第52話 上司の上司
「オリビア、ナンシー班長に連絡を入れてくれ」
『分かりましたわ、マスター』
惑星『シンガー』の避難コロニーへの支援物資運搬は終わった。
連邦の軍部隊の介入により、現政府と反勢力との戦争も終結。
これでようやく、本来の小惑星衝突による避難民の救助が行えると、クリス連邦大使は安堵していた。
惑星『シンガー』に住んでいた人々が、本当に安心するには、これからどうするかが大事になるだろう……。
『……はい、分かりましたわ。
マスター、繋がりましたからメインに回しますわね』
何か話していたようだけど、オリビアは了承したようで、メインモニターにナンシー班長の姿が……あれ?
メインモニターに映っていたのは、ナンシー班長ではない。
別の美人さんだ。
眼鏡をかけた、ポニーテールの二十代に見える女性が、椅子に座り、足を組んでこちらを見ている。
そして、ニコリと笑うと話し始めた。
『初めまして、加藤康介さん。
私はシャロンと言います。ナンシーの上司よ。
今、彼女には手が離せない大きな仕事を任せているから、今回の依頼説明は私が担当となりました。よろしくね?』
ナ、ナンシー班長の上司?!
そうだよな、ナンシー班長がトップじゃないんだから、上司がいて当たり前か。
……しかし、若く見える。
「は、初めまして、加藤康介です。
よろしくお願いします」
俺は、一礼して挨拶をした。
すると、すぐにシャロンさんから話し始める。
『さて、今度の依頼の前に、一つ確かめておかないといけないことがあるわね?』
「確かめておくこと、ですか?」
『ええそう、そこにいるニニシアさんとマナルルさんのことよ。
お二人は、体験就職で加藤さんの宇宙船に乗ってもらったわけだけど、どうだったかな?宇宙の運搬業を体験して』
シャロンさんが、ブリッジの席に座るニニシアさんとマナルルさんに視線を向けると、二人は立ち上がり答える。
「私には、この仕事は向いていないと分かりました」
「私も、お嬢様と同じです」
そのことに、シャロンさんは二回ほど頷いて、笑顔になる。
どうやら、こうなることが分かっていたようだ。
『まあ、そうでしょうねぇ。
お二人は、別の目的でその宇宙船に乗っているみたいですからね。
でも、これもいい経験にはなったんじゃないかな?』
「それは、確かに……」
「はい、いい経験をさせてもらいました」
ニニシアさんとマナルルさんの返事を聞いて、シャロンさんが俺の方を向く。
『では加藤さん、彼女たちを送っていってくださいね?
その後、十日ほど休みとします。
おそらく、地球から持ってきた食料なんかが切れ始めているころだと思いますからね』
こ、この人、エスパーか?!
初めて会ったのに、食料なんかが切れかかっていることを当てるなんて。
『そして、休み明けのお仕事ですが、惑星『キュテル』へ向かって下さい』
「惑星『キュテル』ですか?」
『そうです。座標とかも載っている資料を送りますからそれを見て確認を。
運ぶのは三隻の宇宙客船です。
大きさはかなりのものですが、加藤さんの宇宙船『アーサー』なら余裕でしょう。
よろしくお願いしますね?』
「は、はい!分かりました」
俺の返事を聞いて、ニコリと笑うと頷く。
『よろしい、では、後で資料を送ります。
ああ、この資料はナンシーが用意していた資料ですから、ね?
では、また』
そう言って、通信が切れた。
何か、すごい女性だったな。
こんなに緊張したのは、初めてだ……。
「コウスケ、すごい女性ね……」
「ああ、さすが、ナンシー班長の上司だな……」
俺がそう言うと、ニニシアさんは、俯き、何か考えるように黙った。
そして、意を決したように、顔を上げ俺を見る。
「今までありがとう、コウスケ。
私のわがままから、この船に乗せてもらったけど、いい勉強をさせてもらったわ。
これからは、お爺様と一緒に遺跡調査に集中するわ」
「私も、お嬢様ともどもお世話になりました!」
ニニシアさんとマナルルさんが、俺に挨拶してくれたようだ。
これから、二人を送って行くけど、少し寂しくなる・・・・・かな。
▽ ▽
クリス大使に挨拶を済ませて、俺たちは惑星『シンガー』を後にする。
モニター越しに、クリス大使に挨拶をしている時も、その後ろでは、救助してきた人たちが、宇宙船からぞろぞろと降りる姿を見ることができた。
忙しい中、挨拶する時間をとってくれたみたいだ。
惑星『シンガー』を後ろに見ながら、宙域を進んでいる時も、周りには『緑の部隊』の宇宙戦艦と思われる船が、何隻も確認できた。
後始末と、警戒をしているのだろう。
戦争が終わったからと言って、戦闘が無くなった訳じゃないそうで、生き残りや無駄な抵抗をするもの、また、宇宙海賊もいたそうだ。
戦後処理は大変そうだ。
『マスター、惑星『クトゥ』へ向けて亜空間長距離ワープに入ります!』
「よし、エヴァ、座標チェック!惑星『クトゥ』に向けて発進!」
『座標チェック、完了!惑星『クトゥ』に向けて、ワープ!』
いつもの掛け声に、いつもの景色の変化。
これで、ニニシアさんとマナルルさんを惑星『クトゥ』にある宇宙探査船に送って行ける。
日数は五日。
亜空間航行をして、目的地を目指すのだ。
▽ ▽
『「「かんぱ~い!」」』
亜空間航行四日目の夕食。
今日は、明日いよいよお別れとなる、ニニシアさんとマナルルさんのために、残り少ない食料を使ってパーティーをすることにした。
もちろん、いろいろと材料が無くて、質素になってしまったが、二人とも喜んでくれた。
「クゥ~……、このドリンク、美味しいわね!」
「それ、俺の故郷じゃあ一般的なものですよ?」
「だから、美味しいんじゃない!
コウスケの故郷は、食べ物から飲み物にいたるまで、私たちの故郷ものとはランクが違うのよね~」
「確かに、お嬢様の言う通りです。
誇っていいんですよ?加藤様」
「……まあ、ありがとう」
そんなに、彼女たちの故郷の食べ物とか不味いのかな?
「……そういえば、俺たち、こんなにあちこち飛び回っているのに、その場所の料理って食べたことなかったな……」
『そう言われてみれば、そうでしたね。
いつも、宇宙船の中で料理して食べてましたから……』
会議室とか、相手と話し合う時も、飲み物は出てくるけど、食べ物は無かったな……。
……これは、損していると思えないかな?
ここは宇宙だ。
地球以外の食べ物が、たくさんある場所だ。
いろんな食べ物に、挑戦してもいいのではないだろうか?
……そのために、病気とかになりにくくなっているわけでもあるし……。
いやいや、無理して食べる必要もないだろう。
会社の方針でも、自分にあった食事を推奨されているし……。
俺は、食堂のテーブルに並ぶ、地球の日本の料理をつまみながら思う。
わざわざ体に合わない料理を食べて、仕事ができなくなったらどうするのか、と。




