第43話 大気圏突入
惑星『ケルナー』が大きく見える宙域に、宇宙船『アーサー』はワープアウトした。
今回は、近づけるギリギリでワープアウトしてもらったのだ。
「へぇ~、『ケルナー』は青い惑星なんだな……」
『惑星を構成している成分は、ほとんどマスターの母星である地球と変わらないみたいですね。地球との違いは、『魔素』が大量に含まれているところでしょう』
なるほど、魔素か……。
もし地球にも魔素が含まれていたら、今ごろ俺も魔法使いかもな。
都市伝説じゃなくて……。
「カレン、研究員の人からもらった地図と、衛星軌道上からの地表を比べて投下場所を確認してくれ」
『分かりました』
カレンは、俺の指示に従いすぐに作業に入る。
まあ、作業といっても、この場でパネルを操作しメインモニターに投下場所を記すだけだ。
さらに、大気圏突入の角度とかを計算で出して、後は投下するだけ。
目的の場所に投下を確認後、ナンシー班長に連絡を入れて次の運搬依頼のあった場所へ移動する。そんな流れだな。
……まあ大変なのは、投下場所が違った時か。
「そういえば、投下場所を間違えてしまったときの対処は、どうすればいいんだっけ?」
『マスター、その時は衛星軌道上にある……ほら、アレに連絡を入れればいいんですよ』
「アレ……?」
ヘレンが指さす先にあるものを、確認するため視線を動かすと、そこには宇宙ステーションがあった。
ただし、規模がかなり小さい。
大きさは、東京にあるドーム球場の半分といったところか。
丸型で、地表に向かってまるで杖が立っているような形だ。
「アレって……」
『ええ、軌道エレベーターです。
おそらく、あそこに研究所の人達が常駐していると思います』
「……なるほど、フォローを任せる、と」
『はい』
となれば、あそこの人達に連絡を入れておくべきだな。
「オリビア、宇宙ステーションに連絡を頼む。
これから、依頼のものを投下しますから、もしもの時はフォローをよろしく、と」
『分かりましたわ』
『マスター、計算が終わりました。
エヴァ、このまま船を進めて。投下場所まで誘導します』
『了解、カレン!』
「……あれ?ニニシアさんとマナルルさんは?」
『マスター、お二人ならコンテナのところです。
これから投下ですから、避難させますか?』
「……ブリッジに上がるように言ってくれる?」
『……マスター、ニニシア様から通信です。回線を回します』
ニニシアさん、多分このまま駐車階層に残る気かな?
まさか、一緒に降りたい、とは言わないよね……。
『……つなぎします』
『コウスケ?コウスケ!聞こえる?』
「聞こえてますよ、ニニシアさん。
もうすぐ投下開始ですから、ブリッジに上がってもらえませんか?」
『私は、ここで友達のミアが降ろされるところを見ていたい!』
『加藤様、どうかお嬢様のわがままをお聞きください!』
わがままって……。
でも、友達を見送るって、降りたいとは流石に言わないか……。
『マスター、宇宙服を着て、安全装置をつければ大丈夫かと』
「うん、そうだな。友達の見送りぐらい、したいよな。
分かりました、では、ニニシアさんとマナルルさんは、すぐに宇宙服を着てください」
『もう着ているよ、コウスケ。準備は万端です!』
準備早いな……。いつもそれくらい働いてくれれば……。
「次は、安全装置をつけてください。
エレベーターの近くにあるでしょ?宇宙服の腰のところに付けるベルトみたいなものが……」
『ちょっと待って……』
投下用コンテナ射出機が作動して、ニニシアさんたちを一緒に外に出してしまわないようにするための、安全紐、みたいなものだな。
『あった。エレベーターの横についていた。
これを……取り付け……る……の……ね!』
カチャカチャという音が聞こえたと思ったら、ガチャリと何かがはめ込まれた音が聞こえた。
どうやら、安全装置をつけることができたようだ。
「それじゃあニニシアさん、もうすぐ目的の場所に着きますからね。
ついたら、駐車階層の外側の扉を開けますから」
『了解!』
俺はその返事を聞いて、カレンを見て、お互い頷きあった。
▽ ▽
「ミア、もうすぐお別れですね……」
『ニニシアさん、今までありがとう。
ニニシアさんのおやつの話、とっても面白かったわ』
「今度は、一緒に食べながら話がしたいね……」
『私も!私も、そう思ってた。
……ニニシアさんの顔は分からなかったけど、温かさは伝わってきたよ?』
「ミア……」
その時、ブリッジからアナウンスが聞こえた。
『ニニシアさん、マナルルさん、投下ポイントに到着しました。
これより、駐車階層の扉を開けます。
宇宙服のバイザーを下ろしてください』
ミアとも、これでお別れみたい……。
せっかく友達ができたのに、ここでお別れなんて……。
でも、一緒について行くことはできない。
なら、絶対また会いたい。今度は、お互いに顔を合わせて……。
『ニニシアさん、マナルルさん、今度はお互い顔を合わせてあいたいです!』
「それは私もだ!ミア!絶対、また会おう!」
「ミアさん、必ず、またお会いしましょう!」
そんな約束をしている時でも、射出機はミアの入った投下用コンテナを移動させ、斜めになっていく。
そして、扉がゆっくりと開いていく。
そこから見える惑星『ケルナー』は青く、美しい星だった……。
「美しい星だね……」
『ありがとう、ニニシアさん。私の星を褒めてくれて……』
「友達の星だ、悪く言うなんてできないよ……」
そして、扉が開けきると射出機が外へせり出していく。
それと同時に、ミアの入ったコンテナも宇宙空間へ出ていった。
『では、射出5秒前、4……3……2……1……射出!』
ブリッジからのコウスケのアナウンスが響く。
カウントダウンから、ついにミアの入った投下用コンテナは、青い星へ向けて射出された。
「ミアーー!絶対!また、会おうねーー!!」
「ミア様ーー!生きて、お会いしましょーー!」
私とマナルルは、宇宙服越しに目いっぱい叫んだ。
ミアの声は聞こえなかったが、ミアがまた会おうと言っている声が聞こえたような気がした。
青い星に吸い込まれていく投下用コンテナ。
そして、大気圏へ突入したのだろう、投下用コンテナが炎に包まれた……。
宇宙船『アーサー』が、投下用コンテナの行方を追いかけている。
コウスケ、変な気を回す男だ……。
やがて、投下用コンテナから炎が見えなくなり、青い星に消えていった。
大気圏は無事通り抜けたみたいだが、最後まで追いかけることはできなかった……。
ミア、絶対、また会おうね……。
私は、眼下に見える青い星に向かって、そう決意する。




