第42話 人体実験
宇宙船『アーサー』の駐車階層に、ある射出機に乗せられた投下用コンテナの側に、ニニシアさんとマナルルさんが立っている。
そして、ニニシアさんがコンテナに向かって話しかけた……。
「また来たぞ、ミア。
今日は、私の友達のマナルルも一緒だ」
そうコンテナに向かって言うと、隣にいるマナルルさんに挨拶するように手で促した。一方、マナルルさんは、促されて恐る恐る挨拶をする。
「は、初めまして、マナルルと言います」
そう挨拶をすると、二人の頭の中に声が響く。
まるで、テレパシーのように……。
『初めまして、マナルルさん。ミアです。
こんな姿でごめんなさい。本当なら、会って挨拶したいんだけど……』
「い、いえ、お気になさらずに……」
マナルルは、辺りを見渡すが、ここには自分とお嬢様の二人しかいない……。
ということは、この投下用コンテナの中の人なのか?と、驚いた。
「さて、昨日の続きを教えようかな?ミア」
『うん、ニニシアさんのお話聞かせて?
今日は、どんなものが出たの?』
どんなもの?おかしなことを聞くんだな、お嬢様の方を見ると、嬉しそうな顔で、今日のおやつのことを話している。
しかも、少し涎をたらしながら……。
もしかして、コンテナの中のミアさんに、毎日食べたおやつのことを聞かせていたのだろうか?
お嬢様がここに来て、何かしているのは分かっていたが、こんなことをしていたとは……。それに、投下用コンテナの中にいるミアさんと、お話しできることも初耳だ。
加藤さんは、そんなこと教えてくれなかったが……。
▽ ▽
中継基地の『ブローグ』を後にして、亜空間長距離ワープで飛んで、はや二日。
このころ、マナルルさんから、ニニシアさんが駐車階層に行って何かしていると、報告を受けた。
オリビアに、駐車階層を調べてもらうと、ニニシアさんは投下用コンテナに話しかけていることが分かった。
目的地である惑星『ケルナー』までは、亜空間長距離ワープで六日はかかる。
その間、退屈しないように話しかけているのだろうか?と思い、そのことをマナルルさんに教えると、次の日、駐車階層であったことを話してくれた。
そして、今日も、二人で駐車階層に行っている。
俺は、艦長室で、カレンと一緒に報告書をまとめていたが、少し気になった。
「なあカレン、マナルルさんの話だと、ニニシアさんは投下用コンテナの中にいるミアって女の子と話をしているそうだね」
『はい、主におやつの話を聞かせているとか』
「う~ん、内容はともかく、コンテナの中の女の子と話ができるものなのかな?」
『?現に、ニニシア様は、お話をされていますよ?』
「そうなんだけど、どうやって話が出来ているのかな?って……」
うまく言葉にできなかったが、ようやく質問の意図に気付きカレンは話をする。
『要するに、マスターはニニシア様の妄想かもしれないと?』
「もしくは、幻覚?とか……」
『フフフ、ご安心ください。昨日の夜番の交代時に、私が確かめてまいりました』
いつの間に……。
「それで、どうだった?」
『確かに、ニニシア様のように話ができましたよ。
ただ、最初は戸惑っておりましたね……』
「戸惑ってた?」
『ええ、私が人間ではないことがお分かりになったようでしたから。
ミア様は、私のことをホムンクルスと、お間違えになられていました』
ホムンクルスか……。
確か人造人間、だったかな?錬金術の最高峰とかあったな。
まあ、アンドロイドとホムンクルス、……似てなくはないかな?
「それで、カレンはどんな話をしたの?」
『私は、これからのことを話しておりました。
ミア様のこれからや、私たちのこれからなどを……』
「これからか……」
ミアって子が、これから惑星『ケルナー』へ行って何をするのか、どんな風に生きるか、とかかな。
『そうそう、ミア様に教えてもらいましたが、ニニシア様は最初、ミア様にこう質問されたそうですよ。
「ここから逃げたくないの?」って』
「……」
逃げたくないの?か。
多分、ミアって子が望めば、ニニシアさんはミアをコンテナの中から助けたんだろう。
でも、それをせずに、話をしているってことは、そういうことなんだろうな。
「ミアって子は、逃げることを拒んだのか?」
『いいえ、マスター。ミア様は、それどころか聞き返したそうです。
「なぜ逃げるの?」と……』
そして、ニニシアさんはいろいろと聞かせたり聞いたりしてしまった。
人体実験の事や、研究のためのモルモットだったのではないかと……。
そして、ミアさんは、望んで人体実験に協力したと答えた。
魔法が使えるようになるなら、そんなことは苦にならない、と。
「ニニシアさんの思いは、届かなかったのかな?」
『いいえ、マスター。そんなことはありませんよ。
ミア様は、感謝していました。
研究所の人達と同じように、私を心配してくれてありがとう、と。
それで、ニニシア様の肩の力が抜けたんでしょうね、その日から友達になったと教えてくれました……』
友達か……。
でも、ニニシアさんが助けなくてよかった。
もし、ニニシアさんが、ミアさんをあの投下用コンテナから救出すると、死んでしまうからな……。
ミアさんは、魔法が使えなくとも、あの魔素のある世界でないと生きられない。
だからこそ、あの液体には『魔素』がふんだんに溶け込んでいたのだ。
しかも、あの液体は再生医療に使われる液体で、身体の構成要素が含まれてもいる。
十年の歳月をかけて、じっくりじっくりミアさんの体を溶かしては再生、溶かしては再生を繰り返し、魔法が使える体に作り変えたそうだ。
あの投下場所を指定した研究員が話してくれた。
ミアさんの浸かっている液体の、正体についてね。
それは、確かに人体実験だ。
最初、惑星『ケルナー』から動物や魔物を回収して調べた。
そして、研究所に運ぶ前に死んでしまう。
そのことを不思議に思い研究すると、魔素がない場所では死んでしまうことが分かり、魔素を研究した。
そして、魔素は惑星『ケルナー』全体にあり、空気と同じようなもので液体にも溶けていることが分かり、再生医療用の液体に魔素を溶かして、そこに浸けて運べないか?
そんな考えが浮かび実験、そして成功。
それからは、動物や魔物、さらに植物や人を運び、構造を調べた。
そんな調査から二十年目、ミアを発見保護し、魔法が使えない人を魔法が使えるようにする実験を開始、そして十年目にして成功する。
「……よくよく考えれば、確かにこれは人体実験だな」
『おそらく、ナンシー班長様は、このようなことが行われていることを、マスターに知られたくなかったのでしょう』
「ナンシー班長が、嫌な顔をしていたのはこのことだからか……」
『これは、宇宙で活躍する人種系の裏の顔。
マスターの受けた『身体強化』も、こんな実験の繰り返しの中で生まれたものですから……』
「……今さらだよな。
人が宇宙に出ていくんだ。身体強化でもしなければ、生きていけない世界だってことはわかっているつもりだったんだけど……」
『でも、生きていけない世界を生きていける世界に変えた経緯を教えたくなかった』
……そんなところか。
さて、明日は惑星『ケルナー』に到着だな……。




