第40話 研究機関
中継基地『ブローグ』は、星のように丸く大きさは地球の月の二分の一だそうだ。カレンが教えてくれたから、間違いないだろう。
そして、誘導灯の先は宇宙船ドックとなっていて、全長三キロはある俺の宇宙船『アーサー』が丸々入る大きさなのだ。
また、今回の依頼は投下用コンテナの運搬と、惑星『ケルナー』の衛星軌道上からの投下というわけで、貨物室に運び入れることができない。
何せ、貨物室は投下設備がないからね。
そこで、宇宙船『アーサー』の一番下にある、駐車階層を使う。
この駐車階層は、前にも話したが小型の乗り物を泊めておく場所だ。例えば、地上を走るための車やバイク。
自転車なんかもここに泊める。
そして、今回ここを選んだのは、出入り口があるからだ。
宇宙船の下方に出入り口があり、投下するのに最適な場所なのだ。
もし、ここの存在がなかった場合、貨物室から宇宙空間に出して投下しなければならないところだった……。
宇宙船『アーサー』がドックに入りきると、すぐに壁からアームが延び、宇宙船を固定していく。
勿論俺は、アームが延びて来た時すぐエヴァに、シールドを解除するように言っておいたが……。
『マスター、彼方の責任者という方から、搬入のための出入り口から出てくれと、申し出がありましたわ』
「了解。たぶん、投下用コンテナを積み込む場所からということだろう。
今回は、駐車階層を使うから、そこを開けてくれエヴァ」
『了解、マスター』
俺とカレンは、ブリッジを出てエレベーターの前に立つと、ニニシアさんとマナルルさんが近づいてくる。
「コウスケ、私も同行したい……」
「加藤さん、お願いします!」
二人で頭を下げて、お願いしてくる。
……一応体験就職だから、同行してもいいんだけど……。
「同行は構いませんが、見ているだけになりますよ?」
「それで構わない……」
「いいですか?俺たちはあくまでも運搬業者です。
正義の味方でも、銀河警察でもありません」
ニニシアさんとマナルルさんは、頷いて同意する。
「確かに、人を助けるなとは言いませんが、後先を考えて行動してください。
赤の艦隊所属の研究機関ですが、何もあくどいことはしていないようですよ」
「……調べたのか?コウスケ」
「人体実験、とういう言葉に踊らされすぎですよニニシアさん。
清廉潔白とまでは言いませんが、健全な研究機関であることは間違いないようです」
「……そうか……」
ニニシアさんは複雑そうな顔だ。
マナルルさんは、そんなニニシアさんを見て少しホッとしている。
無茶な行動を起こしそうだったんだな……。
そこにエレベーターのドアが開き、俺たち四人は中へ入った。
▽ ▽
宇宙船『アーサー』の駐車階層の出入り口を開けると、そこにはすでに、三人の人が立って待っていた。
ここから出ることは知らせてなかったけど、よくわかったな……。
そして、完全に出入り口が開き、俺たち四人が降りて行くと、三人の男性が近づいてきた。
「今回の依頼の責任者の方ですか?」
「はい、赤の艦隊所属、ブローグ第三研究機関のジェフーといいます。
今回はよろしくお願いします」
「加藤です。こちらこそ、よろしくお願いします」
「ではさっそく、案内しますので、こちらへどうぞ」
そう言って、案内をしてくれるために俺の前を歩いて行く。
しかし、ほんとここは大きいな。
今歩いている床にしても、宇宙船が固定されてから下からせり上がってきたものだ。
案内してくれているジェフーさんによると、このドックは研究機関専用の宇宙船ドックだそうで、運搬などはここを使って行われるらしい。
今回も、ここから搬入するそうだ。
「ところで加藤さん、あの宇宙船には、投下装置はついていますか?
見たところ無かったのでお聞きしたのですが……」
「あ~、もしかして投下装置が必要になりますか?
それでしたら、あの宇宙船にはついていないんです。申し訳ありません」
俺が素直に謝ると、ジェフーさんは、苦笑いを浮かべた。
「謝らなくてもいいですよ。
そういう時は、こちらで投下装置を用意しますので、大丈夫です。
運搬業を生業としている方たちの中で、投下装置を取り付けている方が珍しいですからね」
「そうなんですね、ご迷惑をおかけします」
「いえいえ、こちらとしても投下装置を用意していたので。
では、さっそく取り付けにかかりますね。出てきたあの場所に取り付けていいんですよね?」
「はい、あの場所で構いません」
「分かりました、キニー、セルジュ」
そう言って、後ろから付いて来ていた残りの二人の男性に合図した。
合図を受けた二人の男性は、頷くときた道を戻っていく。
「あの二人が、責任もって取り付けておいてくれますよ」
「お手数おかけします」
そして、長い少し広い廊下を歩き、ようやく目的の場所にたどり着いた。
「つきました、ここに今回の投下用コンテナを準備しています。
あちらをご覧ください……」
廊下の左側が透明な壁になっていて、左の部屋の中が見えていた。
そこは大きな研究所で、体育館ぐらいあるだろうか。
中では、いろんな人たちが動いていたり、話し合ったりしている。
その部屋の左端に、それはあった。
冷気が流れているのが分かるくらい大きな氷の塊が、投下用のコンテナに今まさに納められようとしていた。
大きすぎる氷の塊で、中に女性が入っていることが遠目からでもわかった。
「あれが、例の氷漬けの女性ですか?」
「それはちょっと違うんですよ、加藤さん。
彼女は、氷漬けになっているわけではないんですよ」
え?違うの?ここから見る限り、凍っているようにしか見えないんだが……。
『マスター、ジェフーさんの言う通りです。
彼女は凍っているわけではないようです。少しですが、揺らぎが観測されました』
「揺らぎ?」
『はい、液体の揺らぎです。
おそらく、あれは氷漬けではなく、氷の箱の入れ物、といったところでしょうか』
「お嬢さん、正解です。
あれは万が一のために作った、大気圏突入用の氷の箱です。
そして、中の液体ですが、身体強化の時に使われる液体に魔素を溶け込ましたものです」
そうか、魔素が溶け込ましてあるのは、魔法が使える惑星生まれの彼女が死なないため。魔法が使える惑星で生まれ育った人は、魔素がないと死んでしまうそうだからな。
また液体にしたのも、大気圏突入などの衝撃から彼女を守るためで、氷は万が一の大気圏突入時の摩擦熱対策か……。
……なんだ、ちゃんと彼女のことを考えて対策をとっているじゃないか。
普通は、投下用コンテナだけで大丈夫だけど、万が一を考えての処置か。
「あの女性は、まだ生きているんですよね?」
「ええ、勿論です。
彼女には、惑星『ケルナー』で生きてもらわないといけませんからね」
ニニシアさんの質問に、ジェフーさんが答える。
ニニシアさん、ずっとマナルルさんと一緒に研究室を見ている。ジェフーさんに質問した時も、ずっと見たままだった。
それにしても、生きるか……。
彼女、どんな生き方をすることになるんだろ……。




