第65話 運んできたものの行方
とりあえず、通信はまだ繋がっているし、向こうの代表と挨拶をしておくか。
「惑星『ハーベン』の宇宙船のどなたか、通信に出れますか?」
皇子様が宇宙船を出て行ったことで、混乱していたが少し落ち着いたようだ。
改めて、俺の呼びかけに答えてくれた人がいた。
『コホン。私はリチャード皇子様の執事をしております、ノースと申します。
この度は、リチャード様がご迷惑をおかけして、申し訳ございません』
「いえ、宇宙運搬会社『ショルフダール』の加藤です。
リチャードさんの行動は、愛するものを心配するがためのものでしょう。
その辺りは理解できますので……」
『まことに、申し訳ございません。
ところで、やはりリチャード様はそちらの船に?』
俺は、エヴァに視線を移すと、エヴァがこちらを見て口パクする。
え~と、小型宇宙船到着、ハッチ閉めたけど良かった?か。
俺は、一回頷いてモニターのノースさんに向かいあった。
「どうやら、今こちらに到着したようです。
これからパトリシアさんの部屋へ案内しますので、こちらのことはお任せください」
『それを聞いて、安心いたしました。
どうか、リチャード様をよろしくお願いいたします』
ホッとしたかと思ったら、すぐに頭を下げてお願いしてきた。
さて、リチャード皇子のことはカレンとヘレンに任せて、運んできた宇宙客船の話をしておかないと……。
「あと、運んできました宇宙客船はどこへ持っていけば?」
『それでしたら、担当者に代わります。
わたくしはこれで……』
そう言って、頭を下げて一礼し画面からいなくなった。
次に現れたのは女性だ。
この人も金髪だな。髪はショートにして男性用の制服みたいな服を着ている。
背広というより執事服、みたいだな。
色は青みがかった黒だ。
『初めまして、宇宙客船の修理修復を担当しておりますアメリーです。
加藤様が運搬されてきた宇宙客船は、『ハーベン』の衛星『モルー』にある専用宇宙船ドックまで運んでもらえますか?』
「『モルー』ですか?それはどちらに……」
と俺が、外の宇宙空間を見て、キョロキョロとしていると宙域図がモニターに映し出された。
……なるほど、惑星『ハーベン』には月みたいな衛星が一つあるのか。
その衛星の名前が、『モルー』と言うと。
「え~と………了解しました。
衛星『モルー』の専用宇宙船ドックに運びますね」
『よろしくお願いします』
俺は、すぐにエヴァに指示を出そうとしたとき、ノービスさんとブレトさんがメインモニターの前に立つ。
まだ通信は繋がっているんだが……。
「アメリー、久しぶり」
「よっ!」
そう挨拶をすると、モニターに映っているアメリーさんが、何やら動揺している様子だ。
少し、笑顔が強張って見える。
『お、お久しぶりですね、ノービスさんにブレトさん。
担当が変わってからですから、二年ぶりですね』
笑顔で、挨拶をするアメリーさんに対し、ノービスさんとブレトさんは、どこか不満顔だ。
何かあったのかな?
「……どうしたんだ?アメリー。お前らしくない態度じゃないか?」
「そうそう、二年たっているとはいえ、そんな丁寧に受け答えするアメリーじゃないだろ?」
『え、えっと、前とそう変わらないと、思いますけど……』
「いやいやいや、昔はそんなしゃべり方じゃなかっただろ?」
「惑星『カハル』のシュレナお嬢様に憧れていたアメリーじゃないか」
へぇ~、アメリーさんは、シュレナさんにあこがれているのか……。
てことは、もしかしてあの喋り方を?
『……ば、ばらさないで……』
「え?何だって?」
『ばらさないでよ!ノービス!』
「おお、前と同じアメリーの口調だ。何か安心するな」
ブレトさんが、安心したように笑顔で答えている。
『せっかく、あなたたちと別れて、担当も変わったからおとなしくしようと思っていたのに、何で、あなたたちがそこにいるのよ!』
「何でって、少し前までシュレナお嬢様がいたからな」
「俺たちが迎えて、案内役をしないといけないだろ?」
そんなやり取りを黙って聞いていると、カレンがブリッジに入ってきた。
「お帰り、カレン」
『ただいま戻りました、マスター』
「皇子様の様子は?」
『パトリシア様の部屋に入るなり、寝ているパトリシア様の側で手を握って心配そうにしています』
なるほど、無理に起こそうとはしなかったのか。
まあ、心配でここまで来たわけだし、今はそっとしておくか。
「ヘレンは?」
『ヘレンは、パトリシア様のお部屋に残してきました。
護衛のメイル様とともに、お二人を見守るそうです』
「他の護衛は?」
『パトリシア様のお部屋の前で、門番のように立っておられます』
そうか、なら、その辺りは任せようか。
俺たちは、宇宙客船を運んでしまわないとな。
……それにしても、まだノービスさんたちは話をしている。
二年ぶりとか言っていたけど、いい加減移動しますよ?
「ノービスさん、ブレトさん、衛星『モルー』の専用宇宙船ドックに移動します。
アメリーさんと話をするなら、直接会ってしてください」
俺がそう言うと、ノービスさんもブレトさんも、そしてモニターのアメリーさんも申し訳なさそうに頭を下げた。
「エヴァ、宙域図に載っている衛星『モルー』に向かって。
そこに専用宇宙ドックがあるから、そこへ」
『了解、マスター!……座標確認、衛星『モルー』へ発進!』
エヴァは、操縦パネルを操作し、宇宙船『アーサー』を発進させた。
▽ ▽
惑星『ハーベン』の宙域を、衛星『モルー』に向けて進むこと一時間。
衛星『モルー』の地表にある、専用宇宙船ドックが見えてきた。
そこは、地表から伸びている塔のようなものの先に、四つの竹輪のような真ん中に穴の開いた円筒形の形をした宇宙船ドックが並んでいた。
あの穴に、運んできた宇宙客船を入れるのだろう。
貨物室のハッチを大きく開け、運搬ロボを使い宇宙客船を一隻ずつ入れていく。
ゆっくり、ゆっくり入れていった。
「……しかし、こうして運ばれていく宇宙客船は、どちらもボロボロだな」
「これは、買い替えた方が安くすむだろうに……」
ノービスさんとブレトさんは、運び込まれていく宇宙客船をモニター越しに見ながら感想を述べた。
まあ、俺も同じような意見だけど、多分何か思い出なんかがあるんだろう。
……そういえば、『キュテル』と『ハーベン』が戦争する少し前に送られたものとか言っていたから、この宇宙客船を直すことで戦争終結に使いたいのかもな。
例えば、戦争終結の調印式の際に使うとか?
そんなことを考えている間に、運び入れは終わっていた。
さて、後は、パトリシアさんの意識が戻ればいいんだけど……。




