第39話 魔法が使える惑星
亜空間航行を続ける宇宙船『アーサー』の居住区内にある食堂で、おやつを食べる人たちがいた。
この宇宙船の艦長の加藤と、体験就職しているニニシアにマナルルだ。
そして、今日のおやつは……。
「美味しい!美味しいぞ、コウスケ!」
「ハム、ハム」
ニニシアさんは、一口ごとに感想を言っているが、マナルルさんは食べるのに夢中だ。
俺もまた、久しぶりのコレに夢中になるものだ。
「カレン、また新しいレシピを覚えたんだね。
この『チーズケーキ』、すごく美味しいよ」
『ありがとうございます』
満面の笑顔で、カレンがお礼を言ってくる。
ほんと、これでお店を出しても行列ができるかもね。それぐらい美味しい!
ニニシアさんとマナルルさんは、それぞれホールで食べている。
別腹というが、二人とも食べ過ぎだと思うぞ?
「ところで、コウスケ。今日も仕事の資料を読み返しているのか?」
「まあね、今度の依頼は大変そうなんでね……」
「どこが大変なんだ?荷物を受けとって、目的の惑星に落とすだけでしょ?」
ニニシアさんが、チーズケーキを食べながら聞いてくる。
フォークに刺したままのケーキを、振り回さないで……。
「それがそうでもないみたいなんですよ。
資料によれば、目的地の惑星『ケルナー』は魔法が使えるようになる惑星だそうです。ニニシアさんは、魔法って知ってます?」
「コウスケ、バカにするな。私だって『魔法』くらい知っている。
私の母星にだって、そんな書物やゲームはあったのだからな」
ニニシアさんの母星にも、ゲームがあるのか。
地球のゲームと比べて、もっと先を行っているのかな?
「それで、その目的地の惑星『ケルナー』に行けば、その『魔法』が使えるようになるのか?」
『いいえ、それは無理です。
この宇宙には、いくつかの魔法が使える惑星が見つかっていますが、そのすべてで、その惑星で生まれたもの以外は使うことができないと、分かっています』
「使えないのか……」
『それに、魔法が使える人たちも、その惑星から離れすぎると、死亡することが近年の研究で分かったそうです』
そう、カレンが説明してくれる。
魔法の使える惑星。この調査研究は、かなり前から行われていたそうだ。
最初に発見された、魔法が確認された惑星は、観光業によってめちゃくちゃになり、調査研究もできなくなってしまったとか。
そこで、魔法の存在する惑星が他にもないか調査し、次々と発見した。
発見後、連邦政府はその星の保護を目的に、観光化せずに見守ることにし、未知の魔法について調査研究のために機関を置き日夜研究している。
その惑星に住む人々の生態調査や、魔法の秘密、そして地上に降りての魔物の研究など、多岐にわたり長年研究と調査を続けて、魔法はその星に生まれたものでなければ使えないという結論を出した。
また、『魔素』という未知のエネルギーも研究していて、魔石などを使った研究も長年されていた。
「そういえば、今回の依頼、ナンシー殿があまり乗り気でない印象だったな」
「ニニシアさんも、気づきましたか。
そうなんですよね、俺もナンシー班長はどんな依頼にも冷静に対処していると思ったんですけど、依頼の内容でその理由が分かったような気がします」
「何か、あったのか?」
「……今回の依頼は、投下用コンテナの運搬、および惑星『ケルナー』への投下です。多分ナンシー班長が乗り気でなかったのは、この運搬する投下用コンテナの中身ですね」
「中身?」
「はい、投下用コンテナの中身は、人間なんです。
それも人体実験を施した人間の女性でした」
「「!!」」
俺が告げた中身に、ニニシアさんとマナルルさんは驚きの表情だ。
でも、カレンは驚かないんだな……。
「人体実験とは、穏やかではないな……」
「ですね、お嬢様……」
「まあ引っかかるところはそこですよね……」
「それに、そんな女性をコンテナにつめて衛星軌道上から投下でしょ?
そんなことして、その女性は無事なの?」
ニニシアさんが、少し怒っている。
その隣で、マナルルさんも頷いている。
「……この資料によれば、その人体実験というのが、魔法が使える惑星に住んでいた女性に対して行われたようですね。
しかも、こちらの知識を詰め込んで、帰還させるというものらしいです」
知識を詰め込むってことは、その惑星の文明の発展をさせたいのかな?
魔法文明は、総じて発展が遅いというのが今の常識だからな……。
「現地の女性を人体実験とは……」
「酷い……」
「コウスケ、その女性、助けてやることはできないか?」
「え?」
ニニシアさんが無茶を言い出したな。
そんなことは、してはいけないことになっている。
俺たちの仕事は、運搬業。物を目的の場所へ運ぶだけだ。
それ以外のことをしてはいけない。
「助けるって、どう助けるんですか?
俺たちに運搬の依頼が来たってことは、すでに実験は終わっています。
それに、もともといた惑星『ケルナー』に帰すための投下なんですよ?
俺たちで助けることは無理ですよ」
「………そう、か」
「お嬢様……」
そう、すでに実験は終わっている。
まだ元の惑星に生きて戻すだけ、倫理的なのではないだろうか?
それに、赤の艦隊の中にある研究組織は、惑星『ケルナー』でいろいろな実験をしてそこで得た知識を公に発表している。
魔法に関する知識も、そんな研究のもたらしたものなのだ。
俺だって、少し良心が痛むが、俺にできることはもうないんだよな……。
▽ ▽
亜空間航行が出ると、そこは赤の艦隊の中継基地がある宙域だ。
さっそく索敵をすると、いろんなところで引っかかるものがある。
「……これは、人工衛星かな?」
『おそらくそうでしょう。そして、あの目の前の星に見えるのが、中継基地の『ブローグ』ですね……』
「……まん丸、まるで何とかスターだな……」
「何だ? その何とかスターとは」
「俺の母星の映画に出てくる、人工の星みたいな要塞だよ。
俺の部屋に、その映画の動画があったはずだけど……」
「ふむ、後で確認しておこうか」
宇宙船『アーサー』のブリッジで、ニニシアさんの質問に答えたが、あれで中継基地って、赤の艦隊ってどれだけ大きな組織なんだろうな……。
『マスター、中継基地『ブローグ』から、誘導に従って停泊してほしいそうですわ』
「分かった。エヴァ、誘導に従ってくれ」
『了解!……誘導灯確認!』
中継基地の下方部から、誘導灯が宇宙船『アーサー』に向かって放たれている。
あれに従えってことだろう。
……それにしても、本当に大きいよな。中継基地でしかないのに……。




