第69話 精神生命体
辺り一面、真っ白い空間に立っている。
ミャリーさんに見せてもらった『超新星の涙』を触った瞬間、この場所に飛ばされたのか?
いろんなことを考えていると、後ろから老人の笑い声が突然聞こえた。
『ほっほっほ』
俺が後ろを振り向くと、青い椅子に腰かけた一人の老人がいる。
髪は白一色の長髪、髭がかなり伸びていて、これまた白一色。
その顔は、まるで季節外れのサンタクロースのようだ。
また、服装は白い服で、神様のような格好で木の杖までもっている。
「……えっと?」
『ほっほっほ、混乱しておるようじゃの。
なら、まずは自己紹介といこうかの?』
……俺からしろってことかな?
「えっと、初めまして。
宇宙運搬会社『ショルフダール』の加藤康介といいます」
『うむ、加藤君じゃな。
儂は……そうじゃな、ジェームズ、とでも呼んでくれ。
本当の名は、加藤君では発音できないじゃろうからの』
ジェームズさんか、何かカッコいいな~。
と、そんなこと考えている場合じゃない。聞いておかないといけないことがあるんだ。
「あの、ジェームズさん、ここはどこなんですか?
俺は自分の宇宙船の中にいたはずなんですが……」
『ほっほっほ、ここは精神世界、といったところかの。
じゃから、実際、加藤君は自分の宇宙船の中に、今もおるんじゃよ?』
精神世界?
それって、例の某漫画やアニメに出てくる『精神となんちゃらの部屋』?
……確かに、白一色だし何も無いし。
「それで、ジェームズさんは、神様なんですか?」
『ほっほっほ、儂は神様ではないぞ。
そうじゃのう、加藤君の知識でいえば精神生命体ってところじゃな』
精神生命体、肉体を捨て精神だけで生きていけるようになった生命のこと、だったかな?
しかも不老不死とまでいわれるほどらしい。
生命体は、身体、精神、魂の三つで構成されていて、このうち精神生命体は、身体を捨てて、精神と魂だけで生きていけるようになったとか。
確か、研修の授業で宇宙にはそんな生命がいるとか習ったけど、目の前のジェームズさんがそうなのか……。
「それで、何故私はこんな場所に連れてこられたんですか?」
『ほっほっほ、それはじゃな?加藤君があの宝石に触ったからじゃよ』
「へ?」
え?あの宝石に触っただけでこんな場所に?
意味が分からない……。
『ますます混乱しておるようじゃの。
まあ、まずは座りなさい』
ジェームズさんが、右手をすっと横に移動させると、俺の足元から赤い椅子がせり上がってきた。
『どうぞ?』
「あ、ありがとうございます」
そうお礼を言うと、ジェームズさんは笑顔で二度、頷く。
『それでは、加藤君にも分かりやすいように説明をしていこうかの。
まず、加藤君たち人類系統の者たちがあの宝石を『超新星の涙』とか呼んでおるが、本当の名は『エーマス』というのじゃ』
「『エーマス』……」
『そうじゃ。
そういえば、そのエーマスを研究しておるようじゃったが、何か分かったかの?』
「いえ、私の仲間の話では、いくら研究しても分からなかったと」
すると、ジェームズさんは、笑いだす。
『ほっほっほ、まあ、そうじゃろうのう』
「ジェームズさんは、研究できないことが分かっているのですか?」
『もちろんじゃ、何せ『エーマス』を作ったのは儂なんじゃからのう』
……え?!
『超新星の涙』、もとい『エーマス』を作ったのが目の前の老人?
ジェームズさんが作ったって……。
『ほっほっほ、信じられんという顔じゃな』
「それはそうです、あの『エーマス』は『シールドシステム』を作った者たちと同じテクノロジーで作られているらしいのですから、それをジェーム…ズ…さんが……」
ジェームズさんは、笑顔のまま俺を見つめてくる。
……まさか、その作った者……?
