第41話 実験体の思い
……私は今、液体の中にいる……。
十年前、私は森に捨てられた。
私は、まだ小さかったけど、今でも、あの時のことは覚えている。
あの日は、私が五歳になったので、属性を調べに教会に行ったんだ。
お母さんが手を繋いでくれて、一緒に歩いて行ったことを覚えている……。
教会に着くと、私と同じ今日、五歳になった子が三人いた。
同じ町に住んでいた子だが、私は知らない子だった。
そして、教会の中に入ると、白い服を着た大きな男の人が、優しく声をかけてくれる。
『おめでとう、さ、この水晶の玉に手を当てて?』
多分それで、属性を調べたんだろう。
この世界には、火・水・土・風・光・闇・無の七つの属性がある。
それは、誰でも必ずある属性で、これがないと魔法が使えないのだ。
勿論、魔法が使えない人もいるらしいが、そのほとんどの人が、魔力を体内から外に放出できないだけで身体強化魔法などが使えるため、騎士や戦士などの武人になる人が多いとか。
それでも、属性を調べる水晶が反応しないことはない。
……そして、私が触れた水晶は、何の反応もしなかった……。
私は、魔法が使えないと分かったのだ……。
教会から帰るとき、お母さんは、手を繋いでくれなかった。
教会の人に言われたことが、ショックだったのだろう。
『お子さんは、この先、とんでもない苦労をするとこになるでしょう。
私としては、『森の儀式』を受けられることをお勧めします……』
森の儀式、要するに、森に私を置き去りにして、生死を判断しようというものだ。
このまま生きていけるのか、それとも、死んだ方がいいのか……。
そして、私は翌日、起きると森の中にいた。
周りは、木ばっかりで、町も家も見えなかった……。
ここが、どこの森かもわからなかった……。
少し何がどうなっているのか分からなかったが、すぐに母親を探して森をさまよう。
途中、何度か魔物に遭遇したが、私に襲い掛かってくると、なぜか私の側で消えてしまう。不思議に思いながらも、森をさまよい、しばらくして歩けなくなった。
私は、ここでようやく、泣いた。
泣いて泣いて、眠ってしまった……。
そして、目が覚めると、液体の中にいて、知らない女の人達が目の前にいた。
透明な板の向こうに、何人もいる。
私が、透明な板に近づき叩くと、女の人の一人が私に気付き、笑顔で手を振ってくれた。
さらに、その場にいた他の女の人を呼んで、私を指さす。
……まるで、見世物小屋の動物みたいだ……。
私が、少し機嫌が悪そうに女の人達を見ると、声が聞こえた……。
『おはよう、君の名前を教えてくれるかな?』
『わ・た・し?わ・た・し・は……』
液体の中なのに、息が出来ている。それにしゃべることもできた。
でも、聞こえてきた声は、喋らなくても考えるだけでいいよ、という。
私は、声の通りに考えて返事をする。
『私の名前は、ミア』
『ミアちゃんか、いい名前だね。
ミアちゃんは、今自分がどんなところにいるかわかるかい?』
『水の中、かな?』
『フフ、ちょっと違うね。水の中なら、息ができないだろう?』
『あ、そうか。じゃあここはどこ?』
『ここは、空の上にある家だよ』
『じゃあ、ここは神様のいるところ?』
『それに近いかもね』
『じゃあ、私のお願い叶えてくれる?』
『ミアちゃんは、どんなお願いをしたいのかな?』
『私、魔法が使えるようになりたい!魔法が使えるようになれば、お母さんのもとに帰れるから……』
私は願った、今考えれば、願ってはいけない願いだったのかもしれないけど、私は願ってしまった。お母さんに会いたい一心で……。
『いいよ、その代わり時間がかかるけど、いいかな?』
『うん!』
……そう願って、十年の月日がたち、私は運ばれる。
運ばれる前に、リューリから元の世界に帰してあげるね。と言われたんだ。
私は、魔法が使えるようになったらしい。
らしい、というのはまだ使ったことがないから。
この液体にずっと浸かったままだったから、使えるかどうかも分からない。
でも、リューリは言った。
魔法が使えるようになったわよ、って。
おめでとう、って……。
▽ ▽
氷の箱を投下用コンテナに入れ、俺の宇宙船『アーサー』へと運ばれていく。
投下装置を取り付けた、駐車階層に搬入するためだ。
投下用コンテナを見送り、俺たちは研究者の女性に呼ばれた。
「初めまして、ここの研究員のリューリと言います」
「こちらこそ、初めまして。
宇宙運搬会社『ショルフダール』の加藤康介です。
こっちは、秘書のカレン。あと仲間のニニシアとマナルルです」
「よろしく。
では、さっそく投下場所について教えておきましょう。
……これを見てください?」
研究員のリューリさんは、一枚の地図を広げると、俺たちに説明し始める。
どうやら、投下場所が指定されてあるようだ。
……ナンシー班長の資料には、投下場所は受け渡しの際に確認、とあった。
「これは?」
「惑星『ケルナー』の地図です。
この惑星は三十年前から、調べ始めていたんですよ。
まずは全体から、そして、細かいところをね」
なるほど……。この地図を見ると、この惑星は八つの大陸に別れているな。
それも、北半球と南半球で七対一で。
「それで、あの子を投下する場所ですが………ココです。
この草原へ投下してください。できますか?」
そう聞かれ、俺はカレンの顔を見た。
すると、カレンは分かるように頷く。大丈夫みたいだ。
「お任せください、必ず、指定の場所へ投下してみせますよ」
「ありがとうございます、どうかよろしくお願いしますね」
「はい、お任せください」
そう言って、俺とリューリさんは握手をする。
さらに、カレン、ニニシアさん、マナルルさんと、握手をしていった。
▽ ▽
大きな箱に入れられ、私は運ばれていく。
故郷に帰るために……。
魔法が使えるようになったらしいから、私は帰される。
でも、十年か……。
お母さん、私だって分かるかな?
……お母さん、私、魔法が使えるように、なった、よ…………。




