ミャリーさんの話は研究者たちからすれば厄介払いができた、ってことなのか?
なんだか、気合を入れて損したような……。
『加藤君、儂ら精神生命体は寿命が十億年あるそうじゃ。
じゃが、こうして加藤君などの他の生命に興味を持っていられるのも、最初の一億年がせいぜいらしい。
後の九億年は、他の生命体に興味も示さず、宇宙を彷徨うだけらしい。
こうしたほかの生命との話、面白かったぞ?』
「それは、俺もです。
今の連邦政府よりも、さらに上の存在にあえるなんて、思いもしませんでした」
『ほっほっほ、また会えたら、こうして気軽に話をしてくれるかの?加藤君』
「勿論です。こちらからお願いしたいですよ。
……ちなみに、ジェームズさんは、今おいくつなんですか?」
『儂か?儂は今十万歳と少しじゃな。
宇宙を漂うようになるには、まだまだじゃよ、ほっほっほ』
そう言って笑うと、俺の見ていた景色は元の宇宙船の食堂に戻る。
ちょうど、『エーマス』じゃなくて『超新星の涙』を触らせてもらったところだ。
「……ん?どうかした?」
ミャリーさんが、俺の様子がおかしかったのか、声をかけてくる。
俺は触っていた手を引っ込めて、答える。
「いえ、何でもありません。
……あのミャリーさん、質問させてもらってもいいですか?」
「ええ、何でも聞いて?」
俺は、ジェームズさんから聞いたことを質問してみた。
どうしても、宇宙港での態度が気になったからだ。
「ミャリーさんは、この『超新星の涙』をどこの惑星に持っていこうとしているんですか?」
「……加藤さん、知っていたんですか?」
「何故、そう思うんですか?」
「だって今、どこの惑星にって。
私は、惑星『ニッカス』の宇宙ステーション『キダ22』としか言っていませんでしたから……」
そうなんだよね、惑星『ニッカ』は魔法が使える、もしくは使えた惑星ではない。
だから、そこに行く必要が分からなかった。
ジェームズさんとの話の中で、そのことが引っ掛かったんだ。
『エーマス』こと『超新星の涙』を、研究機関から説得して持ってきたのに、真っ先にその魔法が使えた惑星に行かないのは何故なのか……。
で、今考えてもしかしたら、本当に何かに狙われているのかなって……。
「『超新星の涙』は、魔法が使えた惑星に持っていく必要がある、でしたか」
「………やっぱり、知っていたのね。
加藤さんが、どこで知ったのかは聞きませんが、そうです。
今、惑星『セネリーオル』では、謎の疫病が蔓延しています。そのせいで、惑星自体に降り立つことを禁止され隔離されました。
おそらく連邦政府の許可が下り次第、惑星自体を……。
私はそんなことにならないように、その惑星の疫病について調べつくしました。
そして、ようやく見つけた!
ある研究機関がおこなっていた、魔法が使える惑星の生命体の調査。
その中に、魔法が使える生命体は、その住んでいる惑星を離れるとある病気にかかり死んでしまうと……」
……もしかして、その研究機関って、赤の艦隊のブローグ研究機関の事か?
あそこは、魔法が使えない人を魔法が使えるようにしていたからな。
「その研究機関が調べた疫病の症状と、似ていたんですか?」
「似ていたじゃないわ、そのまま同じだったのよ。
それで、原因が分かったの。
『魔力』の枯渇による生命機能の低下、それによって起きる症状だったってね。
そうなれば後は、その惑星に『魔力』を戻せば済む話。
だから今度は、惑星『セネリーオル』の歴史について調べたわ。
そして、『超新星の涙』に行きついたのよ。
この『超新星の涙』を持っていた研究機関は、私の話を聞いてすぐに私に預けてくれた。だけど、そのことを知ったある人物が私に接触してきたの」
「ある人物?」
俺は、腕を組んでミャリーさんを見る。
研究機関も厄介払いする『超新星の涙』を、何のために必要とするんだ?
「それは、デビット・リンド。鉱物商よ」
この宇宙では、宝石商はあまり儲からないらしい。
何故なら、地球で一番高いダイヤモンドもその物が石と同じように取れる惑星があったりするからだ。
それに、生命体ごとに価値観も違うから、よほど情報収集の上手い人でないと儲からないみたいだ。
そこで、商売になるのが鉱物商だ。
鉱物は、あらゆるものを造るうえで必要となる。だから、鉱物資源の多い惑星を見つけては占有を連邦政府に申請し、採掘をおこなっている。
だが、中には、鉱物資源の豊富な惑星を見つけると、その惑星に住む生命体を追い出したり殺したりして占有を申請するらしい。
占有申請は、惑星に生命体がいなければ、通りやすいみたいだからね。
『デビット・リンドの名は、あまり良い鉱物商ではないようですね……』
カレンは、俺の隣に座ってデビットについて調べたみたい。
亜空間ネットを使ったのか……。
「ええ、デビットは元宇宙海賊だからね。
宇宙海賊をしていたころ、鉱物惑星を発見してそれをもとに鉱物商になった男だし……」
……ミャリーさんは、本当に狙われていたようだ。
でも、『超新星の涙』をどうするつもりなんだろう、デビットとかいう鉱物商は……。




