第55話 歴史と影
「あの、こちらからいくつか質問させてもらってもよろしいでしょうか?」
「はい、構いませんよ」
会議室の中で、俺の正面に座るモルゲンさんに、気になったことを質問する。
今回のナンシー班長の資料には、記載が無かったことだ。
「まず、何故この星『キュテル』には、大陸がないのですか?」
「加藤殿、昔はこの星にも大陸はございました。
しかし、長い年月の地殻変動や、私たち人の歴史が、この星に多大なる影響を与え生物の住める大陸が減っていったのです。
ですが、急激に大陸が無くなったのは、貴族たちが起こした戦争のせいでございます。『キュテル』の南の極点にある赤いものをご覧になりましたか?」
「いえ、このステーションに来るときも確認はできませんでしたが……」
俺の答えを聞くと、モルゲンさんは後ろに控えていた秘書の女性を呼ぶ。
「ミミナ、南の極点の映像を」
「はい、モルゲン様」
そう言って、手元に用意してあった小型のノートパソコンのようなものを操作して、俺とモルゲンさんの間にモニターを出現させ、映像を見せてくれた。
そこには、海の上に四角い格子状の囲いに包まれた、小さな赤い太陽のようなものが浮かんでいた。
すぐ下の海から、蒸気が上がっていることから、かなりの温度がある事が分かる。
「モルゲンさん、これは?」
「これが、すべての大陸を海の下に沈めた元凶、『ポロニアン』でございます。
他の星の方々に分かりやすく言えば、小型の太陽といったところでしょうか。
ある貴族の実験の産物で、何千年と経った今でもこのように赤く燃え続けているのでございます」
……なるほど、コレの影響で、南の極地にあった氷が解けて海の水位が上がって大陸が沈んだってところか。
地球でいえば、南極の氷が全て溶けてしまったってところか。
そりゃあ、大陸が沈むよね……。
「これの出現により、かなりの生物が海に呑まれ、絶滅してしまいます。
私たち人類は、すでに宇宙進出を果たしておりましたので、何とか生き残ることができたのですが……」
モルゲンさんは、すごく悲しそうな顔で赤い太陽の映像を見ている。
そして、映像が消えた。
「では、あの浮遊大陸は?」
「あれは、『ポロニアン』が生み出される前に連邦政府側の人との話し合いの中で、大陸が少なくなっていることを危惧しての処置、といったところです。
ですから、浮遊大陸が生まれ地上の大陸から、移住をし始めた頃、貴族の実験により『ポロニアン』が生み出され、すべての大陸が海に沈んだ。
時系列でいえば、そうなります」
なるほど、もともと長年の科学の発展で、惑星環境の異常を引き起こし大陸が海に沈むかもしれないという危惧から、付き合いのある連邦側の人たちと話し合って浮遊大陸という提案を採用したってところか……。
……地球も、浮遊大陸案ってどうかな?
……ダメなような気がする。
「他にご質問は、ありませんかな?」
「ああ、あと二つ聞きたいんですが、惑星『ハーベン』とはいつからの付き合いですか?」
「惑星『ハーベン』とは、私たちが宇宙進出をするときからの付き合いになります。
私どもの宇宙進出を、助けてくれたのが『ハーベン』なのです。
いろいろな宇宙技術も、学ばさせてもらいました。
『キュテル』の宇宙進出を、後押ししてもらった大恩人でございます」
「……なのに、戦争になったと……」
「その、私どももなぜ戦争になってしまったのかは、知らないのでございます。
戦争の一年前まで、交流がありましたし、今回運搬してもらう宇宙客船も、その一年前に『ハーベン』からの贈り物としてもらったものでございます。
そのように交流があったのに、なぜ100年も続く戦争になるのかが分からないのです。
……もしかしたら、王族ならば知っているかもしれませんが、おいそれと聞き出すわけにもいかず、また王族も、そのことには触れられたくないようなので……」
で、戦争の理由が分からない、というわけか……。
「では最後に、惑星『ニバシア』と惑星『カハル』につい「その名をどこでお知りに!」」
「……し、失礼しました。
加藤殿、その名は一般のものは知らない惑星の名です。
むやみやたらと、言いふらされても困りますぞ?」
「すみません。『ハーベン』との戦争を調べたら、この二つの惑星の名が出てきたもので……」
「……惑星『ニバシア』とは、『ハーベン』との戦争が始まってすぐに私どもに近づいてきた惑星です。
軍需産業が盛んだということで、兵器などを売りに来たらしいのです。
当時の契約などは、すでに処分されており、名前と少しのつながりだけが分かりました。
『ニバシア』と契約したのが、あの南の極地に『ポロニアン』生み出した貴族です。
『ポロニアン』もまた、その『ニバシア』からの提供技術だったそうで、当時の残っていた資料に実験の経過もありました。
……惑星『カハル』は、『ハーベン』側に近づいたとしか知りません」
「そうですか……。
長々と、質問に答えていただき、ありがとうございました」
「いえ、知りたがるのは悪いことではありません。
でも、相手の気持ちになって質問をお願いしますよ?」
「申し訳ございません」
俺は、その場に立ちあがり、頭を下げた。
確かに、行き過ぎた質問だったかも……。
▽ ▽
モルゲンさんと、握手を交わして一緒にスペースステーションの、通路まで戻るとそこに一人の女性と三人の雰囲気の違う女性が立っていた。
「パトリシア姫様!」
モルゲンさんがそう呼ぶと、宇宙空間を見ていたお姫様がこちらに向く。
さらに、そのお姫様の周りにいる三人の女性も、お姫様を守るように立ち位置を変える。
……なるほど、護衛の女性達か。
「モルゲン、ご説明は終わりましたか?」
お姫様が、モルゲンさんに声をかけると、すぐそばにまで寄っていたモルゲンさんは、一歩下がって貴族の礼をとり、言葉を交わす。
「はい、今回の事を任せる加藤殿には、先ほど説明を終えましてございます」
「そう、ご苦労様でした。モルゲン」
「勿体なきお言葉でございます……」
……すごい、貴族の挨拶と言ったらいいのか?
地球でも見たことない会話を、こんなまじかで見ることができるとは……。
お姫様の視線は、モルゲンさんから俺に移る。
「そちらが、この度の依頼を受けてくれた方ですね?」
これは、俺も見様見真似で、モルゲンさんのような礼をとってみる。
「はい、宇宙運搬会社『ショルフダール』の加藤康介と申します。
道中いたらぬところがあるかもしれませんが、よろしくお願いいたします」
お姫様は、表情を柔らかくしたようで、優しい声で答えてくれた。
「こちらこそ、わがままを言うかもしれませんが、よろしくお願いしますね?」
「はい!」
それから、モルゲンさんから、お姫様の護衛の三人の女性を紹介してもらい、宇宙船『アーサー』へ搭乗となった。
……き、緊張するな……。




