第54話 惑星『キュテル』
「青い、きれいな星だな……」
地球から八日、亜空間長距離ワープでたどり着く距離にある惑星『キュテル』に到着した。亜空間から通常宇宙空間に戻って、最初に見たのが惑星『キュテル』の姿だ。
地球よりも青い星で、本当に綺麗だった。
『マスター、『キュテル』の青は、海の青です。
惑星全体を覆っている海が、宇宙から見た時あのように綺麗に見せるのです』
そう、惑星『キュテル』に陸地はない。
何千年か前にはあったようだが、今はもうほとんどが海に沈んでしまっている。
では、『キュテル』の人々はどこに住んでいるのか、というと、浮遊大陸に住んでいるのだ。
浮いている陸地だと言って、ファンタジーの浮遊大陸ではない。
科学技術によって疑似大陸を造り、惑星の空に浮かんでいるのだ。
全部で、十一の大陸があり、そこに人々や動植物が生きている。
もちろん、スペースコロニーも存在し、そこに移住した人々も多い。
「そういえば、ナンシー班長の資料にも、そう載っていたな……」
俺が、もう一度ナンシー班長の資料を読み返そうとしたとき、オリビアから通信を受信したことを知らされる。
『マスター、惑星『キュテル』の依頼主から通信が入っていますわよ』
「メインモニターに回してくれ、オリビア」
『分かりましたわ』
メインモニターに映し出されたのは、カイゼル髭を生やした初老の男だった。
背筋は延びて、姿勢がいい。
『よろしいかな?
……んんっ! 初めまして、運搬屋殿。
私は今回、運搬のご依頼をしたモリゲンと申します。この度は、よろしくお願いします』
丁寧なあいさつをする人だな……。
「こちらこそ初めまして。
宇宙運搬会社『ショルフダール』の社員で、加藤と申します。
今回は、そちらのご依頼を担当させてもらうことになりました。
よろしくお願いします」
『ご丁寧なあいさつを、ありがとうございます。
それでは、『キュテル』の衛星軌道上にあるスペースステーションへ、宇宙船を回してもらえますかな?
運んでもらいたい宇宙客船はそちらにありますので』
「分かりました。
スペースステーションの位置は……はい、把握しましたので、すぐに向かいます。
もう少し、お待ちください」
『では、後程……』
「では……」
お互いモニター越しに頭を下げて、通信が切れた。
しかし、丁寧な受け答えをする人だったな。
「エヴァ、スペースステーションへ向かってくれ」
『了解、マスター!』
さっき話している時に、位置を確認しているかエヴァを見たんだが、把握していると、合図を出してくれたので任せることに。
▽ ▽
惑星『キュテル』の衛星軌道上にあるスペースステーションに、宇宙客船を載せるため貨物室のハッチを大きく開く。
そして搬入している間に、俺とカレンは挨拶にと、ステーションと宇宙船『アーサー』を通路で繋げて、移動した。
通路から、搬入される宇宙客船をちらりと見たが、ボロボロの状態の宇宙客船が搬入されていた。
通路を自動で進みながら、カレンに質問する。
「カレン、搬入されていく宇宙客船だが、ボロボロだな……」
『マスター、あれは、経年劣化であの状態になっているわけではありません。
おそらく、宇宙海賊に襲われたりしたのでしょう。
所々、戦闘の跡を修理したところが確認できます』
宇宙客船といえば、普通の一般人を宇宙旅行なんかの時に運ぶ旅客宇宙船。
豪華な内装をしているものもあり、地球でいえば豪華客船の宇宙船版、といったところか。
宇宙海賊が、狙わないわけないよな……。
護衛艦とかがつくときもあるが、ほとんどは自衛手段を持っているらしい。
それに、宇宙客船に、『シールドシステム』はついていない。
『シールドシステム』は、運搬業種限定で認められたものだからな。
通路を渡りきると、そこには、モニター越しに挨拶をしたモリゲンさんが、秘書らしき女性を後ろに一人連れて待っていてくれた。
「おお、ようこそ加藤殿。お待ちしておりましたぞ」
俺は自動で運んでくれた道を出て、モリゲンさんの前で立ち止まって挨拶をする。
「モリゲンさん、この度はご依頼ありがとうございます」
「いやいや、こちらこそ。
このような難しい依頼を受けてくれて、感謝しておりますぞ。
では、こちらに」
そう言って、モリゲンさん自ら案内してくれた。
ステーションの中は、宇宙港のような受付や検閲のための施設、会議室やコントロールルームと多種にわたっていたが、俺たちは、その中の会議室へと案内される。
「では、そちらにお掛けください。
今回の依頼の概要を説明いたします」
「よろしくお願いします」
俺とカレンは、椅子に座り一礼する。
モリゲンさんと、秘書の女性も一礼し、話が始まった。
「加藤殿は、今回の依頼、どのように伝わっていますかな?」
「確か、宇宙客船二隻を、修理やメンテナンスのために惑星『ハーベン』へ運ぶようにと。そして、その依頼は表向きで、本当はその依頼にまぎれて、この星のお姫様を送るようにと……」
モルゲンさんは、頷きながら聞いている。
「その通りです。
送ってもらいたい姫様というのが、『キュテル』の第三王女パトリシア・キュティリア様なのです。
この惑星『キュテル』は、その昔陸地がありました。
その陸地を支配していたのが、キュティリア王家なのです。
王家の支配のまま、人々は平和に、そして科学技術が発展し宇宙進出を果たしました。
そして、宇宙に人が住み始めた頃、ある問題が持ち上がったのです。
それが、王家や貴族の問題です。
王家や貴族が、宇宙にまで幅を利かせるのは間違っているのではないか、というのです。
話し合いで解決しようとしますが、それに応じるかといえば王家はともかく貴族は応じない家がほとんどでした。
そして、始まるのが戦争です。
最初は小競り合いでしたが、一気に拡大し世界規模に。
さらに宇宙にまで飛び火し、戦争となりました。
そこへ仲裁役になってくれたのが、宇宙連邦側の人々でした。
何年という話し合いの末、惑星『キュテル』を王家が、スペースコロニーを一つづつ貴族家で分けることになりました。
ですが、別に王家や貴族が支配するというわけではございません。
責任者になる、ということです。
つまり、代表になる、ということでございます。
それからは、平和に過ごしていましたが、何かのきっかけで、今度は惑星『ハーベン』との星間戦争が起こりました。
それが100年続いたのです。
きっかけとなったらしい人達は、すでに戦死したそうでございます。
なら、なぜ戦争が無くならないのか!
そう声をあげる人々が出てきたのでごいます。
そこで、『キュテル』と『ハーベン』との水面下での話し合いの結果、終戦に向けて力を合わせて動きだそうということになりました。
その第一歩が、この宇宙客船の修理、メンテナンス要請であり、『キュテル』第三王女と『ハーベン』の第一皇子との結婚なのでございます」
この結婚を大々的に発表して、終戦の象徴にしたいと、そういうわけですか……。
「そうなると、俺たちの仕事は責任重大ということになりますね……」
「……加藤殿には、大変な依頼と重々承知しております。
ですが、なにとぞ姫様を、送り届けてもらいたい!よろしくお願いいたします!」
モルゲンさんは、立ち上がって頭を下げてお願いする。
秘書の女性も、同じように頭を下げた。
これは、大変な依頼になりそうだ……。
惑星『キュテル』の説明が不足していますが、それは次回で。




