第64話 惑星『ハーベン』の皇子
惑星『ニバシア』の艦隊は全滅した。
これで大勢の人が死んだはずなのだが、俺には、レンブレスが射殺された時のような衝撃は無かった。
多分、目の前で殺されるかどうかで実感が変わるのだろう。
「新兵器、うまくいったわね!」
「はい!お嬢様、これは受注が殺到しますね」
ブリッジでは、シュレナさんと秘書のニビアさんが手放しで喜んでいる。
例の兵器の売れ行きを、確信したのだろう。
「シュレナさん、今の兵器、何ですか?
ターゲットロックとか、ビームが曲がるとか……」
「あれはね、ターゲットを最初に決めておくと、どこからビームを放っても必ずターゲットに当たるっていうものなのよ!
名付けて『ビームショット』というらしいわ」
「らしいわって、シュレナさんが名付けたんじゃないんですか?」
「違うわよ、私ならそんな名前つけないし。
名前は研究所でつけられたのよ。
……まあ、世に出回れば呼び方なんて変わると思うわよ」
そんなものなのか……。
「ん?何?ほしいの?この『ビームショット』が」
「お高いんでしょ?」
「そうね、まだ発表前の兵器だし、値をつけることはできないわね……。
その辺りはどうなの?」
「お嬢様の言う通り、発表前では値もかなりのものになりますね。
加藤様にお譲りするわけにもいきませんから、今回はあきらめてもらうしかないかと」
「て、ことだから発表されてから注文してちょうだい」
「分かりました……」
というか、通販ギャグのやり取りが通用しない。
ここが地球の日本ではないことが、身に染みる瞬間だな……。
『お嬢様、そろそろこちらに戻っていただけますか?』
モニターから、白い宇宙戦艦にいるキルカという人が呼びかけてきた。
戦闘は終わったのだから、もう安全か。
「そうね、分かったわ。
そっちに戻るから、通路を用意してくれる?
この宇宙船に横付けして」
『了解です、操舵士!前方の宇宙船の横に付けてくれ!
ビッキーたちは通常通路を用意してくれ!横付けしたら設置を急げ!』
モニター越しの向こうの白い宇宙戦艦のブリッジのやり取りに、頷いて満足しているかのような笑顔だ。
まるで、新米の成長を喜ぶ上司だな……。
「そういえば、お姫様は大丈夫なの?」
『はい、心身も落ち着き、今はお休みになられております。
側には護衛のメイルさんがついておられますから』
「そう、ならいいのだけど。
目の前であの光景を見たらね、ショックだったのね……」
「シュレナさん、パトリシアさんのことは大丈夫ですよ。
少し落ち着いたら、惑星『ハーベン』へ送って行きますから」
「そういうことは、任せるわ。
少し話しただけだけど、気になったからね」
そうこうしている間に、通路の設置が終わり、白い宇宙戦艦との行き来ができるようになった。
「お嬢様、通路が設置されました。
向こうの宇宙戦艦へ移動しましょう」
「そうね。……加藤さん、お邪魔したわね。
ちょっとお姫様に報告するだけだったのに、戦闘まですることになるとは思わなかったわ。
ああそれと、例の兵器の映像、ありがとうね?
これで、式典でのプレゼンは、大成功間違いなしね!」
そう言って笑顔で別れると、設置された通路を通って自分の宇宙戦艦に帰っていった。
通路を渡りきったところで、見送りに来た俺に手を振って笑顔で別れることができた。
その後は、宇宙側の扉を閉め完全に密閉して、内側の扉を開け宇宙船内に戻った。
俺とカレンがブリッジに戻ると、通路が外され白い宇宙戦艦が離れていくところだった。
▽ ▽
『マスター、惑星『ハーベン』から二隻の宇宙船が近づいてきますわ』
「了解、通信することはできる?」
シュレナさんの宇宙戦艦がいなくなると、惑星『ハーベン』から宇宙船が近づいてきた。
すると、ブリッジに二人の男性が入ってきた。
「やれやれ、ようやく来たな……」
「戦闘に間に合ってないんだから、遅すぎるよ」
確か、シュレナさんに紹介された、ノービスさんとブレトさんだ。
そういえば、彼らは惑星『ハーベン』との取引担当の人達だったな。
シュレナさんの存在が強すぎて、今まで気づかなかった……。
「あれ?ノービスさんにブレトさん。
シュレナさんは、もうお帰りになりましたよ?」
「ええ、分かってますよ」
「私たちは、惑星『ハーベン』に赴任しているんですよ。
ですから、シュレナお嬢様と一緒に母星に帰ることなんてできませんよ」
それもそうか。
取引担当だものね。
責任者がいなくなったら、困る人が大勢いるだろうし……。
「では、今まで何を?」
「彼らに連絡を入れていたんです。
戦闘になっているから、助けてくれないか、とね」
「でも、戦闘が終わってから来たってことは、私たちが勝つことが分かっていたのかな?」
ノービスさんとブレトさんの視線の先には、こっちに向かってくる宇宙戦艦が二隻。
どちらも青い船体をしている。
『マスター、相手の宇宙船との通信が許可されましたわよ』
「繋いでくれる?映像はメインモニターに」
『了解しましたわ』
通信パネルを操作し、メインモニターに映像が出る。
そこには、青い貴族服を着た男性が、貴族としての敬礼をしている。
『初めまして、宇宙運搬会社『ショルフダール』の皆様。
私は惑星『ハーベン』の第74代皇帝の嫡男、リチャード・ハーブレンと申します。
お迎えが遅くなりまして、申し訳ございません』
「こ、これはご丁寧なあいさつありがとうございます。
私は宇宙運搬会社『ショルフダール』の加藤と申します。
この度のご依頼、ありがとうございました」
リチャード皇子って、結構腰が低いんだな。
いや、丁寧なのかもしれないな。
それに金髪でイケメン、背も高いし本当に物語に出てくる王子さまって感じだ。
……それにしても、何をキョロキョロとしているんだろうか?
『あ、あの惑星『キュテル』からのお荷物は……』
「ああ、それなら貨物室に『宇宙客船』が二隻積んであり『いえ、それではなくて……』」
……ああ、そうか。
「パトリシア様は、今寝室でお休みになられています。
護衛の方が側におりますれ……ば………」
映像から消えたぞ?
通信が切れたわけではない、リチャードさんが消えただけのようだ。
現に、ブリッジの混乱の様子が見てとれる。
『リチャード皇子!リチャード皇子!』
『おい、護衛!追いかけろ!』
『『は、はい!』』
『艦長!シャトルが一機、発進しました!』
『何だと!誰が乗っている!』
『……それが、リチャード皇子様が……』
『何だとー!!』
ほんと、行動力だけはありそうだ……。
「エヴァ、シャトル受け入れのために、ハッチを開けてくれるか?」
『マスター、貨物室でいいの?』
「ああ、前方の宇宙船から飛び出したシャトルを見れば、貨物室のハッチがいいだろう」
『了解!貨物室のハッチを解放します!』
「カレン、ヘレンと一緒に迎えに行ってくれるか?
シャトルに乗っているであろうリチャード皇子様を」
『分かりました、マスター。
ヘレンに声をかけて、迎えに行ってきます』
カレンがブリッジを出ていくと、ノービスさんとブレトさんのため息が聞こえた。
どうやら、苦労しているようだ……。