俺は、ジェームズさんを指さし、固まった。
『そうじゃ、儂は人類系統の者たちに、いくつかの銀河といくつかのテクノロジーを与えた者たちの一人じゃよ。
まあ、そんなに驚かんでもええ。
儂のような精神生命体になれるものは、儂らの中でもごく一部じゃ。
その大半は、身体を捨てられずに加藤君たちと同じように生きておるよ』
そ、そうなのか……。ジェームズさんのような者はごく一部の方たちなのか。
何か、少しホッとしてしまった……。
「そ、それで、何故ジェームズさんは『エーマス』を作ったんですか?」
『ふむ、その答えを言う前に、加藤君になぜ『エーマス』を研究できなんだかを教えておこう。
加藤君は、この宇宙にはいろいろな法則がある事は知っておるかな?』
法則?
それって、物理法則と科学法則とかな?
「はい、一応知っています」
『うむ、この『エーマス』を研究しておった者たちは、自分たちの知っている、もしくは習った科学法則などに照らし合わせて研究していたのじゃ。
実は、それがそもそもの間違いなのじゃ』
え?間違い?
『この『エーマス』はの、この宇宙にある『魔力』を結晶化して生成したものなのじゃ。
じゃから、科学法則などの観点から研究したところで、分かるわけないのじゃよ。
研究をするのなら、新しい法則を見つけねばならんかったのじゃからのう』
……え?魔力?
ちょっと待って、魔力って言ったか?
「ちょ、ちょっと待ってください!
今『魔力』と言いましたか?」
『おお、言うたぞ?『魔力』を結晶化して作ったとな』
「魔力って、本当にあるんですか?
もしそんなものがあるなら、魔法を使うことだって……」
『ほっほっほ、加藤君は魔法が使える惑星は、まだ見たことがないのかの?』
魔法が使える惑星………あ!?
「い、いえ、知っています。
その惑星に人を運びましたし、研修の授業でも習いました。
魔法が使える惑星がいくつか存在すると……」
そう、確かに魔法が存在する惑星はある。
で、『魔力』を結晶化して生成したのが『エーマス』……。
でも何のために?
……もしかして……。
「もしかして、その魔法が使える惑星って、ジェームズさんの『エーマス』のおかげで……」
『ほっほっほ、それは違うぞ、加藤君。
儂の『エーマス』で魔法が使える惑星にはできんよ。
魔法が使える惑星は、もともとそうじゃった惑星じゃ。
『エーマス』で作ったわけではないぞ?』
そ、そうだよな、いくら上のテクノロジーを持つといっても限度があるよな。
それじゃあ、『エーマス』と何の関係が?
『不思議そうな顔をしておるの。
何のために『エーマス』を作ったのか。
それはな、ある惑星の魔力補助のためなのじゃよ』
「魔力補助?」
『そうじゃ、魔力が使えるある惑星がな、科学技術を取り入れたために、惑星にある魔力を生み出すものを絶滅させそうになったのじゃ。
加藤君は知っておるかの?魔力の使える惑星の生命は、魔力が無くなると死んでしまうことを』
それって、生命活動に魔力が必要不可欠な生命体になっているってことだったな。
あの魔力の惑星に運んだ女性も、確かそうだった……。
「はい、それは知っています」
『うむ、そこで作りだしたのが『エーマス』じゃ。
この『エーマス』を惑星の地上に設置することで、生命活動に支障のない魔力が供給できるというものじゃ。
じゃが、あくまでもこの『エーマス』は補助にすぎん。
生命活動はできても、魔法を行使することはできんようになってしまった』
魔法が使える惑星が、魔法が使えない惑星になったってことか……。
……でも待てよ、そんな大事な『エーマス』をミャリーさんが持っていたということは……。
「………」
『ん?何かあったのかの?』
「あの、つかぬ事をお聞きしますが、ジェームズさんは『エーマス』を複数お作りになられたりは……」
『あんなもの、いくら儂でも何個も作れんぞ?
それに、需要がないじゃろ?じゃから一つしか作っておらんよ』
俺は、気が遠くなりそうになった……。




