第62話 突然の出来事
「……ま、まあいいわ。
パトリシア王女様?自分の気持ちをちゃんと言っておかないと、この手の男は調子に乗っていくだけよ?どうする?」
シュレナさんは、笑いを何とかこらえてパトリシアさんを見る。
そして、持論を展開した。
すると、意を決したようにモニターの前へ進み出てきたパトリシアさん。
モニターに映るレンブレスを睨む。
『おお、美しい私の宝石!やはり、この船に乗っておられたのですね?
今、私自ら迎えに参ります!
さあ、私とともに私の惑星へ参りましょう』
パトリシアさんを確認するなり、レンブレスは迎えに来たと話す。
しかし、パトリシアさんは、それを聞いてフルフルと震えていた。
「……来ないで、ください……」
『ん?どうかしましたか?』
「もう私に付きまとわないでください!」
その言葉に驚いたレンブレス。
労映えしながら、聞き返してくる。
『……え?今何と?付きまとう、ですか?
私たちは将来を誓い合った仲ではないですか?それがなぜ……』
「私はあなたのことが嫌いです、大嫌いです!
それに、あなたと婚約も結婚の約束もしていません!
勝手な妄想で、私を巻き込まないでください!
だいたい、どうしてあなたがここにいるのですか!」
『……そ、それは、パトリシアの側仕えの人から教えてもらったのだ。
その人は、パトリシアが私直々の迎えを待っていると……』
「私に側仕えはおりません!
惑星『キュテル』の王族は、昔から自分のことは自分でするようにと教えられています!いったい、その側仕えとは何者なんですか!」
モニターの向こうで、ますます労映えするレンブレス。
信じられないようだ。
『こ、今回の『ハーベン』の皇子との結婚も、政略結婚で愛はないと……。
だから、パトリシアを迎えに行ってくれれば……』
何やらブツブツと言いだしたレンブレス。
すると、後ろから銃口がレンブレスのこめかみに向けられる。
その光景をモニター越しに見て、息をのむ俺たち。
次の瞬間、大きな破裂音とともにレンブレスは血をまき散らした!
「なっ!」
「……嘘、でしょ……」
「……」
レンブレスの体が、力を失いその場に崩れ落ちると、モニターの向こうは大混乱になった。
『アジカ艦長!』
『う、嘘だろ……』
アジカという男は、周りをゆっくりと眺め、声を発した。
『レンブレス様は戦死された!これより、目の前にいる敵に対し攻撃を仕掛ける!
通信士!通信を切れ!この……』
そこで通信は切れた。
俺たちは、人殺しをモニター越しとはいえ、目の前で見せられてしまった。
俺は口が震えて、言葉が出ない……。
『エヴァ!衝撃吸収シールドを展開!
それと、シールドレベルを五へ引き上げて!』
『りょ、了解!カレン!』
『オリビア、すぐにシュレナ様の船に戦闘態勢をとるように通信を!』
『わ、分かりましたわ』
カレンは、俺の側に来るとそっと艦長席に座ったままで、俺の頭を抱きしめてくれる。
『マスター、大丈夫です。
あなたには、私やエヴァ、オリビアにヘレンがついていますから』
そう言って、落ち着かせてくれた。
……カレンの胸、柔らかかったです。
「あふ……」
「姫様!」
その場に崩れ落ちたパトリシアさんを、護衛のメイルさんがすぐに駆け寄って支える。
床に倒れこむことはなかったけど、メイルさんの腕の中で完全に気を失っていた。
「……とんでもないものを見せてくれるわね、『ニバシア』の連中は!」
「お嬢様、連中はレンブレスを殺して、どうするつもりなのでしょうか?」
「私たちを口封じのために、攻撃してくるわね。
そして、後から来る味方にこう言うのでしょう。
『婚約者であるパトリシア様を迎えに行って、レンブレス様は殺された!
