第71話 黒幕の男
惑星『セネリーオル』の衛星軌道上に漂う、中型宇宙戦艦。
そのブリッジには、たくさんの乗組員が自分の仕事をしている。
その中で、艦長席の隣の椅子に座り、ブリッジから見える惑星『セネリーオル』を見つめる一人の男がいた。
「リンド様、連邦の封鎖は解けぬようです。
こちらから何度も打診をしているのですが……」
デビット・リンドの側にいる秘書の女性が、デビットに話しかける。
デビットは、少し面倒くさそうに、秘書の方を向かずに答えるのだった。
「ああ、構いませんよ。例の宝石さえ手に入れることができれば、後は自然と私のものになりますからね。
それよりもリーベラ?ハロルドとジーマに連絡をしてくれましたか?」
「はい、連絡をして、指示を伝えておきました」
それを聞くと、ニンマリと笑顔になるデビット。
相変わらず気持ち悪い笑顔だと、冷めた表情で傍に仕える秘書リーベラ。
彼女は、このデビット・リンドという男が嫌いだった。
まず、何を考えているのか分からないところがあり、また人脈も謎の組織みたいなところとつながりがある所とかが、怖い所だった。
そして、何より嫌いな所が、元宇宙海賊であること。
宇宙海賊とのつながりも噂としてあるが、リーベラはそこのところは知らない。
リンドとは、仕事の上でしか接点がないからだ。
「あの、デビット様。質問をよろしいですか?」
デビットの斜め後ろに控えて、嫌悪の視線をデビットにぶつけていると、艦長席を離れて、前に立ってブリッジ全体を見ていたカーン艦長が、声をかける。
「ああ、構わないよ」
「先ほど、例の宝石が手に入れば自然と惑星『セネリーオル』が手に入るということを仰ってましたが、どういうことか説明してもらえるでしょうか?」
デビット・リンドは無能が嫌いだ。
そして、自分の考えを理解できないものも嫌っている。
これは、デビットに叱られるのではと、リーベラが身を構えているとデビットは叱るどころかその質問に答えてくれる。
……どうやら、今は機嫌がいいらしい。
「ムフ、いいだろう。その質問に答えてやろう。
いいか?今惑星『セネリーオル』は謎の疫病が惑星全体に蔓延して、この惑星に住むすべての生命体の危機になっている」
「はい、この病は連邦政府でもわからず、現在この惑星との唯一の連絡手段の軌道エレベーターも止まっています」
「そうだ、この惑星は連邦によって封鎖されている。
だが、私はこの謎の疫病の正体を知っているのだよ」
「「な!」」
「んん?」
リーベラは、思わずカーン艦長と一緒に声をあげてしまい、デビットに睨まれた。
「失礼しました」
「クフ、構わないよ」
デビットは、いやらしい笑みを浮かべると、構わないと前を向く。
「……それで、その正体のことは連邦には?」
「教えるわけないだろう?