『ハーベン』の支援者である『カハル』の刺客によって!』とね」
そして、後は俺たちを全力で葬るか……。
シュレナさんは憤り、秘書のニビアさんは冷静に疑問を言ってシュレナさんの答えに納得している。
「でもそれだと、パトリシア様まで葬ることになりますが……」
「それが狙いなのかもね。
パトリシアを葬った後、『ハーベン』に行ってパトリシアは『カハル』の刺客によって亡くなったと言うつもりでしょ。
さらに、『キュテル』にも同じように告げて、『キュテル』『ハーベン』『ニバシア』の三惑星同盟が結成され、『カハル』へ星間戦争が仕掛けられる……。
そんな所かしら?」
なるほど、戦争の相手を『キュテル』と『ハーベン』の星間戦争から、『キュテル』『ハーベン』『ニバシア』の三惑星同盟と『カハル』との星間戦争へ切り替えるというわけか。
しかも、『ニバシア』は支援惑星が増えて、ウハウハってわけか。
……そのために、実の息子のレンブレスを手にかけるとは……。
『ヘレン、パトリシア様を寝室へ運んでくれる?』
『分かりました』
ヘレンがあとリシアさんを、お姫様抱っこしてブリッジを護衛のメイルさんとともに出ていく。
今日のカレンの指示は的確だな……。
本当なら、俺が気が付いて指示を出さないといけないのに……。
「お嬢様、本艦へ戻りますか?向こうにいた方が……」
「いえ、このままこの船に厄介になりましょう。
この宇宙船は『シールドシステム』を搭載しているのよ?
ここより安全な場所は、今のところないわね」
「分かりました。
加藤様、申し訳ありませんがしばらく御厄介になります」
そう言って、秘書のニビアさんが頭を下げる。
シュレナさんは、と言うと……。
「悪いわね、戦いが終わるまで動けなくなったわ」
と言って、モニターに視線を戻す。
……堂々としたものである。
カレンの胸に抱かれている俺とは、対照的だ……。
『マスター、ワープアウトの反応を確認しましたわ。
数は十二、おそらく『ニバシア』の宇宙戦艦だと思われますわ』
オリビアから、ワープアウトしてくる宇宙戦艦の報告を聞く。
俺は、カレンの腕に手を置き、もう大丈夫、と放してもらった。
そして、艦長席から立ち上がると、少しふらつき、再びカレンのお世話になってしまう。
「あら加藤さん、あなた、人が殺されるところを見るのは初めて?」
「ええ、あんな直接な光景は初めてです」
「じゃあ、その情けない姿もしょうがないわね。
でも、私の時よりいくらかましよ?私なんて、一週間ほど不眠症になったわ」
て、事は目の前で人が殺されることになれているってことか?
一体どんな商売をしているんだ?星を裏から操る商人!
「その時は、医者にいくよ」
「そうね、それがいいわね。
何なら、いい医者を紹介しましょうか?」
「遠慮しておくよ」
「あら、残念……」
俺とシュレナさんは、お互いで笑いあうと正面に向き直る。
「エヴァ、敵を正面に捉えるために船体を九十度回頭!」
『了解、マスター!九十度、回頭!』
正面の景色が、惑星『ハーベン』から『ニバシア』の艦隊に変わる。
こちらの回頭とともに、白い宇宙戦艦も『ニバシア』の艦隊を正面に捉えるため、動いている。
赤い宇宙船を先頭に八隻の宇宙戦艦の後ろから、さらに十二隻の宇宙戦艦が現れる。
これで、全部で二十隻の宇宙戦艦の艦隊だ。
「……シュレナさん!
シュレナさんの宇宙船を、この宇宙船『アーサー』の後ろへ移動させてください」
「加藤殿、盾になる気?」
「はい、この宇宙船には『シールド』がありますから」
「……いいわ、今はその行為に甘えさせてもらうわ。
『ハルツァー』に連絡!私たちの乗る宇宙船を盾にするように伝えて!」
『分かりましたわ』
オリビアは、シュレナさんの言う通りに白い宇宙船に連絡を入れる。
すると、白い宇宙船は移動を開始し、そろった敵『ニバシア』の艦隊は攻撃を開始してくる……。