このまま、放っておけば自然と謎の疫病で『セネリーオル』の生命体は絶滅してくれるんだ。そうすれば、この惑星の鉱石はすべて私のものなのだ」
気持ち悪い笑みを浮かべて、今にも声をあげて笑いそうになっている。
本当に、最悪の男だ。
惑星に住む、生命体の絶滅を望むなんて……。
「……しかし、それでは惑星の生命体が絶滅した後、私どもも降りられなくなりますが……」
「クフフ、それは心配ない。
この惑星の疫病は、この惑星特有のものでこの惑星にもともと住んでいた者でない限り感染はない。
それに、こうしてここにいるのも、絶滅後、真っ先にこの惑星を占有するためだしな」
頬杖をつき、ますますニンマリと気味の悪い笑みを深める。
ああ、早く契約期間が終わらないかな、と後悔するリーベラだった。
「では、例の宝石との関係は……」
「それなんだよね。その例の宝石、『超新星の涙』がこの惑星の疫病の唯一の治療アイテムなんだよ。
だからこそ、今、交渉しているのだけど、ねぇ」
デビット・リンドの口から出た交渉のセリフ。
後ろで聞いていたリーベラは、呆れていた。
何故なら、デビットの交渉とは、最初はおとなしくお金で解決さる。
だが、二度目からは部下たちに殺さないように指示を出し狙わせる。
もちろん、ここで狙っているものを盗むなんてことはしない。要は脅しにかかるのだ。
その後、頃合いを見計らって、再びお金で交渉する。
もちろんその時には、最初に提示した金額の十分の一での交渉だ。
これで、相手が渋々だが受ければそこで終わりだが、断れば、大変なことになる。
知り合いの宇宙海賊から、暗殺者まで使って文字通り命を狙わせる。
その後、最終交渉に入るのだ。
ここまでくればほとんどのものが交渉に応じる。
だが、払われるお金は最初の提示した金額の百分の一、千分の一まで落ちる。
そして、ここで交渉決裂の時は……。
もう分るだろう、二度と交渉することなく姿を消すことになる。
「では、その宝石を手に入れたら……」
「何もしない。その宝石を眺めながら、惑星『セネリーオル』の生命体が絶滅するのを待つだけさ。
クフフフ、今回は少ない経費で、この惑星が手に入りそうだよ」
……なぜ、このような男が存在するのでしょうか?
しかも、このことに連邦政府は気づいてないのでしょうか……。
この、たった一人の男の考えによって、惑星『セネリーオル』の生命が絶滅の危機に瀕しているというのに……。
▽ ▽
惑星『ニッカス』の宇宙ステーション『キダ22』の到着ロビー。
ここは、太陽系内の惑星と惑星の間にある中継宇宙ステーションの一つだ。
惑星間の通常航行は時間がかかる。
そのため、このような中継ポイントが必要になるのだ。
そして、ここで足りなくなった食料などの物資を積み込み、再び目的の惑星へ旅立つ。まだ、ショートワープが通常化される前には、活躍したステーションだ。
まあ、今でも、中継ポイントとして使われてはいるが……。
「到着ロビーには、人が少ないですね……」
「中継ステーションは、今はこんなものよ。
……いたわ、加藤さん、こっちです……」
ミャリーさんと一緒に、この『キダ22』のロビーに降り立った俺とカレン。
何かあれば、カレンが守ってくれるが一応俺も訓練はしている。
それに、何かあれば逃げるだけである。
ミャリーさんは、目的の人物を見つけ、その人物に近づく。
その人物は、ロビーの端の大きな窓の側に立っていた。
外には、いくつかの宇宙船が見える。
ここは、所謂サービスエリアといったところだ。
だからこそ、外に見える宇宙船のほとんどが貨物宇宙船なのだ。
「……『エルフ』……」
「……『クッコロ』……」
……待て待て待て、何だその合言葉は!
一体どこでその言葉を学んだのだ?!
「久しぶりね、キニー」
「そっちこそ、情報は来ている。
こちらの準備は万端だ。後はミャリーの働き次第だが……」
ミャリーさんと同じくフードを被った人が、俺とカレンを見てミャリーさんを見る。
その視線に気づいたミャリーさんが、俺たちを紹介してくれた。
「この人たちは、運搬屋の人達よ。
私の目的を知っても、仕事を受けてくれたわ」
「……なら、安心できるか」
「それよりも、クラリスの方は大丈夫なの?
例の隊を動かせないと、惑星の人達が助かっても……」
「そこは、心配いらない。
こちらからも人員を派遣してある。任せて大丈夫だ」
「分かった。私は、次に移動するわ」
「こちらも、そろい次第移動を開始しよう」
お互い頷くと、離れていく。
情報交換は終了したらしい。
……とりあえず、合言葉は変えた方がいいかも。
メイド服といい、あの合言葉といい、何かがおかしい気がする。




